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GPS不要の屋内位置測定技術で東京駅の地下をまわってみる

2015年02月25日 11時15分更新

 屋内での位置測定(Indoor Positioning)を実現する技術に大きな注目が集まっている。GPSや3Gアンテナ、WiFiアクセスポイントを使って高速で正確な位置情報を取得する仕組みは、スマホの急送な普及もあり、ごく身近な技術として多くの人に利用されている。だが、GPSは準同期軌道を周回する複数の位置情報衛星を使って現在位置を特定する技術であり、屋内や地下では正確な位置が割り出せないほか、屋外でもビルの谷間などでは位置情報の取得が困難なことがある。

 そこでGPSだけに頼らず、屋内や地下でも数メートル範囲の誤差で正確な位置情報をリアルタイムで取得できる技術開発に注目が集まっているわけだ。これにより、例えば迷路のように入り組んだ建物内で正確に目的地までのルートを示したり、複数のユーザーがランドマークなしでも簡単に1ヵ所に集合できたりと、さまざまなアプリケーションへの応用が考えられる。

 英CSR(昨年2014年末に米クアルコムによる買収が発表されている)の開発した『SiRFusion』は、こうした屋内位置測定技術のうちのひとつだ。シーエスアール営業2部営業部長の深田学氏によれば、2020年に開催される東京オリンピックを前に、こうした仕組みに関心を持ち、問い合わせるユーザーが急増しているという。日本国内では国土交通省が東京駅近辺での複数メーカーや団体による実証実験を現在実施しているなど、具体的な動きも見え始めている。

 今回、このSiRFusionを使った屋内位置測定を実際に体験してきたので紹介していく。

●CSRの『SiRFusion』とは?

 SiRFusionはもともと2009年にCSRが買収した米SiRF Technologyの技術がベースになっており、GNSS(GPSなど衛星による位置情報取得システムの総称)、MEMS(加速度センサーやジャイロスコープなど)、無線電波(WiFiや3G/4G、Beaconなど)、利用者の正確な移動量(Pedestrian Dead Reckoning:PDR)をスマートデバイスを使って測定し、これをクラウド上で収集して学習するシステムとなっている。その最大の特徴は“使えば使うほど学習で精度が向上する”点にあり、一度クラウド上に収集されたデータは再びユーザーの端末へとフィードバックされ、常に最新でより精度の高いデータを基にした位置情報測定が可能なことが挙げられる。また、移動量センサーや圧力センサーにより上下方向の移動も測定できるため、階段を上り下りすると地図が適時切り替わるという仕組みも実現できる。

SiRFusion
↑CSRのSiRFusionは、スマートデバイスを使って低消費電力ながら屋内での連続的な位置や正確な移動量(PDR=Pedestrian Dead Reckoning)を測定できる。
SiRFusion
↑4種類のGNSS(GPSなどの位置情報衛星)、MEMS(加速度センサーやジャイロスコープなど)、無線電波(Wi-Fiや3G/4G、Beaconなど)、PDRといったスマートデバイスで収集したデータをクラウド上のサーバへとアップロードし、追加インフラ整備なしで位置情報を次々と学習していく仕組みを備える。

 CSRではSiRFusionを利用するためのSDKを開発者向けに提供しており、これを組み込んだアプリは前述の学習機能と、クラウドデータベースからのフィードバックによる正確な位置測定が可能になる。これに屋内の見取り図を用意すれば、すぐに地図アプリのようなものが構築できるわけだ。このアプリ内で位置情報取得に関わる仕組みは“Soft Fusion”と呼ばれ、アプリの一部として動作している。Androidプラットフォームでは問題ないものの、現在のところiOSでは詳細なWiFiのアクセスポイント情報がアプリレベルでは取得できないため、iPhoneではSiRFusionの仕組みが利用できないようだ。

 いずれにせよ、SiRFusionのクラウドは世界レベルでの位置情報データベースを構築しており、SDK搭載アプリの利用が広がれば広がるほど、学習効果でプラットフォームが強化される利点がある。そうした意味で、活用がある程度広がった数年後が楽しみだといえる。

 このSiRFusionの公開実験例として公式ページにも挙げられているのが東京駅八重洲地下街でのテストで、GPSの使えない地下でありながら、最大誤差7メートル程度で複数回のテストでもほぼ正確な位置情報の割り出しに成功している。将来的には位置情報の割り出し精度を向上するため、Beacon(BLE=Bluetooth Low Enagy)も組み合わせた屋内位置情報取得の仕組みを取り込んでいく計画だという。Beaconモジュールは大量にまんべんなく配置する必要はない。例えば特定の部屋の入り口に配置して位置特定を正確にしたり、階段やエレベータの出入り口などに配置して現在ビルの何階にいるのかを正確に割り出したりと、一種のマーカーのような使い方が効果的なようだ。

●SiRFusionで東京駅地下街をまわる

 今回はすでに学習データの揃ってSiRFusionによる屋内位置情報取得が可能になっている、東京駅の丸の内方面地下街を探索してみた。スタート地点は丸の内ビルヂング(丸ビル)の1階で、ここから階段を下りて地下でつながっている丸の内地下街を移動し、別の地上出口へと向かう。地下ではGPSが利用できないため、WiFiの信号強度とPDRやMEMSによる位置情報の補正だけが頼りだ。テストアプリの動作する端末上では、WiFiの信号強度のみで測定された現在位置が緑色の四角、SiRFusionの取得データ全体で補正された移動軌跡が紫色で表示され、現在位置がわかるようになっている。

SiRFusion
SiRFusion
↑東京駅の八重洲地下街での実験例。SiRFusionの移動軌跡が、実際の移動軌跡とそれほど誤差なしで計測できている。複数回実行しても、ほぼ同じ結果が得られている。
SiRFusion
↑現在のSiRFusionはWiFi信号強度を基に位置情報を算出しているが、米国拠点ではBLEビーコンを組み合わせた位置測定研究も進んでいる。

 実際に試してみたところ、1階から階段を下りて地下へと向かうと地図が自動で地下のものに切り替わり、そのままビルから地下街へと侵入しても、リアルタイムでの位置情報がほぼ正確に表示されていた。途中、地磁気異常で本来の歩いたコースとは若干異なる地点に紫色の軌跡が出現したりしたが、おおよそ問題なく位置の追跡が行えていた。今回はSiRFusionをデモするためだけの単純な地図アプリだったが、今後利用例が増えてユニークなアプリが増えれば、これまでGPSでは鬼門だった地下や屋内での位置情報を使った面白い仕組みが実現できるかもしれない。

SiRFusion
↑ソニーモバイルのXperiaにSiRFusionのテストアプリを入れた状態で、実際に東京駅丸の内地下街を歩いてみる。
SiRFusion
↑まずは丸の内ビルヂング(丸ビル)の1階からスタート。階段を下りてビル東側の東京駅地下コンコースへと向かう。
SiRFusion
↑丸ビル地下1階と東京駅地下コンコースとの境目にきたところ。緑色の四角がWi-Fiのみの測定で検出した現在位置で、紫色の移動軌跡が各種補正をかけて割り出した現在位置。
SiRFusion
↑東京駅と丸ビルの間にある地下通路を北側に向かって歩いて行く。写真を見ればわかるように、本来は柱の中間地点を歩いているのだが、SiRFusionの移動軌跡は柱の通路よりもさらに建物(新丸ビル)寄りと出てしまっている。CSRによれば、この周辺の地磁気異常で測定誤差が出やすくなっているという。
SiRFusion
↑テストアプリの実行画面。緑色の四角がWiFiのみの測定で検出した現在位置、紫色の移動軌跡が各種補正をかけて割り出したSiRFusion本来の現在位置。先ほどの地磁気異常のみられるエリア(行幸通り方面)を除けば、概ね正確な位置を指し示していた
SiRFusion
↑テストアプリに入っている地図では、階段やエスカレーターは赤い帯で表示されている。地上に向けて階段を上っているところ。
SiRFusion
SiRFusion
↑東京駅丸の内北口付近の地上に出てきたところ。緑色の四角、紫色の移動軌跡ともにほぼ正確な場所を指し示しており、地図は地下のものから地上(1階)のものに自動で切り替わっている。

●関連サイト
CSR(英文)

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