2015年07月30日09時30分

新興企業の「チープな技術」がいかにして既存企業を食うか:仮想報道

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仮想報道

電子版週刊アスキーにて好評連載中の「仮想報道」よりバックナンバーをピックアップしてお届けします。アメリカの人気サイト「バズフィード」を作ったジョナ・ペレッティについてお届けした前回はこちらから。※一部内容は連載当時のままです。

Vol.855 ソーシャル・ニュースメディア「バズフィード」はどこへ行く?

(週刊アスキー2014/12/30号 No.1009より)

新興企業がいかにして既存企業を食うか

 前々回、ニューヨークタイムズがデジタル時代にうまく対応できていない自社の欠点について分析したレポートを取りあげた。そこで、破壊的イノベーションがいかにして起こるかについて、こんなことが書かれていた。

 新しい技術を使い既存企業と同じようなものを安く、しかし品質は劣る商品を新興企業が出し始める。「あんな低品質の製品は相手にならない」と既存企業はバカにする。新興企業は新しい技術を導入し、品質を少しずつアップさせていく。ある水準を超えたところで、多くの消費者が「なんだ。これでいいじゃないか」と思い始める。その転換点は突然やってくる。そうなったときに既存企業があわててももう遅い。市場のシェアを一挙に奪われ、既存企業がその地位を失う――ということが起こる。クルマもそうで、数十年前、トヨタなどはそうやってアメリカの自動車会社に脅威をあたえる存在になった。

 実際こうしたことは繰り返し何度も起こってきた。

 インターネット電話もそうだ。電話回線の王者NTTは、ネット電話など使い物になるはずがないと思っていた。低品質でまともに話などできない。そう思っていたが、インターネット回線を使った電話の品質がどんどん上がり、利用者はこれでいいじゃないかと思い始めた。

 多くの人がネットで同時に同じ動画を見るのは無理だとテレビ業界の人たちは言っていた。しかし、ネットの技術が向上し、ときどき画像が止まりはしても、まあこれでいいじゃないかと多くの人が思い始めた。

 印刷物についてもそうだ。グーテンベルク以来500年にわたって活版印刷術が使われてきた。オフセット印刷という新しい印刷技術が'80年代に出てきた。活版印刷術は版画のように紙の上から押してインクを紙に塗るので凹凸ができる。つるっとした印刷物になるオフセットではダメだと、出版業界のかなり多くの人が思った。

 ところが、業界人たちのそんな執着が吹っ飛ばされるのはあっという間だった。

 専門家や業界人は既存の世界にどっぷりつかっているので、「チープな技術」がいかに破壊的な威力を持っているか、自分たちの土台を突き崩す可能性のある技術であることに気がつかない。

 ニューヨークタイムズのレポートは、自分たちの会社をまさにこうした「既存企業」と見なしていて、自分たちを脅かす新興企業として、前回から取りあげているアメリカで人気のネットメディア「バズフィード」を挙げていた。

仮想報道
東京やベルリン、メキシコシティ、ムンバイなどへの進出や、長編まで含めた動画ビジネスへの本格参入などについて発表したバズフィードの2014年8月のプレスリリース「バズフィードはあらゆるビジネス戦線において重要な拡大をする(BuzzFeed AnnouncesMajor Expansion Across All Business Lines)」。
上記の記事へのアクセスは/こちら。

「チープなサイト」が変貌するとき

 バズフィードはもともとペットやクイズ、「○○のための7つの方法」といった軽い話題をあつかうサイトだった。バズフィードの創立者ジョナ・ペレッティ自身も、「ニュースサイト」などといった仰々しいものではなく、バイラルの実験所だと思っていたぐらいだった。

 ところがバズフィードはあつかう記事のジャンルを増やし、そのレベルをどんどん上げていく。ハフィントンポストの仕事と掛け持ちしていたペレッティが、AOLによる買収を契機にハフィントンポストを離れ、バズフィードに専念するようになってますますレベルアップした。

 政治ニュースサイト「ポリティコ」の中心的な書き手で成功の立役者ベン・スミスを雇い、政治記事をあつかうチームまで編成した。バズフィードに雇われてすぐ、ベン・スミスは大統領選挙についてのスクープを放った。

 バイラル・メディアの申し子ペレッティの才覚を持ってすれば、バズフィードが急成長するのにさして時間はかからなかったようだ。軽い話題のメディアだったバズフィードは、いまや手間もお金もかかり、ともすればニュースメディアの鬼子とも見られる調査報道にも力を入れ始めた。

 調査報道がいかに「鬼子」かは、物議をかもした朝日新聞の「吉田調書」問題からもわかる。朝日新聞は、福島原発の吉田所長の非公開の「吉田調書」をどこからか手に入れてスクープした。しかし、調書の読み方が不十分だったために謝罪し、たたかれるはめになった。ステータスが高まるはずの調査報道が逆に信用失墜をもたらすことになった。

 企業やお役所が発表したものを流すだけならリスクはないし、手間もかからない。発表の責任のほとんどは発表者にある。まちがいがあれば、まちがったことを発表した企業やお役所を責めればいい。

 一方、時間も手間もかけてした調査報道は、報道した側が責任を負わなければならない。「割が合わない仕事だ」と調査報道をやめれば喜ぶのはやましいところのある人びとで、割をくうのはじつはわれわれ国民だが、メディアのフトコロ事情が苦しい当節、手を引くところが現われても不思議ではない。ところが、バズフィードはそうした調査報道まで始めるというのだ。

 バイラルで重要な地位を築くには、独自のネタが必要だとペレッティは言う。もちろんかわいいペットたちの話を取りあげるのをやめる気はない。ペットの記事は、読者に親近感を持ってもらうにはいいコンテンツだとペレッティは思っている。

 その一方で、調査報道にもとづく独自ネタ、バズフィードでしか読めない記事を出すことがバイラルメディアで重要な地位を占め続けるのに必要だとペレッティは考える。ネットの世界は、最初はポータルが力を持ち、次は検索、そしていまはソーシャルだが、誰も知らないニュースほどバイラルなものはないとペレッティは言う。口コミで広がることが命のソーシャル時代のメディア企業には、独占スクープやオリジナルなコンテンツがカギを握るとペレッティは見ている。

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バズフィードが5000万ドルの投資を受けて何をやろうとしているかを追ったニューヨークタイムズの記事「バズフィードが箇条書きスタイルの記事を大きく超えたいと思っている5000万の新たな理由(50 Million New Reasons BuzzFeed Wants to Take Its Content Far Beyond Lists)」。
上記の記事へのアクセスは/こちら。

動画が巨大ビジネスになる?

バズフィードがいま力を入れているのはそれだけではない。動画にも力を入れている。短い動画は、もちろんいままでもやっていた。しかし、バズ(口コミ)しやすいようなそうしたコンテンツだけでなく、長編の動画も作るということで、5000万ドルの投資を得て「バズフィード・モーション・ピクチャーズ」という新会社を設立している。ペレッティは、動画ビジネスがバズフィードのサイトと同じかそれ以上の規模になると見ている。動画はモバイルやソーシャルと相性がよく、この3つは「同じことと言ってもいい」とまでペレッティは言う。モバイルではかなりの割合で動画が視聴され、共有されるからだ。

 実際、バズフィードは過去2年間で1800から1900のショート・ビデオを作り、そのうち27パーセントのビデオはそれぞれ100万回以上閲覧され、ユーチューブでの視聴回数は17億回にもなるという。

 ハリウッドのあるロサンゼルスに広大な敷地と100人を超えるスタッフをすでに準備している。ネットへの接続スピードが上がり、スマホが大画面になればなるほど動画が見られるとペレッティは考えている。

 月間1億5000万人が利用するネットメディアになっても、ペレッティは攻める姿勢を崩さない。バズフィードがいつまで成功し続けられるのか。日本にも上陸するとウワサされているが、本国同様の人気を獲得できるのか。注目される。

Afterword
バズフィードは今年前半は昨年前半の売り上げの倍になり、年1億ドルの大台に乗るという。ただし、そんなバズフィードにも弱点がないわけではない。次回は、バズフィードの強みと弱点を取りあげる。

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●関連サイト
歌田明弘の『地球村の事件簿』

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