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900万DLのフリマアプリ『メルカリ』はなぜ成功したか?山田進太郎代表インタビュー

900万DLのフリマアプリ『メルカリ』はなぜ成功したか?山田進太郎代表インタビュー

■1年半で1日10万品超が流通する巨大フリマサービスに成長

 2013年7月にフリマアプリ『メルカリ』をリリース後、約1年半でダウンロード数は900万を超え、1日の出品数は約10万品以上、月間流通規模は数十億円を超える巨大サービスへと成長。個人がスマホで簡単に取引ができるのが爆発的ヒットの理由だ。2014年春には、米国サンフランシスコに子会社を設立し、9月から米国版サービスもスタート。現在すでに1日の出品数が数千品と、順調な立ち上がりだという。スマホ向けの市場開拓、CtoCならではのコミュニティー運営、そして今後の事業展開について、代表取締役の山田進太郎氏にお話を訊いた。

 週刊アスキー2/3号 No1013(1月20日発売)掲載のベンチャー、スタートアップ企業に話を聞く対談連載“インサイド・スタートアップ”、第14回はフリマアプリという新しい個人売買市場をつくったメルカリの山田進太郎代表取締役に、週刊アスキー伊藤有編集長代理が直撃。

メルカリ
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↑フリマアプリ『メルカリ』のダウンロード数は900万超。iOSは2013年、アンドロイドは2013年、2014年と連続でストアーのベストアプリを受賞。文章による説明を極力排除したシンプルなUI。“いいね”やコメントも付けられるが、必要以上の売り込みやコミュニケーションが発生しないのもメルカリのこだわりだ。

■固定額で即決即売のフリマのスピード感がスマホのユーザー行動にフィット

伊藤 僕はバイクが好きで、10台くらい乗り継いでいますが、うち9台はネットオークションで個人から買っているんですよ。その立場からすると、ここ数年はフリマアプリの盛り上がりはとても気になってます。オークションとフリマアプリって似て非なるモノという気がしているのです。

山田 オークションとフリマの違いというよりは、PCとスマホの違いが大きいかもしれません。CtoCは、売り手と買い手が必要ですよね。日本におけるネットオークションは、“ヤフオク!”の独壇場でした。ヤフオク!のPCプラットフォームに対して、売り手も買い手もPCの環境をそろえていたんです。

伊藤 後発でも同様のサービスが出てきましたが、PCのプラットフォームでは勝負にならなかった。でも、スマホアプリの登場で状況が変わった感じがあります。

山田 僕らのユーザーって、そもそもPCを使わないユーザーが多いんです。こうした新しい層に対して、新しいサービスをぶつけていったことが、受け入れられた理由なのかな。

伊藤 逆に、スマホユーザーにとって、PC向けの既存サービスは敷居が高い。スマホアプリ版もありますが、ネイティブじゃないから、使いづらかったり。

山田 フリマは、スマートデバイスに合っているのかもしれません。フリマって、値段が決まっているから取引が早いんですよ。オークションは、期日まで待たなくてはいけない。スマホでやるのに、1週間や10日なんて待っていられないですよね。

伊藤 PCの時代とは時間軸が変わってきているんですね。

山田 固定額で、誰でも早い者勝ちという単純明快な市場をスマホユーザー向けに最適化したのがうちのサービスです。

伊藤 フリマ独特のユーザーさんの行動って、あります?

山田 一日に何回もアクセスすることでしょうか。ショッピングサイトは、欲しいものがあるときだけアクセスしますよね。メルカリの場合、通勤中や寝る前の、“ながら見”が多いんです。タイムラインを眺めたり、検索ワードを設定してみたり。

伊藤 ウインドーショッピングみたいですね。

山田 そして、気に入ったものを見つけると、すぐ買っちゃう。購入された出品の20%が1時間以内に売れ、1日以内には、多くが売れます。スピードがすごく速い。まるでゲーム感覚ですよ。

伊藤 昨秋のテレビCM放映後は、急激にメジャー感がでてきましたよね。有料化やCMを打つタイミングなどは、ほぼ戦略どおりだったのでしょうか?

山田 多少前後しましたが、ほぼ予定どおりですね。販売手数料10%の開始も、あまりネガティブな反応もなく、スムーズに受け入れられました。

伊藤 ダウンロード数はCM前の200万から900万件と大躍進です。これも想定内で?

山田 正直、想定していたよりも多かったですね。順調です。テレビCMで安心感が出たのかな。最初の半年くらいは、製品の開発、改善にフォーカスしていました。こういった蓄積と広告を打つタイミングがうまくかみあったのだと思います。

伊藤 200万と900万では、バックエンド側の処理態勢もずいぶんと変わったのでは。

山田 CM後にサービスが落ちては意味がないので、CM対策にはかなり力を入れました。インフラは相当強化しています。何のトラブルもなかったのが信じられないくらい。優秀なエンジニア陣のおかげです。

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↑広々として開放感のある六本木のオフィスには、60名のスタッフが勤務。仙台オフィスと合わせて約100名のスタッフが、プロダクトの開発やカスタマーサポートを行なっている。

■フリマは商売というよりもコミュニティー、負担にならないように、義務感や複雑さを排除

伊藤 今や普通に周りの人が使っていますよね。変わってきたという実感はありますか?

山田 まだ会社を設立して2年たってないので、数ヵ月単位で状況がどんどん変わっているんですよ。だから、ここで急に変わったという実感はなくて。ただ、当初は女性ユーザーが多かったのが、男性も増えましたね。

伊藤 サービスインのときは、女性をメインターゲットにされていたんですよね。

山田 そうです。新しい文化を取り入れるのは、女性のほうが得意。現実のフリマも、女性のほうが圧倒的に多い。当初は、モノを探す楽しみ、交渉する楽しみ。いわば、お店ごっこの延長のような、親しみやすさを意識してつくっていました。

伊藤 若い女性ユーザーを中心に広がっていったんですね。

山田 今もメインのユーザーは、20代前半の女性です。子育てをしている若いママとか。可処分所得は多くないけど、ファッションは好き。子供服もほしい。

伊藤 キッズとベビー服の需要は、わかります。すぐにサイズが合わなくなったりしますからね。

山田 捨てるのはもったいない、というエコ的な視点もあったり。儲けたいわけじゃなくて、大切に使ってくれる方がいれば、譲ってもいいかな、くらいの感覚の出品者が多い気がします。

伊藤 フリマアプリを利用するうえで、独特の内部ルールみたいなのもすでにありますよね。公式のルールじゃないのに守らなければならない。まとめサイトもできていたりして(笑)。

山田 弊社として推奨しているわけではありませんが、ユーザーさんたちがつくってくれてます。このあたりは、コミュニティーに近いでしょうね。

伊藤 “誰々さん限定出品”とか。値下げ交渉も当たり前。

山田 出品者側からすると、すぐに“いいね!”やコメントが付くのは刺激になりますよね。ツイッターに、「5分で売れた!」と書き込めば、さらにソーシャルメディアで広まっていく。

伊藤 CtoCならではの、ユニークな商品もありそうです。

山田 時事性の強い出品はありますね。季節モノとして、米やみかんなど地方の農産物も出たりしますよ。ただし、安全性に問題のあるもの、違法性のあるものは、社内でチェックして削除しています。

伊藤 コミュニティーならではの運営の難しさもあるのでしょうね。商品のチェックのほかに、介入することはありますか。

山田 問題のあるコメントについても、通報されて20~30分以内には削除するなどの対応をしています。悪質なコメントは、された本人はもとより、それを目にする第三者も不快になりますからね。不快要素はなるべく早く取り除きたいのです。

伊藤 何人くらいの体制でサポートされているんですか?

山田 現在、仙台に40人、東京は60人以上のスタッフがいますが、半分以上はカスタマーサポートです。特に仙台はほとんどがカスタマーサポートと、相当力を入れています。

伊藤 それくらいの人を割かないと、さばけないのですか。

山田 月に数十億円もの取引があるので、たった0.1%以下でも、すごい件数です。発送は出品者に委ねているので、商品が届かないといったトラブルには、人力で対応しなくてはなりません。

■グローバル展開を念頭にシンプルさを追求し、個人と個人をつなぐ新しい市場を創出したい

伊藤 なるほど。あと使ってみて思うのは、ヤフオク!は買わせる導線が強いんですが、メルカリはポップアップとかで出品させようとしますね。これは興味深い違いだと思いました。その他の出品促進の仕掛けはありますか?

山田 出品したらポイントが当たる、といったキャンペーンはやっています。ですが、個人的にはイベント性よりも、ベーシックな使いやすさ、スピードにこだわっています。裏側はいろいろと複雑なロジックが走っていますが、アプリ自体はシンプルに。誰が見ても簡単に出品と購入ができるようにしたい。

伊藤 値下げシステム、“出荷しました”通知、“受け取りました”という報告がないと、出品者がお金が受け取れない、といった機能は世代の違いを感じます。

山田 お金を振り込む、お金を預かる、といっためんどうくさい部分を自動化するだけでも、ずいぶんと楽になります。ただ、モノを送るのは出品者自身しかできないから、通知があると安心です。発送までの日数もあらかじめ選べるようにしています。

伊藤 やることはシンプルでわかりやすく、急かされないから、出品者も購入者もお互いにストレスなく使えるんですね。

山田 逆に、取引以外のプッシュはしないようにしています。“いいね!”した相手のページにもリンクしないので、必要以上のコミュニケーションや、売り込みを受けることがありません。できるだけ義務感が発生しないように気をつかってデザインしています。

伊藤 海外展開もされているんですよね。いつからですか?

山田 米国にオフィスをつくったのが2014年の4月、アプリのリリースは9月です。

伊藤 広がり方に差異は?

山田 まだ一日何千品という規模ではありますが、思ったよりも受け入れられています。米国は国土が広いので配送に時間がかかってしまうといった課題もあります。まだ不安定なので、持続的に伸びていける体制づくりに重点を置いています。そのためには、いかにプロダクトを素早く改善していくか。

伊藤 米国版のアプリって、デザインが違うんですか。

山田 デザインは、米国側の意見に沿ってかなり変更しました。当初のアプリは、あちこちに解説をつけて、ごちゃごちゃしてましたが、ワールドワイドでは、あまり丁寧すぎる説明は、かえって嫌がられる。それらの説明を極力なくしてシンプルにしました。だったら、日本版も変えちゃおうか、と現在のシンプルなデザインに統一したんですよ。今は、フェイスブックにしてもツイッターにしても、米国で生まれたユーザーインターフェース(UI)を使っているから、日本人も慣れてきているんですね。

伊藤 確かにスマホは、海外のアプリがほとんどですもんね。

山田 メールや地図、SNS、ゲームにいたるまで多くが海外製。スマホは画面も小さいし、UIのパターンも限られる。

伊藤 週アスもウェブサイトをスマホ対応にしてますが、どの端末もデザインは同じで、必然的に洗練されてきますよね。今後は、将来的にもCtoCのサービスを展開されていくのでしょうか。それともBtoCへ?

山田 BtoCよりも、CtoCで横展開していくほうが現実的ですね。僕らのサービスは、個人にフォーカスした“シェアリングエコノミー”と捉えているんです。配車サービスの『Uber』や空き家を旅行者に貸す『Airbnb』のように、個人と個人をつなげることで、もっとおもしろいサービスをつくっていけると思っています。

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株式会社メルカリ 代表取締役
山田進太郎
 早稲田大学卒。ウノウ株式会社を設立し、写真共有サイト『フォト蔵』やソーシャルゲーム『まちつく!』などを生み出す。2013年2月、株式会社メルカリ( 旧コウゾウ)を創業。

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