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「2016年がVR元年になればいい」 SCE吉田氏が語る新型Morpheus(前編):GDC 2015

2015年03月10日 14時30分更新

文● 広田稔 編集●アキラ

 GDCに合わせて、ソニー・コンピュータエンタテインメントはPS4向けVRヘッドマウントディスプレー『Project Morpheus』の新型を発表した(ニュース記事)。同時に新たな4種類のデモも制作して、プレスや関係者にお披露目している。

新型Morpheus(前編):GDC 2015
↑SCEワールドワイドスタジオのプレジデント、吉田修平氏

 筆者も実物を体験して、電撃オンラインに寄稿したが、ソフトにおける完成度の高さにうなってしまった。その興奮のまま、SCEワールドワイドスタジオのプレジデント、吉田修平氏にインタビューする機会を得た。新コンテンツのポイントやソフト開発について、吉田氏が語ったメッセージをまとめていこう。

■ VRで何が楽しいのかは、つくってみないとわからない

―― 先ほど新しい4つのデモを試遊しましたが、すごく驚きました。いずれもCGの中に入って、さらに自分がバーチャル世界に干渉できているという感覚を非常に強く感じました。例えば、『Magic Controller』では、手に持ってるコントローラーがCGとして出現して、リアルの姿勢にぴったり合わせて動いてくれる。この追従性がスゴい。

新型Morpheus(前編):GDC 2015
新型Morpheus(前編):GDC 2015
↑Magic Controllerは、DUALSHOCK 4のタッチパッドやボタンを押すと、ロボットが出てきて、リアクションを取ってくれるというVRコンテンツ。

吉田 DUALSHOCK 4の背面にLEDをつけたのは、このVR向け位置トラッキングがやりたかったからなんです。しかし、PS4を発表した当初は、Morpheusの開発が表に出てなかったので、なぜLEDがあるのか説明できなかった。一部のユーザーからは「部屋を暗くして遊びたいときに光が邪魔だから消してほしい」とお叱りの言葉をいただいたこともありましたが、「いやそれは……」と言えなかった。

―― 確かに。

吉田 Morpheusは、頭につけるHMD、DUALSHOCK 4、モーションコントローラー『PlayStation Move』のすべてを、ひとつのPSカメラで位置トラッキングできます。これはデベロッパーにとって、各デバイスの3次元座標を取りやすくて、ゲームを開発しやすい。

新型Morpheus(前編):GDC 2015
↑Magic Controllerの体験中は、こんな感じでMorpheusのHMDとDUALSHOCK 4のLEDが輝いている
新型Morpheus(前編):GDC 2015
↑PS Moveは、PS3時代の周辺機器。棒の先に丸いLEDが付いており、両手に持って動かしたり、人差し指でトリガーを引いたりしてゲームを操作できる。

―― DUALSHOCK 4のLEDは背面だけなのに、ひっくり返してカメラから見えなくしても、わりと位置を検出してくれました。

吉田 見えないときは内臓センサーで補正しています。そのままLEDが見えないと、いずれはズレてしまいますが、結構それっぽく動いてましたよね?

―― 結構というか、普通に気づかないレベルです。

吉田 DUALSHOCK 4は、PS4ユーザーならみんな持ってるので「こういう使い方ができますよ」と提案しやすいんです。PS Moveのほうが、例えば銃を撃つなどの面白いVR体験ができますが、持っている人はDUALSHOCK 4より少ない。去年にお披露目した深海でサメに襲われる『The DEEP』は、DUALSHOCK 4で銃が打てましたよね。あれはあまり激しくなく2次元的な動きなので、DUALSHOCK 4でも3次元でトラッキングできています。

―― それにしても開発者の間では、「ゲームコントローラーで操作してもらうと、リアルとバーチャルの姿勢が変わってVR体験の質が落ちてしまう」と言われてきたのに……。

吉田 そうなんです。だったらコントローラーをバーチャル世界に入れてあげればいい。逆の発想ですよね。

―― スゴい。銃を撃つといえば、『The London Heist』も面白かったです。PS Moveでトリガーを引いて、引き出しを開けてモノを探したり、片手でハンドガンを持ちつつ、逆の手でマガジンを探して装着したりと、バーチャル世界により多くのアクションが取れました。

新型Morpheus(前編):GDC 2015
新型Morpheus(前編):GDC 2015
↑The London Heistは、PS Moveをフル活用したゲームデモ。説明されなくても、PS Moveでバーチャル世界の中に出てくる手を動かして、トリガーを引くことで目の前のものを拾ったり、アクションを取ったりできるとわかるのが面白い。

吉田 あれって性格が出るんです。慎重な人は、あらかじめマガジンを全部机の上にならべておいて、「さぁこい!」みたいな。

―― (爆笑)

吉田 女性の中には「キャー」と叫んでしまって何もできない方もいらっしゃいました。うちの広報の偉い人もそう。みんながどう反応するのか見るのも楽しいです。

―― 初代からある『The Castle』も、PS Moveを利用して脇にある武器を抜いたり、ボウガンを打ったりとさまざまなアクションができました。The London Heistでは、弾切れになったら手を動かしてマガジンを交換するなど、その楽しさがさらに深まった印象です。

新型Morpheus(前編):GDC 2015
↑東京ゲームショウなど国内のデモでもよく披露されているTHe Castle。PS Moveで武器をとって、目の前のダミー人形をボコボコにできる。

吉田 結構みなさんいわれるのが、右手で銃を取って、左手でマガジンをカシャっと詰めるのが楽しいと。

―― わかります(笑)。バーチャル空間でリアとル同じことができるんだっていう感動がありました。

吉田 そのバーチャルリアリティで何が楽しいかっていうのは、つくってみないとわからないんです。以外と目の前の引き出しを開けるだけでも面白いっていう。

―― そうですね。The London Heistでは、最初、右手の扉に鍵がかかってて、引き出しを動かそうとしても開かない。で、左の扉を引っ張ると鍵が発見できて、差し込んでひねると開くという。

吉田 そしてダイヤモンドが入ってましたよね。VRでは、実は何かを動かすだけでもゲームになってしまうんです。今まで考えていたよりゲーム性をゆるくしても、ユーザーは体験そのものを楽しんでくれる。逆にあまり難しくしなくてもいいかもしれません。そうした点で、VRはうまくつくれば今のゲームよりも幅広い人に遊んでもらえると思います。『The DEEP』はまさにそうで、ゲーム性はなくて、気持ちが高まるだけですから。

新型Morpheus(前編):GDC 2015
新型Morpheus(前編):GDC 2015
↑新型Morpheusに合わせてブラッシュアップしたThe Deepは、前半がカーゴに入って海の中を降下していき、カメやマンタが泳ぐ様子を眺められるゆったり系。後半になると、岩が落ちてきたり、サメが現れたりと怖い系に一転する。

―― 海の中を眺めてるだけでも心に残ります。

吉田 昨年、THe Deepを初めて体験したときに、水面を見上げて太陽の光が差し込むシーンを「きれいだなぁ」と思ったんです。数日後にその記憶を思い出したときに、「あれ、海に行ったんだっけ……」とバーチャルとリアルの記憶が混同していた。それで人間っていうのはリアリティーを感じさえすれば、バーチャルでも自分の経験になるんだなと思いました。

―― そんなことが!

吉田 人間、都合の悪い話って忘れるじゃないですか。逆に体感したことが身につくこともある。じゃあ他の人の素晴らしい経験や、自信につながる行為をバーチャルで再現できれば、自分を高められるんじゃないかって。

―― 自己啓発VRコンテンツですね。

吉田 人前で話すのが苦手なら、バーチャル世界で慣れればいい。バンドでも、バーチャル世界でステージに立って、メンバーと観客がいる状態で練習するとか、いろいろ使えると思います。あと何年か経ったら、わりといろいろなところでVRが普通に使われてるのではないでしょうか。

―― 昨今はなんでも早いので、ここ1、2年の間にさまざまな分野で爆発的に伸びそうな印象です。

吉田 われわれも2016年の前半にMorpheusを出しますので、その年がコンシューマーVRの元年という感じになればいいなと。Oculus VRさんもいつ出すかわかりませんが、今の感じなら来年までには発売してるんじゃないかな。HTCさんとVALVEさんの『Vive』も今年のホリデーシーズンと言ってますし、この期間に非常に多くの人がVRを体験できるようになる。

 この半年間ぐらいを振り返ってみても、動きがめちゃくちゃ早いですよね。360度のパノラマビデオを作られている方と話をすると、仕事がすごく増えたと言ってました。

―― いやー、でもハードウェアがどんどん出てきたとしても、やっぱりいいVR体験を提供してくれるキラーコンテンツが重要だと思うんです。今回の4つのデモは、いずれも既存のVRコンテンツから頭ひとつ抜けた秀作だと実感しました。

吉田 そういっていただけると、私の直接の責任はゲームのコンテンツの方なのでうれしいです。われわれファーストパーティーの責任って、新しいものを出したときに「こんなことができるんですよ」と示すことじゃないですか。SCEでもいろいろなチームがVRに取り組んでますが、「こんなことができる」「あんなこともやれる」と発見の連続なんです。

―― 先導するSCEさんですらそうなんですね。

吉田 今回はロンドンスタジオと日本スタジオのコンテンツだけデモしましたが、今年のE3以降はほかのチームがつくっているコンテンツも少しずつお見せしようと思っています。もっとゲームっぽくて、めちゃめちゃ楽しいやつもありますよ。この前、『進撃の巨人展』の360度シアターを見てきたんですが、すごく楽しかった。「巨人デカいなー」みたいな(関連記事)。

―― 巨大なものを見上げる表現って、VRとすごくあってますよね。

吉田 一緒に体験した方々の女子率が高くて、すごくドキドキしました。HMDの隙間から周りの様子を見たら、みんなが「わー」って言っているのを見て楽しんでました。

■ 小規模チームでもVR業界の『DOOM』が生み出せる

―― もちろんサードパーティーも巻き込んでいく形なんですよね?

吉田 サードパーティーは、大手よりもインディーですね。特に欧米の大手は、インストールベース(VRHMDの出荷台数)がどれだけあって、ビジネスとして投資できるかどうかを計算するアプローチですが、今ってVRのインストールベースはほぼゼロじゃないですか。

―― Oculus RiftもMorpheusも製品が出てないですしね。

吉田 でもインディーの方々は、自分たちがやりたいならつくります。それに少人数で、数百人単位のチームと同じことやっても勝てないというのがわかっている。でも大手がやらないVRは、ものすごいチャンスだと思うんです。

―― と言われると?

吉田 3Dゲームは、出たてのときに『DOOM』や『マリオ64』、『バーチャファイター』みたいに新しいフォーマットを提示したゲームがあって、そこから新しいジャンルが生まれてきましたよね。VRもそういったゲームが出てくるはずです。DOOMを作ったチームも、最初はインディーみたいなものでした。逆に言うと今なら誰でもそのポジションになれる可能性がある。

―― 個人的には、スマホに続くコンテンツのフロンティアがVRにあると感じてます。

吉田 あると思います。スマホもまさにいい例で、アプリでヒットして成長したのって、小規模なソフト会社じゃないですか。Facebook向けゲームもそうでしたけど、メディアに合ったコンテンツにすごく真剣に取り組めば、小規模なチームでもスゴいタイトルを出せる。VRでもわりとすぐにそういった状況になると思いますよ。個人的にインディーゲームは本当に大好きなんですが、VRではさらに期待しています。

―― インディー出身でも、MorpheusでVRコンテンツは出せますか?

吉田 今でもインディーはサポートしてますので、それとまったく同じです。Morpheusは必要になる以外は、PS4でゲームを開発するのとなんら変わらない。興味がある個人や小規模なデベロッパーさんは、『Unity』や『Unreal Engine』などを使ってまずOculus Rift向けにつくってみて、いいものができたらぜひ見せてください。

―― あっ、『Unity』や『Unreal Engine』なら複数のプラットフォームに書き出せるから、手元にMorpheusがなくてもいいと。

吉田 だからOculusさんやサムスンさんにもVRHMDをやっていただいて、すごくありがたいですよね。

―― SCEのデモも少人数開発なんでしょうか?

吉田 そうですね。やっぱりPS4のゲームって、100人が3年がかりで取り組むとかもう大変なんです。でも今、VRなら3人ぐらいでも開発できちゃう。うちの今回のデモも少人数ですし、バンナムの原田さんも少数精鋭ながら、『サマーレッスン』を3ヵ月でつくってしまった。あれだけ世の中にインパクトを与えたタイトルが、今ならできてしまう。初代のPlayStationで出た、サン電子さんの『麻雀ステーション MAZIN 麻神』とか、ああいう楽しさがありますよね。

―― 懐かしい!

吉田 大手デベロッパーさんにとっても、VRはビジネス的な心配があると思いますが、経営者の方はそんなにたくさんの人数をかけずにやらせて、ほっといてあげればいいと思うんです。そうしたらスゴいモノが出てくる。原田さんのチームのように、人数が少なくてもノウハウやソフト資産の蓄積があるじゃないですか。それを流用して、ビックタイトルの世界をコンパクトにVRで楽しんでもらうとか、そういうのをぜひやってほしいと思っています。

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