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マイクロソフトとスマホの未来がわかる本 by山根康宏

スマホでアップルに負けてるマイクロソフトの業績が絶好調な件』(2015年3月13日発売)
 好評発売中のITジャーナリスト山口健太氏の著作『スマホでアップルに負けてるマイクロソフトの業績が絶好調な件』の書評を携帯電話研究家山根康宏氏に寄稿していただいた。

スマホでアップルに負けてるマイクロソフトの業績が絶好調な件

 業界の内輪ではWPJ(Windows Phone Journalist)とも呼ばれている山口健太氏。同氏の初めての書籍『スマホでアップルに負けてるマイクロソフトの業績が絶好調な件』が上梓された。この本のタイトルのとおり、マイクロソフトのスマートフォンは長年にわたり劣勢が続いている。しかもPC向けのWindows8では従来の操作体系とは大きく異なるモダンUIを採用したことで、企業ユーザーを中心に大きな混乱をもたらしたことは記憶に新しい。

 だが今年登場するWindows10はPC、タブレット、スマートフォンのすべてが“融合される”初めてのOSとなる。アップルもグーグルもモバイルとPCの間ではOSが分断されているが、マイクロソフトはその融合を他に先駆け実現しようとしている。この動きはモバイル業界におけるマイクロソフトの存在感を一気に高めるものになるかもしれないのだ。

マイクロソフトとスマホの未来がわかる本

↑次の海外出張先に向かう山口氏。マイクロソフトの動向を追いかけて世界中を飛び回っている。

 マイクロソフトのスマートフォンと言えば『Windows Phone』の名が思い浮かぶ。だがマイクロソフトのスマートフォンの歴史を紐解くと、その起源は今から15年以上も前の1997年に発表された『Microsoft Windows CE 2.0』あたりになる。当時のライバル製品は、今はなき『パーム(Palm)』だった。そのころの端末はまだ通信機能を搭載せず『PDA』と呼ばれており、パソコンのデータを転送して持ち出したり、あるいは外出先で作成したデータをパソコンに書き戻す、といった用途で利用されていた。

 Windows98というデファクトスタンダードなパソコンOSを持つマイクロソフトがモバイル端末に参入した当時、Windows CE 2.0はやがてPalmのシェアを抜き去るものと見られていた。しかしマイクロソフトの参入は逆にシンプルなUIと快適に動くPalm人気を高めるものとなってしまった。その後マイクロソフトはPocket PC、Windows Mobileとその名を変えながらモバイル端末市場での覇権を奪おうと製品の開発を続けていったが、シェアを寡占するまでには至らなかった。

マイクロソフトとスマホの未来がわかる本

↑筆者も愛用していたPalmマシン。Visorの携帯電話アダプタが出ていたがデータ通信はできなかった。

 しかもPalmの牙城を崩したのはマイクロソフトではなく、今の時代のスマートフォンの元祖ともいえる、ノキアのSymbianだった。携帯電話で圧倒的なシェアを誇っていたノキアがスマートフォンに本格参入したことで、スマートフォンは誰にも手が届くフレンドリーな存在になっていったのだ。ノキアは物量戦略もすさまじく、カジュアル向けからビジネス端末まで毎月1機種以上を市場に投入。最盛期は4ケタ型番の通常モデル、ビジネス向けE Series、スタイリッシュなN Seriesと3つのラインナップを持っていた。古くのスマートフォンユーザーなら数年前は日本でノキアの製品を使っていた人も多いだろう。

 そのノキアもアップルのiPhoneが登場するや一気にシェアを下落させていった。携帯電話からインターネットの世界へアプローチを試みたノキア・Symbianの世界はできることが限定的だった。それに対しアップルはインターネットの世界を携帯電話に持ち込み、広大に広がるインターネットを使いやすいアプリで提供し大成功を収める。数の上ではAndroidに抜かれたものの、スマートフォンの中心的存在がiPhoneであることは世界中の誰もが認めるところだ。

マイクロソフトとスマホの未来がわかる本

↑今となっては想像もできないが、つい数年前まではノキアがモバイル業界の中心だった。

 このようにモバイル業界で存在感を高められなかったマイクロソフトが、どうしても追い抜けなかったノキアを買収し、そしてそのノキアを抜き去ったアップルやグーグルに挑もうとしている。先日までスペインで開催されたMWC2015のマイクロソフトの発表会では新型スマートフォン『Lumia640』、『Lumia640XL』が発表されたが、発表会で力説されたのはWindows10後のPCとのシームレスな融合やマイクロソフトサービスの共用だった。発表会が終わったあと筆者が感じたのは「Lumiaはスマートフォンではない」ということだ。

マイクロソフトとスマホの未来がわかる本

↑MWC2015でLumia640/640XLを発表するスティーブン・エロップ氏。スマートフォンとしてよりもWindows10対応端末としての説明に重点が置かれた。

 つまりWindows10では、画面サイズの大きさ以外でアプリやデータの利用を区別する必要が無くなる。すなわちWindows10はスマートフォンと言う概念そのものをなくしてしまうかもしれないのだ。

 そう考えると、Windows10の登場はスマートフォンを改めて再定義するものになるのかもしれない。山口氏は海外で開催されるマイクロソフトのイベントにも多く参加しており、しかも限定メディアしか入場できないイベントにもぐりこむなどその情報収集力は大したものだ。この書籍はマイクロソフトのここ数年のWindows戦略を知るには最適であり、スマートフォン市場のこの先の動向を知りたい人にぜひおすすめしたい。

マイクロソフトとスマホの未来がわかる本

↑筆者も元々はブロガーだった。山口氏とは意外と海外で一緒に行動することも多い(2014年2月、北欧のフェリー上で)。

 週アスPLUSでも屈指の人気連載“Windows情報局ななふぉ出張所”を執筆中、マイクロソフトとスマートデバイスの話題を追いかけて、1年の4分の1は海外と、世界を股にかける若手ITジャーナリスト山口健太氏が手掛けた初の書籍が2015年3月13日に発売。

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