週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

日本の農業機械のテクノロジーをアフリカから学びに来てる!

2014年08月14日 11時00分更新

日本の農業機械のテクノロジーを学びに世界から!

 皆さんがあまり知らないジャンルでも、日本製品は世界で高く評価されています。その一例が「農業機械」です。

■日本の農業機械のテクノロジーは世界トップクラス!

 日本では、1953年(昭和28年)に施行された「農業機械化促進法」以降より、急速に農業の機械化が進みました。農林水産省の統計データによれば、米生産の労働時間(10a当たり)は以下のように短縮されています。

・育苗作業 57%
・耕起整地作業 69%
・田植え作業 86%
・除草作業 90%
・管理作業 43%
・刈り取り脱穀作業 90%
・その他作業 77%

(注)1970年(昭和45年と比較)した2011年(平成23年)の、農作業の労働時間の削減率

 農業機械等による省力化がいかに進んでいるかがよく分かりますね。

 また、「アメリカのような大規模な農地で使う農業機械はともかく、中小規模の農家が使う農業機械においては、日本メーカーの農業機械の右に出るものはいない」といはよくいわれることです。

 最近では、「ロボット化」「省エネ化」などの方向性でも開発が進んでいます。

 「ロボット化」に関しては、例えば、準天頂衛星初号機「みちびき」の安定したGPS機能によって、トラクターを数cm単位でコントロールし、自走させる実験などが行われています。

⇒測位衛星を利用した農機の自動走行を紹介するJAXAのページ
http://www.jaxa.jp/article/special/michibiki/noguchi_j.html

 この農業機械のロボット化は大きなトレンドで、徐々に実験から実用へと進歩を続けているのです。

■世界から日本に農業機械について学びに来る!

 このように、農業機械のテクノロジーを進化させている国は世界的にも大変珍しく、またその技術力は世界的に注目されています。

 日本が、世界から農業機械について学ぶ研修員を受け入れているのをご存じでしょうか。今回はJICA(独立行政法人 国際協力機構)が毎年実施している農業機械分野の研修について取材しました。

 JICA筑波 研修業務課 主任調査役の日原一智さん、NPO法人-IFPaT-国際農民参加型技術ネットワーク 主任研究員の綿引 忠さんにお話を伺いました。綿引さんは、JICAの委託を受けて、JICA筑波で農業機械分野の研修の指導を行っています。

■すでに50年の歴史! 現在はサブサハラアフリカからの研修員が多い!

――農業機械分野の研修とはどんなものですか?

日原さん 開発途上国から研修員を受け入れ、稲の育苗から収穫後処理までを含む9カ月ほどのカリキュラムで農業機械の利用や製作について学ぶ場となっています。こういった研修が始まってから、ちょうど今年で50年目になります。

――ずいぶん歴史のある研修なのですね。

日原さん もともとは、日本と同じモンスーンアジアで、水稲作をしている東南アジアの国々の人が研修員の中心として、稲作に関する農業機械の知識を広めることを行っていました。

綿引さん 現在では東南アジアの国々も発展して、独自の農業機械メーカーもありますし、機械化も進んでいます。ですから今は、より機械化のニーズの高い国からの研修員受け入れにシフトしてきています。

――具体的にどんな国から研修員が来ているのでしょうか。

日原さん 現在はサブサハラアフリカ諸国からの研修員が多いです。例えば今年は「タンザニア」「ブルキナファソ」「マリ」「ウガンダ」「ザンビア」といった国です。

――毎年何人ぐらいの研修員がやって来るのですか?

日原さん 8~9人といった感じですね。

――どんなカリキュラムなのですか。

日原さん 毎年少しずつ変わっています。現在の研修コースは農業機械利用についても学びますが、実際に自分の国に適し、かつ農民からのニーズの高いた農業機械を研修員に試作させることを中心に行っています。

JICA
↑耕耘機のボディの部品作り
JICA
JICA
↑エンジンの分解、再組立て成功!

――自分でゼロから作るのですか?

日原さん はい。農業機械どころか電気もろくに来ていないような村が多い国もあります。そういった国では、トラクターなどの動力機械化されているのがわずか1%のところもあり、ほとんどは人力、畜力を使って農業を行っています。

綿引さん そういった国に日本の農業機械を持っていってもすぐにフィットするとは限りません。むしろ問題が起こることが多いのです。また、メンテの問題もあります。維持するため、修理するための部品がすぐに入手できるとは限りません。

――なるほど。

綿引さん ですから、自分の国で維持・修理できる農業機械、自分の国に合った農業機械を製作する実習を行うのです。また、その農業機械の現地適応化、製品化、普及に係る資金を調達するため、国際機関や先進国の援助機関等、潜在的スポンサーの掘り起しをするためのプロポーザルの書き方も教えます。

 研修に来た人たちが、自分の国に帰っても徒手空拳で何もできないのであれば困りますよね。彼らが持って帰った「種」を多くの人が認めて、その国で大きな花を咲かせるためには、プロポーザルのプレゼンもできなければならないでしょうから。

■日本の農業機械は1960年代に急激に発展! 現在では世界最高水準

――日本の農業機械はいつから発展してきたのでしょうか。

日原さん 戦争で日本は大変なことになりました。戦後当初には、アメリカ式の農業機械化モデルを導入しようとしましたが、日本でそのまま使えるものはなかったのです。

 例えば、航空機直播などは狭隘な我が国の水田を有効に利用するにはあまりに大きすぎて使えない、とかですね。

――なるほど。日本では独自に始めることになったのでしょうか。

日原さん 明治維新のころと同じです。「和魂洋才」といいますか、海外から取り入れたものを、日本に合うように徹底的に改良し、そうして独自のものを作り上げたのです。

――日本で農業機械が発展しだしたのはいつですか?

綿引さん 1960年代ですね。耕運機から始まって、バインダー、自動脱穀機、コンバインと急激に多様化、進歩していきました。またそのころに、農業機械のエンジンのディーゼル化が進みました。

 高度成長期が始まってきましてので、農家でも農業以外の収入が多く、そのお金を農業機械に投じるという動きがあったのです。こうして農業の機械化が進みました。

――では、メーカーでもそのころに開発が進んだのですね。

綿引さん はい。急激に開発が進みましたね。

――日本の農業機械への評価は世界でも高いと聞きますが。

綿引さん はい。おそらく世界最高水準の精度を持つ機械だと思います。細部まで考えてよくできています。日本人は「作り込み」に関しては一生懸命やりますからね(笑)。

■農業は食べ物を作る大事なもの!

――農業機械研修の意義は何でしょうか。

日原さん 農業は、人間が生きていくことに欠かせない「食べ物」を作る大事な産業です。農業機械はそれを助けるものです。人間の生きていく一助になるという意義があると思います。また、日本の若い人にも農業についてよく知ってほしいと思います。

綿引さん そうですね。読者の皆さんにも、このように世界から農業について学びに来ている人がいることを知ってほしいと思います。また、日本の農業を考えるきっかけになってもらえればと思います。

――ありがとうございました。

 日本で行われている農業機械研修は、世界の国々に、人材という大事な「種」をまく仕事なのです。日本で学んだことがその国の農業の発展に寄与するとしたら、それはとても価値のあることではないでしょうか。

⇒『独立行政法人 国際協力機構』の公式サイト
http://www.jica.go.jp/

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう