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東京で消耗した人がほしいわけではない 九州から始まった”地方創生”のための人材募集支援

2015年02月24日 08時00分更新

「今の人材採用の悩みは、"東京に疲れた/スキルも経験もないけど田舎ならなんとかなるか/ゆっくり毎日すごしたい/報酬を下げたくない"といった面しか持たない人がいること。やる気も含めて、ライバルとなるのは東京であり世界。(事業の)スピードはマーケットに合わせないといけない。欲しいのは、東京で活躍するプロフェッショナル人材だ」

 ビズリーチとトーマツベンチャーサポート主催の地方企業の優秀人材獲得を支援するための"九州ベンチャーキャリアフォーラム"で登壇した、宮崎のベンチャー企業・アラタナの土屋有執行役員はこのように語った。

 "地方創生"は国としても重要なキーワードになっており、人口減少の克服・成長力の確保を目的に、地方が人材を獲得するための補助金や企業の受け入れ費用半額助成などが政府からは発表されている。

 九州ベンチャーキャリアフォーラムはビズリーチの地方創生の取り組みとしては4回目となるイベントで、注目を集める地方移住に対して、参加企業が直接移住希望を持つ転職候補者に声かけできるように開催された。会場には67名の参加者が詰めかけた。

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髙島宗一郎福岡市長ほか、「やたら元気で熱い」九州ベンチャー企業9社が集結。

 ビズリーチ地方創生人材採用支援室の加瀬澤良年室長によれば、イベントの趣旨は、「ダイレクトリクルーティングで首都圏人材へのアプローチを実現」し、「自治体と企業の参画をうながす」ことだ。

 地方が活性化するために、ヒト・モノ・カネで圧倒的に不足しているのが"ヒト"だ。政府モデルケースによれば、地方に必要な人材像は「37歳、上場メーカー勤務、年収800万円、課長職、郊外にマンションを購入、妻と子供1人、埼玉県出身」といったもの。仕事内容もちろん、キャリア・年収・教育環境・家族の賛成といった高いハードルがあり、自治体も含めた取り組みは当然で、非常に難易度が高いといえるだろう。

 その点、九州は国内で最も開業率が高い地域で、福岡市を中心とするスタートアップ都市推進協議会、産学官の連携、行政の支援も厚い。加瀬澤室長「ダイレクトに地方と地域の企業のミーティングを実現できたのは大きい。一番勢いのあるところからやりたくて実施した」と語る。

 冒頭の土屋氏の発言も、地方ベンチャー企業がもつ実感のひとつだ。地方でハイスペックな人材を探すとなると、現実的に探す場所はそもそもない。だが、“全国スタートアップデイ”で登場するような注目ベンチャーも増えてきており、地方は本気で人を必要としている。

■地方と東京にある幻想

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「(移住を希望する人は)地方に対する幻想がある。実際に来てみて負けないようにしっかり考えてほしい。生産性が追い求められるのは、東京でもどこでも同じ」(土屋執行役員)

 厳しい発言を行うのも、土屋氏自身が地方移住で大きな変化を経験した実感からだ。アイレップの創業から上場に携わり、カヤックのソーシャルゲーム事業部長を経て、2013年に宮崎のアラタナへに加わり家族とともにUターン移住をした。

 田舎ならではの情緒、海や山のレジャー、獲れたての食材でごはんも美味しいし、人ものんびり。当然、家賃や物価、自然環境といった面でのプラスも大きい。

 だが土屋氏が苦労したのは、家族や会社以外での自分の居場所だという。家族がいるような場合は地域になじむ努力も必要だが、まったくコネクションもなかったため、飛び込みで地域の祭事に参加をするなどした。自分でコミュニティを作る意識をもって動くことが必要だと土屋氏は説く。「会社だけではいやでしょ。地方を成長機会としてみてほしい」(土屋執行役員)

 実際アラタナではこれまでに3名ほど、同社を踏み台にして起業していった人材もいる。「入社前から通過点だという人も入っていい」と土屋氏は歓迎している。同社の社員のうち、U/Iターン組は3割で組織的にも中心人物だという。

 またアラタナでの人材育成における独自の試みとして、クロスターンシップ制度がある。交換留学生のように、1ヵ月間他社に"留学"して実際にその企業の仕事を担当する大人のインターンシップといえるものだ。キャリアアップという目的だが、実際は地元で獲得した優秀な人材が持ちがちな"東京への幻想"を変える狙いもある。実際に東京への留学経験で「(地方でも)自分たちは結構いける」という目線ができるという。

 地方には、交通の不便さと絶対的な人の少なさがどうしてもある。東京のように勉強会やセミナーなどが頻繁に行われるわけではないため、自ら意識をもって動かない限り、人脈や知見を広げるためのハードルは高くなる。まさに成長機会ととれるかは、本人次第といえるだろう。

「宮崎だからといって(レベルが)低いわけではない。地方移住を志すのであれば、本当に後悔してほしくない。逃げではない選択として地方を選んでほしい」(土屋執行役員)


 今回のキャリアフォーラムが実現に至ったのは、ビズリーチ加瀬澤室長によれば"個人的なワガママ"からだという。日本全体で優秀な人材をもっと活用できるような、自社利益ではない社会貢献の目線から始まったそうだ。九州の次に注目しているのは、広島市と名護市で、「どちらも(スタートアップが)伸びているところで、それなりの理由がある」とのこと。そもそも実施にあたり「社内からは反対意見しかでなかった」(加瀬澤室長)ということだが、九州を始め、今後の各地方での人材活用発展に期待したい。

 なお、3月1日には福岡市主催の移住促進イベント『地方移住クリエーターサミット2015 in TOKYO』も開催予定だ。地方移住を考えているクリエイターの人はこちらも参考に。

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地方移住の事例では必ずと言っていいほど、サーフィンや釣り、海や山でのアクティブな話が出てくるが、アラタナの場合は実際のところサーフィンをしているのは社員100名のうち5名だけという話。地方に行ったからといっても、「休日はずっとFPSをやってるような人もいて」(土屋執行役員)いいようだ。

写真:編集部、Brendan Bank

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プレスリリース
アラタナ

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