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ロボットベンチャー10年間の歴史でモノづくりの変遷がわかる PLEN Project

■ロボ開発の10年間で変わったモノづくりの現場
『PLEN2』は主要パーツを3Dプリンターで出力できる、小型の二足歩行ロボット。2015年3月に日米のクラウドファンディングサイトに出品されると、“プリンタブル”かつ“オープンソース”なロボットとして話題を集めた。初代モデルの開発を2005年にスタートさせていたというPLEN Project(プレンプロジェクト)の赤澤夏郎代表取締役に、ロボット開発における10年の環境変化や日米のユーザー像の違いなどについて訊いた。

 週刊アスキー5/26号 No1028(5月12日発売)掲載のベンチャー、スタートアップ企業に話を聞く対談連載“インサイド・スタートアップ”、第25回はヒューマノイドロボット『PLEN』シリーズを開発、販売するプレンプロジェクト有限会社の赤澤夏郎代表取締役に、週刊アスキー伊藤有編集長代理が直撃。

PLEN Project

↑ヒューマノイドロボット『PLEN2』。Arduino互換の制御ボードを搭載し、関節数は18個。身長は約20センチ、重さは約600グラム。価格は、完成版が12万円、組み立てキット版が10万8000円、サーボモーターとマイコンのパーツのみのパッケージは6万円。

■2005年に比べて試作のスピードがアップし、コストも10分の1程度まで圧縮された

伊藤:プレンプロジェクトの最初の製品である『PLEN 』のことからお聞きしようと思います。どういう経緯で開発が始まったのですか?

赤澤:僕が家業のシステクアカザワという金属加工の会社に入社して、2004年に社内プロジェクトとしてロボット事業を始めたのがきっかけです。最初は受託で、ほかの会社のロボット部品などをつくっていました。

伊藤:自分たちのロボットをつくり始めたのはいつですか?

赤澤:2005年6月ごろですね。その年の11月末に開かれる“国際ロボット展”への出展を目指して、開発をスタートさせました。これがPLENプロジェクトの始まりなのですが、最初から「デザイン面を少しがんばれば、頭ひとつ抜け出せるだろうな」と思っていました。というのは、当時は機能が重視され、見た目や動きにあまり注力されていないロボットが多かったんですよ。

伊藤:ちょうど二足歩行ロボが流行し始めた時代ですね。国際ロボット展での反響は?

赤澤:かなりありました。特に海外メディアからのウケがよかったですね。

伊藤:そのあと、発売が2006年の夏ですね。初回販売は何体ぐらいだったんですか?

赤澤:200体です。少しずつ売れていって、完売まで3~4年ほどかかりました。税抜きで25万円という価格ですし、なかなか一般ユーザーが気軽に買うというわけにはいかないですからね。買ってくれるのは大学とか展示施設が多かったです。

伊藤:海外との販売比率は?

赤澤:半々くらいです。2009年の“アルス・エレクトロニカ”(オーストリアのリンツで開催される国際的な電子芸術祭)での常設展示が大きかったです。

伊藤:なるほど。そのあと、いったんプロジェクトが終了して、『PLEN2』の開発までは時間がありますね。その期間はどう活動されてたんでしょう?

赤澤:大手メーカーの研究所で使われる研究用デバイスを受託開発したり、専門学校のロボット学科でのコンサルティングなどをしていました。

伊藤:では、PLEN2開発のきっかけは?

赤澤:2013年1月に大阪市主催で開催された第1回の“ものアプリハッカソン”です。僕らはアドバイザー兼審査員で参加していたんですが、モノづくりの新しいシーンが生まれつつあるのを実感しました。それと同じころに、キックスターターでkiluckの『Rapiro』が資金を集めているのを見て、「僕らもロボットをつくれる。やってやろう」と。そこからすぐにプロジェクトを再開させました。

伊藤:「今のモノづくりの文脈でPLENをつくったらどうなるか?」を実際にやってみようと思ったわけですね。2005年にPLENを開発した当時と比べて、たとえばクラウドファンディングの手法が普及したり、環境面で大きな変化があったと思います。PLEN2の開発では何が変わりましたか?

赤澤:まず試作のスピードが全然違いますよね。そのうえコストも劇的に下がっています。たとえばひとつのパーツをつくるのに、以前はスケッチを描いて3Dデータに起こし、試作屋さんに依頼して出来あがってきたモノを調整し、もう一度試作してもらってというプロセスでした。今は3Dプリンターを使って自分でつくれるモノも出てきて、そのプロセスがギュッと縮まったイメージですね。

伊藤:コスト面はどれくらい違うんですか?

赤澤:ざっくり言って、10分の1くらいですね。僕らも受託開発の経験によって成長しているので、技術力が上がっているのも大きいと思います。

■ロボOSを実装すると、PLENにはなかった文脈でロボット開発ができるようになる

伊藤:PLEN2の制御ボードはArduino互換ですが、PLEN時代のマイコン部分はどうなっていたんですか?

赤澤:ARMのマイコンで、外注していました。オープンソースのコミュニティーで実績あるマイコンを使えるようになったのも重要な違いですね。

伊藤:インテルの“Edison”を搭載しているモデルもありますが、こちらは?

赤澤:Edison搭載モデルは開発者向けですね。一般向けは胴体部分にArduinoのボードが入っていて、頭の部分にブルートゥースと6軸の姿勢制御センサーが入っています。開発者向けモデルはロボット開発用ミドルウェアの“ROS”(ロボOS)を実装していて、そのためにはEdisonのような小型PCが必要になるんですね。

伊藤:頭部分に入るのですか?

赤澤:そうです。少し設計を変えるとギリギリ入るサイズなんです。これがあると、“ネットワーク化”とか“IoT”といったPLENにはなかった文脈でロボット開発ができるようになると思い、導入を決めました。

伊藤:ROSを実装することが目的で、Edisonを搭載するのはその手段だと。なるほど。ROSを実装することによるメリットは何なのですか?

赤澤:ネットワークに入れるようになったり、用途に応じたカスタマイズが可能になったりします。カメラを搭載したらその画像の処理ができますし、ほかのデバイスと連携できるようにもなりますね。

伊藤:つまり、自分でロボットを開発する場合に、可能性がグッと広がるわけですね。今は、クラウドファンディングでのプロジェクトも好調ですね。

赤澤:日本のきびだんご、米国のキックスターターともに目標を達成しました。

PLEN Project
PLEN Project

↑日本の“きびだんご”と米国の“キックスターター”という2つのクラウドファンディングで資金集めを実施。きびだんごでは328万円、キックスターターでは6万6420ドル(約794万円)を集めて目標に到達。

伊藤:3月に“サウスバイサウスウェスト”(SXSW。米オースティンで毎年開催されるIT&芸術イベント)に参加したあと伸びましたか?

赤澤:はい。米国ではグッと伸びましたね。

伊藤:SXSWでの反響はどういう感じだったんですか?

赤澤:日米の違いでハッキリしているのは、米国だと“DIY”とか“3Dプリンター”というキーワードに対する食いつきがすごくいいんです。逆に日本は、完成品を求める傾向が強いですね。サポートもしっかりしていないと製品として認知されないんですが、米国人は「いいよ、自分でいじるから」という感じで気にしない。

伊藤:そこは文化の違いですね。スタートアップ企業に対しても好意的ですからね。

赤澤:SXSWの僕らのブースも手づくり感があふれていたみたいで、すごく好評でしたね。

伊藤:いいですね(笑)。ところでクラウドファンディング終了後はどういう予定ですか?

■“プリンタブル”なロボットを目指すからにはすべてプラスチックで構成すべきと考えた

赤澤:開発は順調に進んでいて、完成版と組み立てキット版は11月に出荷予定です。サーボモーターとマイコンのパーツだけを売るパッケージは、8月に出荷する予定になっています。

伊藤:パーツだけのパッケージを買う人は、全体のどれくらいの割合なんですか?

赤澤:これもおもしろいことに、日米で傾向が逆転するんです。日本だとごく少数なんですが、米国のキックスターターだとパーツ購入がすごく多いんです。

PLEN Project

↑PLEN2の主要パーツは3Dデータを無償で公開。ユーザーは自分でカスタマイズし、出力して利用できる。

伊藤:へえ! そのユーザーたちは、あとから3Dプリント用のデータを入手して、自分たちで出力するわけですよね。

赤澤:そうですね。こちらはあまりそういう状況を予想していなかったんですが、「3Dのデータ形式はなんだ?」というような質問が多く寄せられたのもあって、STL形式の図面だけのつもりだったのを、ソリッドワークス形式なども前倒しで用意することにしました。

伊藤:いい意味での想定外の状況で、興味深いですね。それにしても、ロボットを売っているのに、ロボットの外装は売らないというモデルは新鮮に感じられます。今の時代だからこそ可能なやり方ですよね。

赤澤:そういうやり方も違和感がなくなっているというか、今のモノづくりの文脈にマッチしているんだろうなと思います。

伊藤:現行のPLEN.Dと新型PLEN2の可動部分は、同じようなつくりなんですか?

赤澤:基本的には同じです。違いとしては、PLEN.Dは金属製の骨組みをプラスチックで覆っている構造ですが、PLEN2のほうはすべてプラスチック製です。“プリンタブル”なロボットを目指すからには、プラスチックで構成すべきですよね。ネジでさえも、できるだけ使わないようにしたいと思っています。

伊藤:たしかに、PLEN.DとPLEN2を並べて見てみると、かなりシンプルになっていて“進化”が実感できます。パーツの点数も減っていますよね。

PLEN Project

↑初代をベースにした『PLEN.D 組み立てキット一式』は、DMM.make ROBOTSで直販価格18万1440円で発売中。

赤澤:減っていますね。これでネジなしを実現できたら、もうこれは“3Dプリンターロボット”だろうと思います。

伊藤:この連載で以前に取材したexiiiの筋電義手『handiii』も、大半を3Dプリンターで出力したパーツのみでつくれるような設計を意識してました。体に合うサイズが違っても3Dデータなら金型をつくるよりは容易に縮小できる。関節を完成品状態で出力できるのはコスト的にも有利。3Dプリンターでないとできないことです。

赤澤:「こういうロボットをまるごと出力できるんです」と言うと、未来感もあるし、可能性がグンと広がるイメージになる。これで実現できるモノについて、すごく伝わりやすくなるんです。

伊藤:わかります。実際には簡単ではないけど“できそうな感じ”になって来たのが今なのかなと。では最後に、今後の展望について教えてください。

赤澤:ユーザーどうしが3Dデータをやりとりするような場を提供することは考えていて、これは今後のビジネスの核になると思っています。ロボットなので外装の3Dデータだけではなく、アプリや動作を制御するソフトなども出てくるでしょうし、ロボット版AppStoreのような場に育てたいな、と。そのためにも、Arduino互換のメリットを生かせる開発環境“Scratch”連携も絶対に実現したいと考えています。

伊藤:ああ、それは素晴らしいです。教育用という用途を訴求するときに、メッセージ性がすごく高まりますよね。今年はPLEN2の開発に注力していくのだと思いますが、次世代モデルの構想もあるんですか?

赤澤:サーボモーター側からマイコンに情報を送れるようにしたいとか、サイズをもっと小さくしたいなど、イメージはあります。将来的にはカメラを搭載したりして“リアルアバター”的な存在にしていきたいですね。

PLEN Project

プレンプロジェクト有限会社
代表取締役

赤澤夏郎
 
1971年生まれ。2004年にシステクアカザワに入社後、社内でロボットベンチャーを立ち上げてロボット開発をスタートし、2006年8月に『PLEN 』を発売。今年3月には、『PLEN2 』の事前予約をクラウドファンディングで開始。

■関連サイト
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