2014年04月03日22時00分

なぜライバルのKDDIとソフトバンクがタッグを組んで発表会を行なったのか?

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • Pocket

 去る4月2日、通信事業でライバル同士のKDDIとソフトバンクモバイル、そしてイー・アクセスの3社が合同で記者会見を開催するという、異例の出来事があった。その内容は、総務省に対して、NTTグループに設けられている規制を緩和する方向で検討していることについて、慎重な検証を求める要望書を提出したというものだ。しかし一体なぜ今、NTTグループの規制緩和という議論が起きているのだろうか。そしてなぜ3社は、手を組んで総務省に要望書を提出するに至ったのだろうか。

NTT規制緩和

↑会見に登壇したイー・アクセスの大橋氏、ソフトバンクモバイルの徳永氏、KDDIの藤田氏の3人。

 そもそも今回の出来事の背景には、国の情報通信政策が大きく影響している。政府は2013年6月に“日本産業再興戦略”を閣議決定しているが、その中で“世界最高レベルの通信インフラの整備”を実現するために必要な制度の見直し等を検討し、2014年中に結論を得ると記されたのである。そこで総務省は、情報通信審議会に諮問し、2020年に向けた通信市場の競争環境を見直すべく『2020-ICT基盤政策特別部会』という有識者による会合を開き、議論を進めているのだ。

 この会合では、事業者間の競争環境や、高速で安価、かつ安心安全に利用できる情報通信インフラやサービスのあり方など、通信事業のさまざまな要素について検討がなされている。だがそうした議論テーマの中でも、特に注目を集めているのが、NTTグループの規制緩和についてだ。NTTグループは元々国営企業であるため、国内の固定電話や携帯電話などで非常に高い市場シェアを持つ。そのため現在、NTT東西とNTTドコモは電気通信事業法によって、事業展開する上でさまざまな制約が課せられている。

 そうした規制の中でもよく取り上げられるのが、携帯電話と固定ブロードバンド回線をセットで契約すると割引が受けられる、『auスマートバリュー』に代表される“セット割”ができないこと。なぜセット割ができないのかというと、NTTが電気通信事業法の第30条第3項によって、特定の事業者に対し不当に優先的な取扱いをしたり、逆に不利な扱いをしたりすることを禁じられているため。つまりNTTドコモのスマートフォンと、NTT東西のフレッツ光によるセット割をすると、“特定の事業者を不当に優先的な扱いをしている”と見なされ、違反となってしまうのだ。

NTT規制緩和

↑NTTドコモやNTT東西に課せられた禁止事項を定める、電気通信事業法 第30条の概要。特定の事業者を不当に優先、あるいは不利に扱うことを禁止している。

 この禁止行為の存在は、セット割だけでなくさまざまな事業に影響を与えている。例えば最近話題のMVNOに関しても、禁止事項があるため特定の事業者だけを優遇して扱うことができないため、全ての企業に平等なサービスを提供しなければならず、サービス間の差が生まれず画一化してしまうなどの問題も生み出している。

 NTTグループにはそうした規制がある一方で、グーグルやアップル、アマゾンなどインフラに紐付かないOTT(Over The Top)の事業者には同じ規制をかけることができない。競争環境が大きく変化し、競争相手がネットワーク事業者同士だけでなくOTTにも広がっていることから、国内事業者の競争力を高める上でも規制の撤廃を求めたいというのが、NTTグループ側の主張となっているようだ。

 そうした主張に対し危機感を抱いたのが、今回会見を開いた3社のほか、通信事業を展開する65の事業者や団体などである。実際、総務省へ要望書を提出するに当たり、KDDIの理事渉外・広報本部長である藤田元氏は会見において、「NTTグループの支配力は依然として大きい。それにも関わらず規制緩和ありきで議論がなされるのは問題だ」と話すなど、強い懸念を示している。

NTT規制緩和

↑総務省に提出した要望書の概要。NTTグループの規制緩和ありきで議論が進むことへの懸念を示している。

 またソフトバンクモバイルの常務執行役員財務副統括担当兼渉外本部本部長である徳永順二氏は、NTTグループは最近不調が伝えられることが多いものの、FTTHで72%、携帯電話でも45%と、国内で依然として大きなシェアを獲得していると説明。そうした状況下で電気通信事業法を見直し、禁止行為を撤廃した場合、シェアの高いNTTグループ同士で排他的な連携ができるようになり、競争環境が歪められ独占回帰につながってしまうと、影響の大きさを指摘している。

NTT規制緩和

↑NTTグループは今なお高い市場シェアを持っているとのこと。

NTT規制緩和

↑NTTグループの禁止行為を撤廃した場合、NTTグループ同士での連携も可能となり、それが独占回帰につながるとしている。

 今回の会見や囲み取材での話を聞いていると、要望書提出に至った背景には、NTT側が規制緩和に関して積極的なメディア戦術を展開し、複数の報道機関が「NTTグループの規制緩和を総務省が検討している」と報じたことが大きく影響しているようだ。それだけに要望書の提出は、NTTグループの規制緩和だけが会合の焦点となってしまうこと、そして当初から規制緩和ありきの方向で議論が進んでしまうことを危惧しており、あくまで先入観のない、ゼロベースでの議論を求めることに主眼を置いているという。

 一方で今回の要望書は規制解除にイエスかノーかの方向性を明確に示すものではなく、結論はあくまで議論を進めた上で出すべきとも説明している。KDDIやソフトバンクモバイルなど各企業としては、あくまで今後実施される各事業者へのヒアリングで、主張したいことを主張していくと話すにとどまっており、規制に関しての踏み込んだ話を聞くことはできなかった。

 現在、NTTグループ以外の通信会社が増えて競争が活性化したのは、通信の自由化に加えNTTグループに対して規制がかけられたことが大きいのは確かであるし、それだけに独占が復活して競争が起きにくくなることを懸念するのも理解できる。だがスマートフォンで日本の携帯電話の競争環境を大きく変えたのはアップルやグーグルであるし、最近ではソフトバンクが米国のスプリントを買収し、NTTドコモの売上を超えたと主張するなど、競争の軸が世界的規模で大きく変化しているのもまた事実。国内のシェアだけで縛られてしまうと身動きが取れなくなるというNTT側の主張も、あながち間違いとは言えない。

 それだけにNTT以外の事業者が、単に国内のシェアありきで規制を継続するべきという従来の姿勢を示すだけでは、主張が認められにくくなりつつあるようにも感じている。規制に関する議論の際には、海外のOTT事業者などとの競争などを見据えた提案などが、必要になってくるだろう。

 またそもそも、国内の規制だけに終始し、国内の事業者同士が反発し合うというのは、2020年の日本を見据えた議論とは言い難い。NTTだけでなく、国内の通信事業者全体で国際競争力を高め、ユーザーの利便性を高めつつ日本の成長につながるための議論が、強く求められるところだ。2020-ICT基盤政策特別部会では今後、通信事業者などへのヒアリングをした上で議論を進め、今年の秋には報告書をまとめるとしている。NTTグループの規制緩和の議論だけでなく、今後の通信政策を見る上でも動向をチェックしておきたい。

関連記事

あわせて読みたい

最新のニュース

アスキーストア人気ランキング

アクセスランキング

Like Ranking