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ソニーに潜む圧倒的な“モノづくり”の実力をIoTで開花させる スマートロック“キュリオ”開発インタビュー

2014年12月27日 08時30分更新

 ソニーが関連する新会社・Qrioから発表された世界最小のスマートロック『Qrio Smart Lock(キュリオ スマート ロック)』。12月中旬よりクラウドファンディングサイト・Makuakeにて情報が解禁され、早々に目標金額150万円を達成した。募集期間の残り2か月をまたず、12月27日現在で約900万円が集まっている。
 本プロジェクトは、独立系ベンチャーキャピタルのWiL(World Innovation Lab)とソニーの合弁企業であるQrioから生まれたもの。今回、どのような経緯でソニーとのコラボレーションが実現したのか、またその目的についてQrio代表取締役でWiL共同創業者ジェネラルパートナーの西條晋一氏に話を聞いた。

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↑部屋の外からスマホアプリを使ってドアのロックを解錠できるスマートロック。機能はシンプルで、ドアのサムターンに本体を取り付ければ、スマートフォンのアプリを介して簡単に鍵を開け閉めできる。アプリの操作で複数の鍵の管理も容易だ。LINEやfacebookなどのメッセージ機能を使って、家族や友だちなどの第三者に鍵をシェアできるほか、不動産管理や内見、シェアハウス、ハウスキーピングなどさまざまな用途が想定できる。写真はできあがったばかりの試作品。Makuakeでの支援受け付け期間は残り約2ヶ月半。

写真提供:Qrio

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WiL 共同創業者ジェネラルパートナー 西條晋一氏:徳島生まれ。96年早稲田大学法学部卒業後、伊藤忠商事に入社。本社財務部で輸出入業務や資金繰り業務を担当。その後為替部にてディーリング業務に従事。00年にサイバーエージェントに入社。多くの新規事業の立ち上げに携わり、5社以上の代表取締役社長を経験。06年にはサイバーエージェント・ベンチャーズ(CAのコーポレートベンチャーキャピタル)の初代社長として、サイバーエージェントのベンチャー投資業務と組織を構築。08年には本社の専務取締役COOにも就任、10年からは米国法人の社長としてシリコンバレーでの事業立ち上げも経験。


■今なら足踏みをしている米国を一気に飛び越えられる

 WiLは日本と米国のシリコンバレーに拠点を置く独立系ベンチャーキャピタル(VC)。通常のVCとコンセプトが異なり、ベンチャー企業の投資育成による金融的なリターンの追求のみならず、大企業のオープンイノベーションを促進し、共に事業を行っている。WiLに出資する大企業はソニーだけではなく、ANAやNTT、日産、三越伊勢丹などが並ぶ。合弁企業の立ち上げも、豊富なリソースを持つ大企業からノンコア事業や研究所保有の知的財産を事業分離させ、事業モデルや運営面の最適化を行い、新規事業としての共同創出を促進することが目的だ。

 事業の創出にあたり、ソニーにはある種の課題があったと西條氏は語る。「2013年の終わりに出資いただいたあと、今年になってソニー社内の研究開発テーマを見せてもらった。成果物を確認したが、インターネット的な視点、シリコンバレー周辺のIoT(Internet on Things・モノのインターネット)トレンドからみると、もっと早く商品化したほうがいいのではというものも多かった」

 例にあげるのはGoProだ。米国では何万人という利用者が、GoProで撮影した写真や動画をYouTubeで毎日シェアした動きが爆発的なヒットにつながった。「製品の作り方やプロモーションも既存ではないものが求められている。実際に使うコミュニティーと一緒に育てるハードウェアの売り方は、国内企業は苦手」だと西條氏は語る。

 日本の場合、家電を代表するハードウェア製品開発では、米国や中国とは異なる事情もある。製品の知識をもった優秀な人の多くが大企業に在籍しているため人材の流動性が少なく、国内でハードウェアベンチャーを興すこと自体がこれまで難しかった。11月にできた“DMM.make AKIBA”のような施設が従来の家電の大手企業発ではなく、ネット企業のDMMの名を冠して始まったことは、ある意味で象徴的だ。キュリオの試みは、一方で動きが取れなかった大企業側を動かすものといえるだろう。

 「当初はソニーの社内研究開発テーマのカーブアウト(事業分離)を検討したが、調整に時間がかかりそうだった。そこで、製品提案をして一緒に作ろうとスタンスを変えた。本丸事業ではなく、新規での可能性が広がる事業分野、特にIoTでのスマートホームが面白いのではないかと決まった」(西條氏)

 IoTの米国事例では、多くの企業がクラウドファンディングで成果をあげている。「そもそもIoT分野で日本は2年以上遅れている見立て。日本でいえばニトリのようなホームセンターに、米国ではIoTコーナーがすでにある。(米国最大の住宅リフォーム小売チェーンの)ホームデポや(家電量販店の)ベストバイではもはや当たり前。当然ネットショップでも取り扱っているが、国内のヨドバシカメラやアマゾンジャパンにはまだIoTのコーナーはない」(西條氏)

 だが、だからこそチャンスがあると西條氏は語る。スマホのアプリ開発と比べて、量産品のハードウェア制作の難易度が高い。米国のキックスターターで資金集めが成立した製品でも、完成が間に合わず、資金調達達成から1年後まで発送が先送りになるケースも少なくない。その点、ハードウェアの製品化・量産化の面で日本はとても優れていると西條氏は語る。

 「今なら足踏みをしている米国を一気に飛び越えられるのではないかという狙いをもって、完全に量産体制を前提にやっている。(キュリオは)これまでのどのスマートロックよりモノづくりのクオリティーは高い。サイズ・デザインもレベルが違う。ただし、Nestのようなハブ的なプラットホームの仕組み構築はアメリカが優勢で、日本の場合、特に家電製品を作り販売してきた大企業などはまだまだ苦手。つまり、単に物を売って終わりにとどまらないようにしないといけない。管理コストが発生して、サブスクリプション(定額課金)もからめられるような視点は、現状のソニーにはなかったもの。だがその点をサポートすれば、日本でIoTは一気に拡大できる」(西條氏)

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↑数多くの種類・形状のドアにも対応するように作られており、従来の課題を解決している。


■ソニーがもつ“モノづくり”のスピードに驚いた

 開発にあたっては、マーケティングや製品コンセプト面は西條氏本人が担当。アイデア面ではソニーの開発者も参加し、現場サイドではモックが作れるエンジニア、セキュリティー面を開発するエンジニアも参加して原型のコンセプトを作った。そしていよいよ、実際の金型をどう作るかというモノづくりの面が本格的になったのが2ヶ月前だという。

 西條氏が驚いたのは、信じられないスピードで製品クオリティのモノがすぐにできるソニーの底力だ。「モーター1つでもひと声出せば、こんなのできるよ、というのが集まってくる。適合するサイズ・トルクの専用モーターが1週間で届いたのは驚きだった」と語る。またデザインについても、ソニーのクリエイティブセンターが担当。キュリオ自体はソニーのブランドではないが、多くのソニー製品を担当していたデザイナーが加わった。

 「玄関の鍵には多種多様なデザインがある。そこで、なるべく多くの鍵に対応できるようにしたかった。デザインも5回くらいは変更したが、その都度モデリングしたものがすぐに仕上がる。一般のデザイン会社でも同じスピードでできあがるかもしれないが、ハードウェアのプロダクトデザインをわかっているので余計な説明は不要だった。製品・中身のことを考えてもらえた」(西條氏)
 
 キュリオの機構面で最も重視した部分を尋ねると、“まずきちんと使えること”を考えたという。「海外のスマートロックを取り寄せて使ったところで一番の問題だったのは、そもそも取り付けられないものが多いこと。ドアといっても多様で、サイズや高さに合わない、構造的な邪魔が入るといった問題はもちろん、キー部分への接合も一度ドアをシリンダーまで分解しないといけないものがほとんど」

 キュリオのドアへの取り付けは、高性能な粘着シートで接着するだけだ。DIYの知識を必要とせず、どの方向からでも、さらに段差があっても設置できる設計となっている。ベンチマークにしたのは同じく設置が簡単なLockitron。米国ではアーリーアダプターを中心にキックスターターで2億円以上を集めている。だが、じつはサイズ面で見ると「ちょっと小さいiPad miniくらい」(西條氏)の大きさがあり、プロモーション映像からの印象と実物は異なっていたという。「ここで勝ったと思った」と西條氏は語る。

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↑サムターンにかぶせるだけの、誰でも取り付けが容易な仕組みとなっている。


■あらゆる室内にあるもので新しい試みを

 キュリオが予定しているビジネスモデルについては、初期バージョンといえる現段階では商品の売り切りモデルとなる。まずは、企業や個人を分けずにエントリーモデルとして販売を行う。「将来のビジネス視点でいうと、ひとつには、大手プロバイダーのような月額課金をしている企業との協業がある。初期コストを下げて月額課金をするモデル。2つに、B2Bでの不動産。大手管理会社とはすでに話をしており、不動産情報サイトとの連携も視野に入れている」 

 今後の課題は、電源式への対応や、ソニーが持つ他のサービス連携といった将来的なビジョンだ。「米国のようなサーモスタットがない日本では何がベースになるのか。次の展望は鍵ではない、あらゆる室内にあるもの、家電や監視カメラ、照明といったもので新しい試みができないか常に考えている」
 西條氏がとらえるIoTの本質は“サービス”だ。「ハードはあくまでツールで、どこまで付加価値が出せるかが重要。インターネットとつながってデータが取れても、取られるだけでは気持ち悪い。例えば電気料金が安くなるタップがあれば進んで購入するような、サービス面の発展こそがIoT」だと語る。

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↑Makuakeで早々に調達を達成。ちなみに、同じくMakuakeで行われているクラウドファンディングでソニー開発だったことが報じられた『FES Watch』との関連はとくになく、個別にそれぞれ動いているという。


■実際に製品が届くのは、2015年5月予定

 今後の予定は、5月にMakuakeでの発送が開始される予定。だが実はその前に、米国でのクラウドファンディングが準備できれば開始するとのこと。海外については、Makuakeとの海外進出も視野に入っている。

 「制約条件が厳しくなっているキックスターターに乗るのがいいのかというと今はそうではない。ソニーが動いたということで、米国メディアでは数多く取り上げられている。まだまだ海外での影響力は大きい。最初は小さなステップでも、まずやることが重要。これが今後、何百億になるかは不明だが、実行して、世界の顧客に対応していく」(西條氏)

 なお、キュリオは調達金額を達成しているが、引き続き購入などの支援は可能だ。今後の展示については、ラスベガスで行われるCES2015での出展は未定とのこと。また発売前に、国内での展示も考えているという。

 ベンチャー・スタートアップにおけるIoT分野は、国内外でさらに動きが活発化している。在野に眠るモノづくりをしたい人たちと、つくれる人たちを活性化させる動きなどがある一方、キュリオはこれまで動きが取れなかった大企業側からの強力な試みだ。ソニーだけではない、日本の大手企業だからこそ作れる、世界へ挑戦するハードウェアプロダクトにも期待したい。

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↑仕上がったばかりの実際に稼働する量産試作品。初公開となるが、サンプルとほとんど変わらない仕上がりとなっている。実際に動作する様子も楽しみだ。

写真提供:Qrio

 

 

●『Qrio Smart Lock(キュリオ スマート ロック)』仕様
サイズ:   長さ111mm 幅55mm 高さ63.5mm
重さ:    332g(電池を含む)
素材:    アルミ、ABS樹脂等
対応予定OS: iOS 7以上、Android 4.4以上
通信:    Bluetooth 4.0 Low Energy (BLE)
付属品等:  本体、電池(CR123A)x4、粘着シート、取り付け位置決めガイド、取扱説明書
※画面イメージは開発中のものです。
※製品の仕様は予告なく変更される場合があります。

■関連サイト
Qrio Smart Lock(Makuake)

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