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パズドラ山本P「パズバトは僕にとってご褒美です」(中編):召喚★アプリ神

2014年06月12日 15時00分更新

 話題のスマホゲームのクリエイターとスクウェア・エニックス安藤武博氏が対談する連載『召喚★アプリ神(ゴッド)』が、週刊アスキー本誌で開始しました!週刊アスキープラスでは誌面では掲載しきれなかったインタビュー内容を3回に分けて掲載します。

 第1回目のゲストはこの人、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの『パズル&ドラゴンズ』プロデューサー、山本大介さんです。(前編中編後編

召喚★アプリ神

■ アーケードで好評稼働中!パズバト制作裏話

安藤武博氏(以下、安藤):この2年の僕たちを振り返っての大きなトピックといえば、ついに先日、2014年4月24日からゲームセンターで『パズドラ バトルトーナメント(以下、パズバト)』が稼働したことですね。これも感慨深いです。

山本大介氏(以下、山本氏):感慨深いですね、本当に。

安藤:パズバトは我々と共同開発をしたものなんですが、筐体を見た時にグッときました。“ガンホー”と“スクウェア・エニックス”と書いてある。

山本:かっこいいですよねー。

安藤:当社の野村哲也の絵も載っていますしね。山本さんが紡ぎあげてきたものを、うちのゲームセンターの開発チームがしっかり拾い上げて、ゲームセンターならではの遊びに仕上げていますよね。

山本:今回は、僕のつくるタイトルとしては珍しくあまり関わっていなくて、あくまでも監修の立場でした。でもやっぱり最後の最後まであれこれ言わせていただいて、もう監修の域じゃなくなっていましたね。スクウェア・エニックスのスタッフの方はあきれているかもしれません(笑)。

安藤:手を入れてみてどうでしたか。ロケテストの時と比べて、最後にもうひと伸びありましたか?

山本:今回は僕がパラメーターを調整するわけではないので、ざっくりとした概念しかお伝えしていないんですけど、これまで体力タイプのHPが高くてすごく強かったんです。逆に回復タイプがすごく弱くて瞬殺されていたんですね。なので最後に大きな調整をかけてもらうときに、それだと最後に粘って回復できないからという話をしたんですが、そうすることでプレイ時間が伸びてしまうのはアーケード業界的にNGみたいなんですよ。でもダメージなどを調整していただいて、また良くなりましたね。

安藤:ワンコインでのプレイ時間が長くなったと(笑)。それって山本さんが学生のときに好きだった、カプコンの『ダンジョンズ&ドラゴンズ』に近いですよね。

山本:そうなんですよ。

安藤:あれも100円でかなり粘れたじゃないですか。コツさえつかめばずーっと遊べるゲームで、それに近い要素がパズバトにも入ったということですよね。そういう調整はファンに愛されますよね。

山本:アーケード版のプロデューサーの門井さんには、「これだけ遊べるゲームだと、今のゲーセンでは1プレイ200円です」と言われました。でも100円でお願いしますと最初から言っていたので、最後はそこも実現していただきました。100円で遊んで楽しいと思ってもらえれば次につながりますから、今回はやりましょう、と。

召喚★アプリ神
↑4月24日からスタートした、リアルタイムに全国のプレイヤーと対戦できるアーケードゲーム。

■ パズバトは山本氏にとっての“ご褒美”

山本:僕はゲーム業界に入って10数年経つんですけど、まじめに頑張っているとご褒美があるなと思いましたね。

安藤:山本さんにとってパズバトはご褒美なんですね。

山本:ご褒美ですね。正直パズドラがヒットしてすごく嬉しいですし、『パズドラZ』の100万本も嬉しいんですけど、それ以上にアーケードで出ることのほうが嬉しいですね。

安藤:山本さんのゲーム制作の歴史にリアルタイムで立ち会えたのは、僕もすごく嬉しいです。

山本:もともと安藤さんに柴さんを紹介していただいたところから始まったんですよね。

安藤:プロデューサーとしてはああいった紹介は普通にやることなんですけど、確か2012年の東京ゲームショウで、セガさんのブースのトークイベントでご一緒させていただいたあとに、山本さんに飲みに誘っていただいたのがきっかけでした。ちょうどAndroid版のパズドラが始まっていて、これからもパズドラは伸びそうだっていうときでした。その頃、山本さんはゲームセンターのゲームをつくりたいとずーっとおっしゃっていましたよね。

山本:そうでしたね。

安藤:それですぐ、うちのゲームセンターの開発チームでいちばんイキのいい柴を紹介しようとヒラめいたんです。柴はゲーム関連のメディアでは結構有名な人間ですが、『ロード・オブ・ヴァーミリオン(以下、ヴァーミリオン)』のプロデューサーで、僕の中学以来の同級生。
 また同時期に、柴といっしょにヴァーミリオンと『ガンスリンガー ストラトス』を手がけた門井信樹も、ちょうどパズドラで何かできればと考えていた。過去に『エレメンタルモンスター』とヴァーミリオンでコラボしたことがあって、門井と山本さんは実は旧知の仲。いざ、みんなで会ってみると、それぞれがつながっていて、意気投合してスタートしましたね。

山本:意気投合しましたね。

安藤:手前味噌になりますけど、パズバトを始めるにあたって柴のチームに相談してよかったなと思いました。何年もやっていてゲーセンのことを知り尽くしているから、パズドラをお預かりしても山本さんが望むような形に仕上げてくれるだろうと。結構早いタイミングで対戦形式にすると決めて、トーナメント戦のアイデアも出てきて、そこから一切ブレずに進行していきました。
 パズドラって新作が出ていないと思いがちですけど、パズドラZもパズバトも新作として考えると、相当チャレンジングな展開を短い期間にやっていますよね。

山本:どちらも全然新作なんですよね。まったくパズドラと違うものになっていますし、マルチ展開というより、プラットフォームに合わせて全部新作をつくっている感じですよね。

安藤:それぞれのタイトルに、数値化はできないけど色気のようなものもきちんとありますよね。パズバトなら筐体にすごく色気があるし、インターフェイスとか動いているキャラクターとか、気分を高めていくようなエフェクトも、すごくゲームセンターで遊びたい感じになっている。

山本:パズバトはパズドラではあるんですけど、いい意味でヴァーミリオンっぽさが出ていますよね。

安藤:やっぱり出るんですよね。門井も考えていると思うんですけど、スクウェア・エニックスが取り扱う意味、お客さんに「スクエニが手がけただけのことはあるね」って言っていただかないと、わざわざ当社でやる意味がないので、門井としてはゲームの画面の色気も出したでしょうし、キャラクターデザイナーとして当社のアイコン的な存在である野村哲也も口説いたと思うんです。

山本:絵を描いていただいただけではなくて、僕は初めてフルオーケストラの収録に立ち会わせていただいたんです。ゲームのBGMにフルオーケストラを使用するという経験が私にはありませんでした。また、使用することでスクウェア・エニックスっぽさを出たのではないかと思います。

安藤:今回は伊藤賢治さんに加えて田中公平さんが参加されているんですよね。

山本:イトケンさんの曲は『ロマサガ』を思い出しますし、本当にスクウェア・エニックスっぽくていいです。

安藤:結局今ってシンセサイザーとかサンプリング音源が発達しているから、数値上よく似た音楽を収めることは可能なんですけど、デジタルでは表現しきれない周波数や響きや雰囲気とかが、フルオケにはあるんですよね。
 神は細部に宿るというか、ディテールにいちいちこだわってつくるのが、ゲーム屋としての心意気だと僕は思う。売り上げのデータだけを見ると、そんなところにこだわってインカムに影響あるの?っていう話になりそうなんですけど、我々は今までそこにこだわってきたからこそ、10年20年経ってもファンの人に思い出してもらえるものをつくることができているんじゃないかなと思います。

山本:今回はイトケンさんの曲も田中公平さんの曲もあるんですけど、イトケンさんの曲を田中さんにアレンジしていただいて、生音を入れた曲もありました。全然違いますよね、こんなに変わるんだっていうぐらい。スクウェア・エニックスさんのゲームのつくり方のほんの一部に過ぎないかもしれないですけど、共感できたというか、ああこういうふうにつくるんだと思いました。それも含めてご褒美でしたね。いい経験をさせていただきました。

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■ スマホゲーム業界に浸透していく垣根を超える楽しさ

安藤:イトケンさんはパズドラでも曲を書いていますけど、今、あらためて旬の人ですよね。我々もお付き合いさせていただく機会は多いですし、『拡散性ミリオンアーサー』の音楽を頼んでいたヒャダインさんもイトケンさんの影響を受けていて、それを公言してはばからない。そういうこともあって、今度の『乖離性ミリオンアーサー』では、曲はイトケンさんとヒャダインさんのタッグで、主題歌を水樹奈々さんに歌ってもらいました。

山本:それは豪華ですね。

安藤:田中公平さんとヒャダインさんも対談したりしていますし、今は良いものをつくる人のヴァイブスというか、渦みたいなもの、運動エネルギーみたいなものがいろんなところで高まってきている感じがして、個人的にすごく嬉しいですね。

山本:今年の4月には、池袋で田中公平さんとイトケンさんのコラボライブが開催されましたよね。去年からのこの流れと関係あるのかはわかりませんが、そうやって発展していくのもいいですよね。

安藤:コラボライブの話もそうなんですけど、人と人の感情の動きでものごとを盛り上げるということを僕らがやっていくべきだというのは、特に山本さんと仲良くなって改めて感じたことなんですよ。

山本:同感ですね。

安藤:山本さんは元ハドソンで、僕は元エニックス出身ですが、コンソールの業界って産業構造的に縦割りにならざるを得ない時代があって、他社の作品を潰すような戦略が存在したりしていましたよね。そんな時代には、ほかの会社の人と仲良くなって、自社やクリエイターのノウハウを流通させるのはもっともNGとされていたことでした。
 でも今回の流れをたどると、本当に早い時期にガンホーさんにおじゃまさせていただいて、意気投合して、その年の年末にはコラボイベントでパズドラにチョコボが出ていたわけです。

山本:そうでしたね。

安藤:そのスピード感ってスマホ登場以降の動きですし、企業間の垣根を超えたときに、むしろそのほうがお客さんも含めてみんなハッピーになるんだと初めてわかったんです。ものづくりの本質をわかっている人どうしが協力して、感情のエネルギーを大きくすればするほど良い動きになるということを実感した最初のきっかけでした。

山本:楽しかったですよね。会社の垣根を超えて、いっしょに作品をつくっていた感じがありました。

安藤:山本さんが発注して、イトケンさんがわざわざバハムート戦の曲を書きおろしてくださって、絵はうちの伊藤龍馬がコラボ専用にすべて描き下ろすみたいな。僕と山本さんの2人で、今後のコラボの品質基準をつくろうと決めたじゃないですか。何かと何かのインセンティブで、登録すると1枚カードがもらえるような安易な手法が流行るとおもしろくないよねとか、いろいろ話し合って、本当に会社の垣根を越えて共同制作しましたよね。
 今回のパズバトも、ものづくりの質はほぼ同じで、こういうのっていいなって思いますし、それは初めて山本さんに出会ったときから感じていたんです。今スマートフォンの世界に軸足を置いて仕事をしていて、それが僕にとっていちばん楽しいことかもしれません。

山本:それはあるかもしれないですね。

安藤:PS2とかDSの時代までは、クリエイターの方とお会いしても、じゃあいっしょにやりましょうなんて考えられなかった。たまたまパーティーなんかでお会いできても、かしこまって名刺を交換して終わりでした。でも今は波長が合ったら、いっしょに何かを生み出してファンを喜ばせることができないか、そんな話がスピード感をもってまとまっていく。それも大きな革命のひとつかなと思いますね。

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↑スクウェア・エニックス安藤武博氏。

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