2015年03月31日08時30分

「サンマ、食べられなくなるかも……」完売続出、大逆転の魚屋はなぜできた?フーディソン山本徹代表

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 水産庁によれば日本は世界有数の魚食大国。人口100万人以上の国の中での1人当たりの食用魚介類供給量が世界一と言われる一方で、“魚離れ”も進行している。年々増えている肉類の摂取量に対して、2001年以降魚食はダウントレンドにある。

 原因は一概には言えないが、消費者へ新鮮で美味しい魚を安く届けるという点で、流通・販売モデルの影響が指摘されている。1980年代以降、スーパーなどの大手チェーン店に向けた大量仕入販売が中心になってから30年以上が経過した現在、社会の変化に業界のモデルが伴わなくなった。

「ITインフラの普及と急激な技術革新、ロジスティクスの発展にもかかわらず、市場流通機構は現在に至るまで前時代的な市場のままにとどまっている」と語るのは、Foodison(フーディソン)の山本徹代表取締役。大手中心の市場では、大量仕入れで単価を下げるため、漁獲量の少ない魚・売りにくい魚の取り扱いは減っていく。生産者と消費者をつなげる市場の機能はそのままでも、単価が下がり、割を食った生産者が追い込まれているのが現状だ。

 フーディソンが取り組んでいるのは、”ITを活用した水産流通プラットフォームの再構築”だ。価格決定機能、マッチング機能、集荷機能、分荷機能、決済機能を有したITプラットフォームを中心に、生産者・量販店/飲食店・消費者をつなぐ仕組みをつくる。同社は2013年4月に立ち上げのまもなく3年目に入るスタートアップ。

 店舗・EC・BtoB卸など一式で、産地から消費者までをつなぐビジネスの成り立ちを聞いた。

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山本徹代表取締役。社名の由来は、フードとエジソン。鮮魚だけで終わるつもりはない。


■農産物直売所内の魚屋で気づいた矛盾

 山本代表には、もともと水産業の経験はない。起業にあたっては経験しながら事業を行って学ぶスタイルで、最初に始めたのが小売店だった。

 埼玉県日高市のスーパーの一角。農産物の直売所の片隅で始まった魚屋だが、高齢者世帯が多く人口も少なくなった住宅街で「ビジネス的には推して知るべし」(山本代表)というスタートだった。

「なぜECではなく小売りから始めたかといえば、既存の流通に入ってみる観点から。取引について事前情報は仕入れていたが、現場とは矛盾していた。市場があるから『高くも、安くもなる』のはどちらも正しいと気づいた」

 スーパーより市場での値段は安いが、そもそも魚がない場所では、需要と供給から値段が上がっていく。直売所に近い埼玉県の市場関係者は「築地で買うより安い」と言うが、市場から1つ1つのオペレーションを積み重ねた結果、値段は跳ね上がっていた。30年以上変わらないままの流通による値付けには、生産者へのフィードバックもなければ、消費者への説明もない状況だった。

 現場を見た直売所からは3ヵ月で撤退。今度は飲食店向けの卸とECが2013年7月から始まる。「水産流通を構成する要素としてEC、小売り、飲食店は注視していた。成功しているプレイヤーでは売り上げ200億・郊外型300坪の魚屋・角上魚類などがあったため、小売で儲かっているところとの差が実感できた。もしECだけだったら直接届ける仕組みは考えられても、魚をさばけない人にどう提供するのかという視点はない。産地から未加工の丸魚が5本くらい送られてくるようなサービスは、趣味でしか使われない。ECだけで進める難しさがわかった」

 産地とつながるため、各地の漁協に営業電話をかけ続けた。「水産業界は固定客がメイン。買いたければ築地にくればいいスタンスなので、新規で営業をやるところがなかった。腐るまでの期間が決まっている魚の流通は独特で、『間で買いたいです』という人は入れてもらえる」

 最初の固定の仕入先ができるが、当時のフーディソンは山本代表と共同創業者の二人だけ。卸値の相場も知らないため、客に値段を聞かれてもわからない状態だった。7月から10月までは、飲食店向け事業のテスト期間となる。「そもそも市場関係者は生ものとして扱ってさばくが、築地はプロ向けのマーケットだった。目利きができないとたやすくぼったくられる。『おっ、(何も知らない)異業種参入がきた』という状態で当時は相当ふっかけられていた」

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既存流通・生産者の問題点は多岐にわたる。

 これまでの水産業界できていなかった利便性の高いサービスをどう提供するか。山本氏が仮説含みで見ていた、小売り・レストランや料亭向け卸・鮮魚直送ECの3つがここで重なった。

 まず行ったのが魚のデータ化だ。ITの利便性をシステムとして提供しながら、飲食店向けのボリュームゾーンを獲得していく戦略をとった。品質・価格を重視するアッパー層や大手顧客とボリュームゾーンの中間層を狙った。産直の魚とITによる利便性を使い、産地からより多くのものを仕入れればコストも下がるし品質も上がる。

 漁業者や築地市場の仲卸会社など50程度の取引先と連携。利便性を重視し、卸での付加価値の提供を目指した。飲食店への納品のリードタイム短縮や市場の需給予測を実施し、将来的には飲食店からの発注状況予測も見込む。

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にぎわう鮮魚店"sakana bacca"(サカナバッカ)。店内には新鮮で希少な魚も産地直送で並ぶ。

 最後の重要なピースが2014年12月オープンした小売店”sakana bacca”だ。武蔵小山と中目黒に現在2店舗ある。ただの小売店ではなく、加工も含めて周囲の飲食店に新鮮で加工しやすい魚を提供する役割ももつ。ECだけ、卸だけでは負担となってしまう加工場所の確保だが、小売店の中に設けることで大きな武器となる。

「結果としてsakana baccaには、収益だけではないそれ以上の価値を見込んでいる。もちろん、メインは小売店単体で成り立たせるつもりで、地域ごとのフラッグシップとして周辺の飲食店へアピールできる。酒のカクヤスの鮮魚版。消費者だけでなく、ビジネス向けでも利便性で価値を生み出している」

 酒類と違い、保存の効かない魚をデータで見て受発注のバランスをとる。特に飲食店の発注は必要な見込みも立ちやすいという。小売りはスーパーが競合になるが、仕入れの頻度・売り切るための工夫では、圧倒的に店舗でのロス率が低く、結果鮮度が常に高く、コンセプトが明確で試食もできる楽しさもある店舗ができあがった。「鮮魚の小売りでは概してみなさん不満がある、おいしくて適正で、魚が好きな方がリピートしてくれている」

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流通のハブとなるsakana bacca。


■鮮魚における流通の要素は出尽くしている

 ここまで行っているが「まだ一部非効率を排除しているだけ。完全なIT化ではない」と山本代表。

 水産業の流通オペレーションをたどると、まず産地で市場が値付けされ、紙に値段が書かれて消費地近くの市場へ運ばれる。ここでキロ単価が設定されようやくデータとなる。FAXでデータ送付し、再びFAXで集めた注文をもう一度データにする流れが際限なく繰り返されている。

 そこでフーディソンでは、FAXで情報を送った先、東京・集積地から先をデータ化している。

「データ化さえできればこちらのもの。(商品が)入ったときにどう入れればいいのか、どのように産地からあがっていくのか。物流にもつなぎ合わせられるので、起点は前倒したほうが早い。だが、その利便性は刹那的なもの。差異があるうちに、産地、小売店につなげられるようにしたい」

 鮮魚の流通については、要素は全て出尽くしていると山本代表。あとはどの部分をITで内包すべきか否かを考えるだけで、既存流通とは相対的にいいサービスがどこでもできるという。

 直近事例では、地方創生での取り組みがある。「これまで産地側のニーズ・自治体側のニーズはあっても、産地の拡販希望に対する予算に対しては、パンフレットをつくるだけなどで終わり、有効に機能しなかった。フーディソンには、消費地でもっている機能、小売り、飲食店のネットワーク、『日々魚がほしい』というコネクションがあるため、それを適切な組み合わせで自治体に提案している」

 3月30日に発表された、国家が進める地方創生の水産において初の事例で、産地からのマーケティング役として、エンドユーザー・飲食店のやり取りで定常的に販売されるネットワークをつくる試みが始まった。

 第1弾となる福井県坂井市との北陸新幹線開通記念フェアでは、地方創生交付金による助成により甘鯛やメバルといった北陸の旬の味が全て4割引の販売価格1000円にて、sakana bacca店頭で提供される(4月28日~5月27日予定)。飲食店向けの試食会も同時に行い、都内での地方名産の鮮魚の消費を拡大する狙いがある。

 事業化のチャンスもまだまだ多い。例えば、1日あたり3時間ほどの業務を減らしたパートナーの仲卸がいる。全て手書きの業務で、集めた魚の詰め替え時に手書きの紙の指示では誤配・遅配が起こりやすかった。そこで、発送表のシール化から改善を実施した。

 要素が出尽くしており、多数のコンサルタントも入っているのに変わらなかった理由、硬直した業界が抱えるジレンマを山本代表は指摘する。「手元で小さく改善できるところはあるが、『今日の売り上げがあがるのか?』といった短期的視点でしか見ていない。業務を要件化してシステム化する発想がない。一方、外部のIT系プレイヤーがパッケージを提供しにきたとしても、内部のオペレーションを理解していないため、フィットするシステムが提供できない」

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フーディソンが構築する全ての関係者がそろっているプラットフォーム。


■ミッションやビジョンはなぜ必要か

 そもそも現在のフーディソンの成り立ちには、山本代表も立ち上げに参加した医療系人材マッチングサービスのエス・エム・エスでの経験が大きい。

 当時の立ち上げで重要されていたのは、”ビジネスとして成功させる”スタンスありきだったという。「個人の認識としては22歳の若者の自己実現が主。『未来を展望してこうありたい』といったミッションではなく、『事業になりそうなものがある、世のニーズが何かあるのでは』という始まりだった。事業を回すなかで、必要に迫られてミッションがつくられた」

 すべてのスタートアップに最初から明確なミッションやビジョンがあるわけではない。事業拡大などにともない、ミッションやビジョンが形成される例もある。企業理念に共感する社員が加わることで、より会社の方向性は固まっていく。

 山本代表にとっては、それが当事者ではない違和感につながった。「ベンチャーをやろうと新卒1年2年の社会人が集まって立ち上げた人材紹介事業だったが、やっている仕事にどんな意味があるのかという迷いが途中で生まれた。自分でもチャレンジしたい思い、人生の残り時間を認識したなかで当事者としてやりたいという思いが強くなった」

「必要に迫られるのではなく、未来のビジョンありきからのスタートで事業をやりたかった。当時行っていた転職支援などは、自分は提供する側でしか見れず、事業寄りの視点にもなるため、身近なテーマがほしかった」

 事業を探すなかで出会った漁師との話から、水産業界に対して深い問題意識を持った。「当たり前の秋刀魚が、将来的には漁師人口の減少と高齢化に伴い食べられなくなるんじゃないか、という強烈な危機感を持った」

 今後、生鮮から食品に入ることは当然考えているが、魚もまだまだこれからだと語る。現時点でほぼ目標どおりで通期の売り上げは約2億5000万円。営業利益は真っ赤だが、単月での黒字化は近いという。

「ミッション・ビジョンが明確に共有され、事業は強くなった。事業としての根本をハッキリ定めることは、『なぜ仕事をがんばるか、人生をどうしたいか』につながる。(起業に携わった)1社目の経験を経て改めて、ミッションやビジョンがあることで『限られた現在という時間の枠を超えて、未来に結果を残せることができる』と思っている」

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写真:フーディソン、編集部

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