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音楽の作り手を重視したローランドのポータブルDAC『Mobile UA』の類まれな実力

2014年12月03日 09時00分更新

 デジタルオーディオ業界では“ハイレゾ”が話題だが、それら音源を製作する業界でのマスター音源は、ハイレゾが普通に使われている。そうしたプロ用の機材は音質重視だし、屋内使用が一般的なので、小型という要素はあまりない。そんな中に登場したのがローランドのUSBオーディオインターフェース『Mobile UA』(3万6000円前後)だ。

Mobile UA

 ローランドは世界規模でも早期からUSBオーディオインターフェースを発売していたメーカーだ。デジタルオーディオ時代のベースと言っても過言では無い。そうしたメーカーが発売するポータブルデバイスとはどういうものか? 期待は高まる。基本的な仕組みはオーディオ用のUSB DACと同じものだが、細かな部分はオーディオ用とは異なり音楽製作側を意識したつくりだ。発売されたばかりの実機を借りることができたので早速試してみた。

●超小型ながらプロ仕様

 サイズは108(W)×65(D)×16(H)mmだが、実物を手に取ると想像以上に小さい。具体的にはモバイルルーター程度の大きさ。一般的な音楽製作用のUSBオーディオインターフェースは、デジタル-アナログの入出力に対応しているが、Mobile UAではデジタルからアナログへの再生専用としたことも小型化できた要因だろう。

 電源はPCのUSBポートからのバスパワー供給のみ。バッテリーは内蔵していない。作業中に電源のことを意識させない仕様だ。代わりに要求される電流はUSB2.0規格いっぱいの500mA。ローランドによると音質追求のために、ほぼ目一杯使用しているそうなので、使用時にはポートの供給能力に注意したい。

 インターフェースはmicro USBとステレオミニジャックが左右にあるのみ。単純な2系統出力にも見えるが、実は独立した4チャンネルオーディオ出力に対応している。これは、2人で同じオーディオデータのモニターを行なう用途のほか、ヘッドホンモニターと外部機材向けの出力を同時に行なうような使い方にも対応している。入力するデジタルデータが4チャンネルであれば、出力ごとにそれぞれのパートを割り当てることもできるなど、音楽製作作業時に便利。これらの切り替えは専用のドライバーを使って設定する。

Mobile UA
Mobile UA
Mobile UA
↑シンプルなボックス型の金属ケースの前面にはLEDインジケーターとボリュームボタン。左側にはmicro USBジャック。両側に出力が2系統備わるジャックはいずれもステレオ。

●音質の劣化を極限まで低減する独自DSP“S1LKi(シルキー)”

 対応する入力データはPCMで最大352.8kHz/32bit。DSDは最大5.6MHz/1bit。ASIOにも対応しており、低レイテンシーを実現している。スペックで言えば高性能なUSB DACでも搭載されているものだが、Mobile UAの特徴は入力されたデジタルデータを高品質のままアナログへ変換する技術にある。

 デジタルデータをDACチップに備わる最大のスペックまで引き上げる“アップサンプリング”という機能がある。例えば、最大192kHzに対応したDACチップは、48kHzのデータを入力すると最大値の192kHzまで引き上げるというものだ。この機能は44.1kHzや96kHzといったさまざまなサンプリングレートでも有効で、最終的に音の滑らかさにつながる。その逆で必要に応じて下げることのできるものもある。

 ローランドでは、このサンプリングレートの変換方法に注目。変換時に用いられる補間フィルタが一般的なDACでは1種類に固定されているものが多いが、今回Mobile UAに搭載された独自開発のDSP“S1LKi(シルキー)”は、さまざまなサンプリングレートのデジタルデータごとに最適な補間フィルターを用いることで、アップサンプリング、またはダウンサンプリングを行なう際の音質劣化を最小限に抑えている。Mobile UAに入力されたデジタルデータは、PCMフォーマットでは176.4/192kHz、DSDフォーマットでは2.8MHzに変換される。DSD⇔PCMの変換も可能だ。

 デジタルからアナログへの変換は、32bitの高精度DACに入力して出力される。DACにすべての処理をさせず、最も「おいしい」部分のみを使って変換しているので、安定した理想の音が得られるという仕組みだ。

Mobile UA
↑S1LKiの概念図。周波数に合わせて適切な補間フィルターが複数配置されている。DSDとPCMも分離されている。

 Mobile UAではDSDネイティブ対応を売りとしており、デフォルトではDSDフォーマットで使われている1bitデータへ変換後にアナログへの変換が設定されている。この設定は専用のコントロールパネルで切り替えられるので、PCMフォーマットも選択可能だ。なお、出力を2チャンネルに限定すれば、PCMフォーマットは最大スペックの352.8kHzまで対応可能となる(DSDは2.8MHzのまま)。

 昨今の音楽製作現場ではマスターのデータで96kHz、機材によっては192kHzのデータを扱うことも珍しくない。また、データを扱う制作側はPCとポータブルDACで移動先でもミックスやチェックを行なっている現状がある。そうした要求に応えるために開発されたのがS1LKiであり、Mobile UAなのだ。

Mobile UA
↑PCと接続したMobile UAにイヤホンを接続すれば、一般的なオーディオDACと同じ使い方ができる。

●実際に使ってみる

 Mobile UAを使うには専用のドライバーソフトウェアのインストールが必要だ。インストールが完了すると本体の各種設定が行なえるようになる。

 接続はmicro USBケーブル1本という手軽さだ。接続すると本体パネルのUSBランプが点灯、鮮やかなLEDインジケーターが流れるように光る。このLEDインジケーターはボリュームレベルとレベルメーターとして機能する。隣にはボリュームボタンがあり、それぞれがUP/DOWNに割り当てられている。通電中はボリュームボタンを操作するとLEDインジケーターがボリュームレベル表示へ切り替わるようになっている。

Mobile UA
↑USBを接続して起動した状態からボリューム操作まで。LEDが滑らかに光るのが独特だ。

 いつものようにiTunesのファイル(AACロスレス)を再生してみると、ソースは44.1kHzなのに驚くほどにクリアーな音だ。特に高音域はそう感じられる。アップサンプリングを行なうと、ザラツキが感じられることがあるが、そういうことは皆無だった。独自開発DSPのS1LKiの効果だろう。

 次にハイレゾデータを再生するためにAudirvana(Mac OS用)を起動して、DSDファイル(5.6MHz)を再生してみた。iTunesよりも臨場感、楽器の定位感が格段にクリアーになった。聴いていて気持ちいいので、どんどん音量が上がっていってしまう。気が付けばふだん聴かないような大音量で聴いていた。聴き疲れしにくい音は、仕事で長時間使う際にメリットになる。

 内蔵アンプは158mW+158mW(40Ω負荷時)というハイパワーなので高インピーダンスのヘッドホンにも余裕で対応できる。これはライブ時にパフォーマー側が使うモニター出力を想定しているためだ。

 オーディオ用と異なり、音色にはほとんど味付けはされておらず、原音再生なのは用途からすると当然なこと。組み合わせるイヤホンやヘッドホンは相応なものが必要だろう。プロ用機材(今回はUniversal Audio社のappolo QUAD)と比較してやや帯域が狭い感もするが、簡易用機器としては十分。プロでなくてもデジタルで音楽製作をやっているならば、とても便利な機材に違いない。

Mobile UA
↑デジタルミュージックの製作現場でも活用できるのも、Mobile UAならではのもの。

■関連サイト
Mobile UA製品ページ

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