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カプコンがMantle対応予定 AMD次期APU“Carrizo”の概要を明らかに【笠原一輝氏寄稿】

2014年11月21日 14時15分更新

 半導体メーカーのAMDは、シンガポール共和国 セントーサ島にある『W Singapore』において、同社の顧客や報道関係者を対象にしたプライベートイベント“AMD Future of Compute”を、11月20日(現地時間)に開催した。このイベントは、AMDのAPJ(Asia Pacific Japan、日本を含むアジア太平洋地域)が主催して行なわれたもので、同社のマーケティング担当副社長、テクノロジー担当副社長など、同社幹部もそろい、今年同社が発表した製品や、今後同社が発表する製品についてのプレゼンテーションが行なわれた。

 この中で同社の副社長 兼 製品担当CTOのジョー・マクリー氏は、同社が今年に発表したメインストリーム向けAPUとなる“Kaveri”(カベリ)の後継製品で、2015年にリリースを予定している“Carrizo”(カリッツォ)の概要を明らかにした。マクリー氏によればCarizzoは、ノートPC向けのCarrizo、ローパワー向けのCarrizo-Lの2つの製品が用意されており、前者はKaveriの後継に、後者はBeemaの後継という位置付けになる。

 また、イベントにはPCMarkや3DMarkなどのPC、スマートフォン向けベンチマークで知られるFutureMarkもゲストとして呼ばれており、FutureMarkは、同社の3DMarkにおいて、年内にMantleに対応した機能テストを追加することを明らかにした。

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↑Carrizoの概要を説明するスライド。

Kaveriの後継となるCarrizoと、Beemaの後継となるCarrizo-Lを2015年に投入へ

 AMD副社長 兼 製品担当CTOのジョー・マクリー氏は、同社が導入を進めている“HSA”(Heterogeneous System Architecture)の概要を説明した後、HSAに対応した第2世代のAPUとして、開発コードネームCarrizoの構想を説明した。

 

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↑AMD 副社長 兼 製品CTO ジョー・マクリー氏。

 現在AMDが販売しているHSA対応のAPUは、今年の1月に発表されたKaveriで、Carrizoはその後継製品となる。マクリー氏によれば、Carrizoには2つの製品が予定されており、具体的には以下のようなスペックになるという。

コードネーム Carrizo Carrizo-L
前世代の製品(コードネーム) Kaveri Beema
CPU Excavator(最大4コア) Puma+(最大4コア)
GPU 次世代GCN GCN
HSA対応 HSA1.0対応 -
セキュリティープロセッサー
構成 SoC SoC
TDP 15-35W 10-25W
パッケージ FP4 BGA FP4 BGA
製造プロセスルール 28nm 28nm
投入時期 2015年1H 2015年1H

 

 Carrizoの特徴は、いわゆる“SoC”(System-on-a-Chip)というサウスブリッジまでもが統合されているチップになっていることだ。Kaveri世代では、APUとサウスブリッジが分離している2チップ構成になっていたので、プラットフォーム的にはこれが最大の違いになる。

 これに合わせてパッケージも変更され、新しくFP4 BGAというパッケージが導入される。これはKaveriのFP3 BGAや、BeemaのFT3 BGAとも異なる新しいパッケージになるため、OEMメーカーはCarrizo世代のノートPCや2-in-1デバイスを製造する場合には、マザーボードを完全に更新する必要がある。

 ただし、ノートPC向けのCarrizoと、2-in-1デバイス向けのCarrizo-Lが同じパッケージになる。KaveriとBeemaは異なるパッケージなので、別のマザーボードが必要だったのに比べると、CarrizoとCarrizo-Lは同じマザーボードを共有できるので、OEMメーカーにとっての自由度は上がることになる。

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↑AMDが公開したモバイルPC向けロードマップ。CarrizoはKaveriの後継になり、Carrizo-LはBeemaの後継となる。Mullinsは2015年も引き続き継続して提供される。

 CarrizoとCarrizo-Lは同じCarrizoという名前を共有しているが、CPUとGPUの観点からはまったく異なる製品となる。従って、異なるAPUだが、ピン互換になっているというのが両製品の正しい位置付けになるだろう。CarrizoはCPUが“Excavator”という新開発のコアで、GPUは次世代のGCNアーキテクチャーのRADEONになる。

 これに対してCarrizo-LはCPUが“Puma”(Beema/Mullinsで採用されていた低消費電力のコア)の改良版となるPuma+で、GPUがGCNアーキテクチャーのRADEONとなる。アーキテクチャー面での両者の最大の違いは、CarrizoがHSAに対応しているのに対して、Carrizo-LはHSA未対応となる。

 両者に共通して内蔵されるのが、セキュリティープロセッサーだ。ARMのCortex-A5ベースのプロセッサーが内蔵されており、ARM社が提供する“TrustZone”というセキュリティーソフトウェアの仕様をサポートする。このセキュリティプロセッサーは、Beema/Mullinsには内蔵されていたが、Kaveriには内蔵されていなかった。しかし、Carrizo世代では、どちらにも内蔵されることになる。

 このセキュリティープロセッサーは従来のTPMの代わりに使ったり、セキュリティーソフトウェアがアクセラレーターに使ったりと様々な用途が考えられ、特に企業向けのソリューションで注目を集めそうだ。

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↑AMDが公開したデスクトップPC向けロードマップは更新されておらず、2015年にCarrizoのデスクトップ版があるのかなどは公開されなかった。

 マクリー氏は「Carrizoでは性能が向上するだけでなく、バッテリー駆動時間も伸びることになる」と述べ、Carrizoの特徴は電力効率の改善であるとした。実際、マクリー氏の後に登場したAMDコーポレートフェローであるサム・ナフチガー氏は「Carrizoの電力効率はKaveriの2倍になる」と説明しており、電力効率の改善が2倍を超えることを明らかにした。

 なお、CarrizoのTDP(熱設計消費電力)は15~35Wと、現状のKaveriと同じTDPの枠に設定されている。もっとも、サウスブリッジぶんがなくなっているので、トータルでは減っているということはできるだろう。

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↑Carrizoの電力効率はKaveriの2倍になると予想されている。

 今回の講演では、両者のリリース時期などに関しての言及はなかったが、AMDから発表されたプレスリリースによれば、両製品とも2015年前半中の出荷が予定されており、2015年の半ば以降に搭載製品が投入される予定だという。同時期には、インテルがBroadwell(Core Mや第5世代Core)の後継となるSkylake(スカイレイク、第6世代Core)のリリースを予定しており、CarrizoはSkylakeと競合していくことになる。

FutureMark、カプコンが相次いでMantleのサポートを明らかに

 GPUを必要とする自作PCユーザーにとっては、ソフトウェア関連で大きな発表が2つあった。ひとつは、ベンチマークベンダーのFutureMarkが発表した、3DMarkにおけるMantleのサポートだ。

 FutureMark社長のオリバー・バルチ氏によれば「我々は今後Windows 10のリリースに合わせて『PCMark 10』をリリースし、Direct3D12の登場に合わせて3DMarkのDirect3D12対応版をリリースする」と述べ、同社がMicrosoftが来年リリースするとみられているWindows 10の投入に合わせてPCMark 10を投入し、Direct3D12(いわゆるDirectX12)の投入に合わせて3DMarkのDirect3D12対応版を投入すると明らかにした。それに加えて、今年中にはMantleに対応した3DMarkも投入されるという。

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↑Windows向けPCMarkのロードマップ。Windows 10の発売に合わせてPCMark 10が計画されている。バルチ氏によれば、FutureMarkのアップデートポリシーは、PCMarkの更新はOSのバージョンアップに合わせて、3DMarkの更新はDirect3Dの新バージョンなどテクノロジーの進化に合わせて投入されるという。
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↑PC向け3DMarkのロードマップ。年内にMantle対応版が投入され、Direct3D12の投入に合わせてDirect3D12対応版が投入される。

 ただし、このMantle対応の機能は、フィーチャーテストと呼ばれる特定の機能をテストする限定機能として実装されるという。このフィーチャーテストの結果は、3DMarkの総合結果には影響を与えないため、この機能が実装されたからといって、AMDが3DMarkで有利になるという訳ではない。あくまでユーザーがMantleの効果を測りたいと考えたときに利用するというのがFutureMarkの姿勢だとバルチ氏は語る。「我々の姿勢は、プロプラエタリの技術ではなく、オープンな技術をサポートするというものだ。フィジックスのサポートでも、インテルのHavokやNVIDIAのPhysXをサポートするのではなく、オープンソースなフィジックスをサポートしている。Mantleに対しても同じことで、あくまでフィーチャーテストの機能として対応する」と述べ、どのベンダーに対しても公平さを期すためMantleのサポートはフィーチャーテストにしていることを明らかにした。

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↑Mantle対応版の3DMarkのデモを行なうFutureMark社長 オリバー・バルチ氏。

 このほか、PCゲームユーザーにとって注目の話題としては、Mantleの対応タイトルのアップデートがあった。なかでも、日本のカプコンが開発している自社製ゲームエンジン(ゲームタイトルが利用するソフトウェアの基礎部分)をMantle対応にすべく開発中であることを明らかにしたことだ。これにより、近い将来にそのMantle対応ゲームエンジンを採用したカプコンのPCゲームが登場した暁には、Mantle対応になる可能性が高く、RADEONユーザーにとっては福音となりそうだ。

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↑カプコンは現在開発中の次世代ゲームエンジンにMantleの機能の実装を検討中。

(2014年11月21日21時25分訂正:記事初出時、タイトルに誤字がございました。お詫びして訂正します。)

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