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宇宙ビジネスを加速させる アクセルスペースの超小型衛星

2014年09月12日 08時00分更新

 大学の基礎研究の見本市“イノベーション・ジャパン2014”が2014年9月11日、12日に東京ビッグサイトで開催。ナノテクノロジーからデバイス、情報通信、基礎マテリアルまで様々な分野の研究者が集まり、日々の研究の展示やビジネスの商談などが行なわれていた。

アクセルスペース

 基調講演は“もはや新しく会社を作るしかない!――大学発ベンチャーの挑戦”という題で、アクセルスペースの中村友哉代表取締役CEOが登壇した。小型の人工衛星による世界初の宇宙ビジネスを展開する。講演では人工衛星が大学の学生教育の一環として始まり、その後ビジネスとして起業するまでの軌跡と今後の展開について語られた。

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 通常、人工衛星と言えば高さ数メートル、重量数トンという大きなもので製造にも10年、国家単位のプロジェクトで数百億円というお金がかかってしまう。アクセルスペースでは30センチ立法、重量も10キロという超小型の人工衛星を作成し、打ち上げている。コストも数億円、開発期間も2年、さらにこれを1年未満にしようとしている。また、大きな人工衛星は様々な用途で使われるため、専用で使うことはできない。定期的に衛星写真を撮りたいという場合も必ずしも使えるとは限らないという。自前で衛星を持てれば、衛星写真の順番待ちなども発生しない。そこにビジネス的チャンスを見つけ、企業が自前の衛星を持てるよう進めている。

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 大学時代に研究で小さな衛星をつくるプロジェクト“Cansat”を始めた。Canだけにジュースの空き缶に電子基板、通信機などを本物の人工衛星に詰め込む機器類と同じものを詰め込み、ロケットに乗せて発射。高度4キロからパラシュートを開いて落として、通信する実験を行なった。このCansatは10年以上たってなお、学生のものづくりイベントとして受け継がれ、技術やプロジェクト管理を経験できる、衛星事業を目指す学生の登竜門になっているという。

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 中村氏は次の段階として、宇宙に行く衛星をつくりたいと大学の研究室で作成した。10センチ立法のキューブに、衛星に必要な機材を埋め込み、2003年にロシアで打ち上げた。最初の目標は宇宙に1週間生き残ること。余計な機能は一切付けなかったが、実験でカメラを搭載。今でもこの衛星は生きており、アマチュア無線家に一部のコマンドを提供して、使われている。

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 さらに研究を続け実用できる段階まで近づいたところ、誰もが使えるツールにしたいと考えた。どうすればできるか、大学に残って研究を続けては普及を目指すのは難しい。しかし民間の宇宙ビジネスは現状、大きな衛星はあるが、小型衛星は市場自体が存在しない。今でこそ大学生の起業は珍しくないものの10年前は盛んではなかった。JST(科学技術振興機構)の大学発ベンチャー支援制度を利用して、起業を果たした。

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 開発期間が短く、数億円のコストで専用の人工衛星が持てるというビジネス的なメリットはあるが、実際に使おうという段階でどういう利用用途があるかで苦戦した。そこに現れた救世主がウェザーニューズだ。海運業者がどういう航路を通れば、安全に運搬できるかという情報を提供するOSRサービスというビジネスを行なっていた。当時、夏の北極海で溶けた氷の間をとおり、日本から欧州に荷物を運搬する“北極海航路”が注目されていた。スエズ運河、喜望峰回りよりも低コスト、短期間で運搬が可能。しかし、氷を避ける安全な航路がわかるOSRが必要だった。通常の衛星からの情報をもらうのではコストも高く、情報の新鮮さに欠けてしまう。そこでアクセルスペースの、超小型衛星に白羽の矢が立ったのだ。

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 ウェザーニューズは流氷を感知し、安全な航路をクライアントに紹介できるようになる。このように専用衛星を持つことの新しい需要を創出できた。中村氏の次の目標はたくさんの衛星を軌道上に打ち上げて、衛星を誰でも使えるインフラにすることだ。現状の大型衛星は細かい写真は撮れるが、同じ場所を撮るのに2週間かかってしまう。そのため、たくさんの衛星を打ち上げて衛星群をつくり、リアルタイム地球観測システムをつくることを考えた。

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 ひとつの衛星がある場所を撮影したら、違う衛星がまた同じ場所を撮影できる。その写真を無料で、リアルタイムでさまざまな情報を公開する。農業や遠隔地のプラント管理、交通渋滞の監視などの様々な用途を想定しているという。

 大学の研究から始まり、起業を考え、大学の研究からビジネスの場にへの挑戦。アクセルスペースはまったく新しい宇宙ビジネスを創出しようとしている非常にチャレンジングな企業だ。今後に期待していきたい。

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■関連サイト
イノベーション・ジャパン2014
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