週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

PayPal世界規模ハッカソンの日本予選 勝者は動画の良いところだけを○○しちゃうサービス

 PayPalと子会社のBraintreeが主催するハッカソンイベント“BattleHack Tokyo 2015”が2015年6月13日~14日の2日間、都内で開催された。会場となった大崎ブライトコアホールでは、参加全40チーム、スタッフ含め200名近いメンバーが24時間耐久ハッカソンに挑み、今秋にアメリカ本社のお膝元シリコンバレーで行なわれる決勝大会ワールドファイナルへの出場権をかけた勝負が繰り広げられた。

BattleHack Tokyo 2015

■舞台は世界! 巨大ハッカソンが日本上陸
 BattleHack(バトルハック)は世界各都市で予選が行なわれ、各都市での優勝者どうしがシリコンバレーの本大会へと出場して戦うというワールドツアー方式を採用している、ハッカソンでもかなり大規模なイベントだ。2015年は3回目の開催となり、東京を含む14都市で地区予選が行なわれることになる。欧州地区などでは距離的に近い位置にありながら、複数の都市で異なるタイミングでイベントが開催されるため、過去同じ年に3都市で開催されたイベントにすべて出場したチームもあったという。

 過去2回のイベントではロシアのチームとイスラエルのチームが優勝しており、Beaconを利用した募金システム『DonateNow』や、スマホどうしがP2Pでネットワークを構築できる『AirHop』といった興味深いサービスが生み出された。BattleHackの詳細は前回の記事でもお伝えしている。

BattleHack Tokyo 2015

↑会場の様子。スクリーンには定期的にTwitterの“#BattleHack”ハッシュタグによるリアルタイム中継の様子のほか、終了までのカウントダウンが表示される。写真は残り7分で終了となる、最後の追い込みタイム。

BattleHack Tokyo 2015

↑主催のPayPalや協賛メーカーらによる商品群。各チームに与えられたアピールタイムは2分。この短い間に制作物の概要やポイントを説明しなければならない。

 各チームは最大4名で、24時間以内にコードを完成させ、その後2分間のプレゼンテーション時間で、審査員に対して自身の“ハック”をアピールしなければならない。当日飛び入りでの参加も可能だが、今回は事前審査段階ですでにほぼ満席状態だったようで、大盛況だった。ハック中は飲料や食料が用意されるほか、仮眠室やマッサージも提供されるなど、24時間耐久に相応しい至れり尽くせりな内容だ。

 今回協賛している4社からは特別賞が用意されるほか、2位と3位のチームにも賞品が用意される。さらに1位には“バトルアックス”とワールドファイナル参加権、シリコンバレーへの渡航費と現地宿泊費がチームメンバー分提供される。ワールドファイナル優勝では10万ドルの資金が提供されるほか、仮に優勝できなくても世界から集まった精鋭との交流やPayPalやeBayエグゼクティブらによるアドバイスも行なわれ、さながら世界を目指すスタートアップの登竜門的な位置付けにあるといえるだろう。

BattleHack Tokyo 2015

↑24時間耐久ハッキングなので仮眠室やマッサージサービスも用意されている。

■目的はハックで世間の問題を解決すること
 ハッカソンのテーマは“Hack for Good(良いことのためのハック)”。つまり、“ハックで世間の問題を解決する”ということだ。社会問題から身近な不便の解決までテーマ設定は自由で、ビジネス性が問われない点が特徴となっている。

 制限事項は実質的に“PayPalまたはBraintreeのAPIを利用する”というだけで、協賛パートナーのAPIや製品を(極力)利用することが求められている。今回の協賛パートナーは“Pusher”、“Heroku”、“Estimote(Beacon)”、“SendGird”の4社。ゆえにPayPal機能を主軸に据えたハックもあれば、課金や送金機能を付与した程度のハックもあり、千差万別で非常にユニークだ。

 ウェブサーバー“Heroku”やBluetoothビーコン装置“Estimote Beacon”を組み込んだケースが多かったのが印象的だ。たとえば商品見本にEstimote Beaconを仕込んで成分表示などの情報をスマートフォン経由で入手できるというベーシックなものもあれば、複数ユーザーが近隣にいることをEstimote Beaconを通じて互いに認識して自動で人数分の“割り勘”を行なうアイデア勝負のアプリもあった。

BattleHack Tokyo 2015

↑Beacon装置や開発者キットを提供するEstimoteがスポンサーに入っていた経緯か、出場チームのおよそ半数がEstimote Beaconを使ったサービスを発表していたのが印象的だった。

■ワールドファイナル出場は動画自動編集の『Talk'n'Pick』に
 40チームと非常に多い参加者での覇者となったのは『Talk'n'Pick』のつくった、撮影動画の音声部分のみを自動抽出して短い動画を生成するというサービス。いろいろな今後の応用が考えられるなど、技術だけでなく、その将来性も注目されたのが選ばれたポイントだろう。

BattleHack Tokyo 2015

↑今回優勝となった『Talk'n'Pick』のサービス。アプリで撮影した動画をアップロードすると、サーバー側で自動的に音声部分のみを抽出して短い動画を生成する仕組み。

BattleHack Tokyo 2015

↑要所抽出といった使い方を想定したものだが、たまに意図しない形で動画がつながったりするので、そのあたりのおもしろさもポイント。

 24時間というハッカソンの活動タイムもさることながら、全40組が2分間のプレゼンテーションと質疑応答タイムを繰り返すことで、発表と審査だけで4時間以上かかるという非常に長丁場の耐久レースだ。BattleHackを取り仕切るPayPalとBraintreeのデベロッパーリレーション担当シニアディレクターのJohn Lunn氏は「3年間20都市以上を巡ってきたが、ここまで盛況だったのは見たことない」と日本での大規模ハッカソンの熱気に満足げな感想を述べている。

BattleHack Tokyo 2015

↑BattleHackを取り仕切るPayPalとBraintreeのデベロッパーリレーション担当シニアディレクターのJohn Lunn氏。大盛況となった初開催の東京でのイベントは、初来日の彼の目にどう映ったか。地区大会優勝チームメンバー全員に本戦への出場権とともにバトルアックスが授与される。なお、斧を持つLunn氏はスウェーデン出身で、バイキングを模したロゴデザインも本場ならでは?

 ハッカソンのポイントはその技術力やアイデアもさることながら、短い発表タイムで制作物の良さや特徴をアピールし、審査員や他の参加者らに評価してもらう必要があり、「いかにプレゼンテーションをうまく成功させるか」ということが重要だといえる。ゆえに発表を手短に行なえなかったり、発表中にWiFiやBluetoothへの接続の失敗でデモが中断したり、あるいはサーバ側の応答が遅すぎて発表中に処理が完了しなかったりして、せっかくアイデア的におもしろそうでも残念な結果に陥ってしまうことも少なくない。要領のいいチームはプレゼンに手慣れていたり、あるいは失敗に備えて実動デモは動画で事前に押さえていたりと、全体でのバランスを見るのもハッカソンの楽しさだろう。

 以下は表彰後のインタビューから、Talk'n'Pickのメンバーのコメントだ。

――今回のBattleHack Tokyo出場の感想は?

 これまでハッカソンにはいろいろ出てきましたが、(今回出した作品は)完成度的にみても一番おもしろい。結果はどうあれ、リリースしてみたいと思っていました。

――動画自動編集ということだが、もともと経験があったのか? 自動編集精度はどの程度か?

 もともと技術的には経験があり、BattleHack開催前少し前からアイデアを温めていて、今回「大きなハッカソン大会があるぞ」ということでチャレンジしてみました。いちどサーバーへのアップロード後に全貌を解析して、その最大値から望んでいるような結果になるよう閾値を設定して動画を切り落とすようにしています。けっこうおもしろい結果ができて、テンポ感のあるいい動画になります。

BattleHack Tokyo 2015

↑最後にLunn氏とともに記念撮影、メンバーのひとりはフランス出身だ。シリコンバレーでの本大会は11月中旬だが、それまでさらに腕を磨いて世界に技術力やアイデアをアピールしてほしい。

――字幕機能をつけたり、他のサービスと組み合わせると課金もしやすいし、いろいろ発展があるように思えるが?

 24時間ハッカソンという縛りがあるので、今回はオーディオフィルターによる編集のみにとどめています。アプリ側ではなくサーバーに一度アップロードしてから処理しているので、処理が楽というのもメリット。通信速度がLTEなら気にならないし、アップロード完了後数秒で処理が終わる。並列処理でスケールアウトできるようにも設計しています。

――ワールドファイナル向けての抱負は?

 日本以外でのハッカソンは初めてなので楽しみ。メンバーのひとりがフランス出身だけど、今回はフランス本国では大会がなかったので、このチャンスを活かしたい。

■11月中旬にシリコンバレーで行なわれるファイナルへ出場
 なお、ワールドファイナルの本戦では最初から新規にコーディングが必要となるので、基本的に別の作品を仕上げなければいけない。動画処理だけでなく、Talk'n'Pickのチームは以前から自動処理系のサービスを開発していたりと、いろいろメンバー内でおもしろい取り組みを続けているようで、本戦開始まで4ヵ月半かけて、さらに技術とアイデア、そして現地でライバルやエグゼクティブらと交流できるだけの英語スキルを磨いてほしい。

■関連サイト
BattleHack Tokyo 2015

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう