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「PS4だから実現できたProject MorpheusとVR」 SCE吉田氏インタビュー(前編):GDC2014

2014年03月22日 13時00分更新

 米国サンフランシスコで開催している、世界最大のゲーム開発者会議“Game Developers Conference 2014”(GDC)。そのセッションでソニー・コンピューターエンターテインメントが発表したバーチャルリアリティーヘッドマウントディスプレー『Project Morpheus』は、日本でも大きく注目を集めている。

Project Morpheus

Project Morpheus

 同じVR向けのHMDでは、昨年、誰でも買える開発者向けキットをリリースした米Oculus VRの『Oculus Rift』が先行しているが、そうした状況の中、SCEはなぜこのタイミングでMorpheusを発表したのだろうか。今後、同社はどうやって開発者を巻き込んでVRに取り組んでいくのか、ゲームにどういった影響を与えるのか。SCEワールドワイド・スタジオ代表取締役会長である、吉田修平氏にその胸の内を聞いたインタビューを、前後編の2回にわけて余すことなくお届けしよう。

SCEワールドワイド・スタジオ代表取締役会長 吉田修平氏

Project Morpheus

――先ほど深海に沈んでいく『The Deep』や、宇宙空間でのシューティング『EVE Valkiry』などのデモを体験しましたが、率直に没入感がスゴいですね。驚いたのは、戦闘機で宙返りを繰り返すみたいに映像酔いしそうな操作をしても、ほとんど酔いを感じなかったことです。そこまでハードを追い込まれて出したんだなって。

吉田 ありがとうございます。

『EVE Valkiry』のデモを体験する筆者

Project Morpheus

――GDCの前に、SCEさんがヘッドマウントディスプレーを出すんじゃないかというウワサがありました。同じソニーの“HMZ”シリーズのように従来のHMDの延長であったら、先行する『Oculus Rift』の体験に勝てないと危惧していましたが、予想を上回る本気でつくり込んだ製品が出てきたという印象です。

吉田 ソニーのHMDの人たちとは、ずっとコミュニケーションをとってるんです。Morpheusのプロトタイプが彼らの製品を応用したもので、PlayStation Moveと一緒に使っていたぐらいですから、彼らにも見せたり、研究成果を提供しています。でも、彼らがつくっているのは個人用のシアターで、われわれがつくりたいのはゲームの中に入るというVR。目標が全然違うというのがすぐに分かって、「こっちはこっちでやります」と別のプロジェクトとして立ち上げました。

 その状態でずっとやってきて、HMZの開発チームは商品を出しているし、最新版ではプロトタイプでセンサーを乗せました。しかし、その方向性が違うものを見て、外からは「あれをVRに使うのはダメだろう」という意見が書かれてしまいました。われわれも「うーん……」と思っていましたが、(VR用として出すのは)実はMorpheusでしたという。やっと言えたので、すごくうれしかったです。

――セッションの中では、Oculus Riftの登場以前より研究しているという話も出てました。いつのタイミングでリリースしても良さそうですが、なぜGDC2014での発表になったのでしょうか?

吉田 まずひとつには、デバイスの入手ですね。Oculus VRさんを含めたスタートアップもそうなんですが、この時代になって初めて、タブレットから来る安くて軽くて高性能なパネルやセンサーが手に入るようになった。あとは駆動側ですね。VR映像は、最低でも1080p/60フレームでやらないといいものができないので、PS3ではパワーが足りず、PS4になって初めて実現できました。

PS4の処理能力でこそ実現できたVR

Project Morpheus

 われわれもそのときそのときで手に入る技術でつくっていて、PS3のゲームで試したりもしてましたが、まだまだR&D(研究開発)の域は出なかった。HMD側の進化とコンピューター側の進化が、ここに来てやっと一致したということだと思います。でも、PS4発表のタイミングで明らかにしてしまうと、「PS4って何だ」という話がすごく分かりにくくなってしまう。メッセージとして混乱させてはいけない。

――PS4はVRのためのマシンではないんだよという。

吉田 そうです。だからPS4を出したうえで、落ち着いたところで出そうというのが今のタイミングです。

――吉田さんはOculus Riftなどは体験されていますか?

吉田 ええ、ジャパンスタジオのメンバーが何人か買ってみたりしてますし、Morpheusのハードのチームも入手してますから体験しています。

――Morpheusのライバルというか敵のような存在ですが、どう感じられました?

吉田 敵という感覚はないんです。ホントありがたいなと感じていて、彼らが早期に“Proof of concept”(概念実証)、つまり「VRってできるんですよ」ということを世間に示してくれたおかげで熱も盛り上がった。開発者向けキットを開発者に渡していただいたことで、いろいろなものが生まれ始めてますよね。

 われわれがMorpheusをやりますよといったときに、すでにPC向けVRコンテンツをインディーズでつくってる方がいるという下地をつくってくれたので、非常にありがたいと思っています。GDCで発表している研究成果もすごく参考になりますし、我々が抱えている問題と彼らが抱えている問題も同じなので、解決へのアプローチの違いを参考にできるし、何より刺激になる。

 彼らもそう言ってますが、OculusがPC向け、ソニーがPS4向けにやってることで、よりVRというカテゴリーが存在感を示すと思うんです。開発者がVR向けコンテンツについて「これはちょっとビジネスになるんだろうか……」と悩んだときに、PCにもPS4にももっていけるっていうのがあれば、より安心してスタートできる。お互いに助け合うような関係になっているんだと思います。

――Oculusはインディーズでの開発が進んでいるということですが、その差はどう埋めていくつもりなんでしょうか。

吉田 基本的にPS4はアーキテクチャーがPCなんですよね。ですからOculus用につくられているゲームは、そのままMorpheus用ゲームのプロトタイプだと思っていただいてよいと思います。PS4のゲームをつくるときにも、マルチプラットフォーム前提でつくられてる開発者さんがたくさんいらっしゃるし、それと同じことだと思います。

――例えば、ゲームエンジンの『Unity』でつくっているゲームとか?

吉田 Unityならそのままいけると思います。昨年出たOculusの開発キットはポジショントラッキングがありませんでしたが、Morpheusには入っている。今の段階では去年のSDKでつくっているコンテンツしかないので、それをPS4用にコンバートするときには、ポジショントラッキングを上手く使っていただく行程はあります。しかし、VRの部分は考え方がいっしょで計算ですから、その移行は難しくない。

――消費者的にはMorpheusとOculusで値段を比較してしまうところですが、Oculusと同等の価格を考えているんでしょうか?

吉田 Oculusもあの値段は開発キットの値段ですよね。最終商品の値段は彼らは言ってないですし、まだ決めてない可能性もある。われわれも同じで、今お見せしているのは開発キットで、最終スペックも決めていません。ここを改善したいという課題がいくつかあって、それにトライアルしながら最終商品のスペックも決めていかなければいけない。その時点に来て初めて価格帯も見えてくるかなと思っています。

――普及の場所としては家庭用を意識している?

吉田 もちろんPS4が前提です。先の将来を考えますといろいろほかのところにというのはあり得ますが、今は基本的にPS4。われわれがやりたいのは家庭用ゲーム機の考え方と一緒で、誰でも買ってきてテレビにつないだらすぐ使えるというものです。

――PCで動くようにはならない?

吉田 ならないとは言いませんけど、まずはPS4。PS4は開発しやすいとみなさんに言っていただけているので、今も(PlayStation Storeにおいて)インディーズで1000社がプレイステーション向けにゲームをつくっている。できるだけ広く開発者の方に、PS4の開発環境といっしょにとどけたいなぁと思っています。

――開発者の数というと、Oculusはかなり個人開発者よりで、オフィシャルの認証なしにソフトを共有してみんなが体験できるような環境ができてます。そういったレベルの開発者にアプローチしていきますか?

吉田 そこまでは考えていないですね。それはPS4もそうで、そこまで割と個人でやってくださいというのはPlayStation Mobileぐらいですよね。コンソールであるPS4とかPS Vitaではやっていない。

――Morpheus用のゲームも、認証を受けてある程度クオリティーが保たれた個人のゲームなら入る可能性がある?

吉田 基本的にPlayStation Storeを考えていただければ同じです。Morpheusであれ、普通のPS4用のゲームであれ、基本的に考え方は変える予定はないです。

――いちばん気になるのは発売時期ですが、今年中に発売されたりしますか?

吉田 やっとプロトタイプができて、ここからもうひとふたねばりして変えていかなきゃいけないので、今年は絶対にないです。来年以降はいつでも可能性がありますが、われわれもまだ決めていないです。解決したい技術的な問題がいつ解決できるのかがちょっと見えてない部分があるので。


 前半はProject Morpheusの成り立ちについて語ってもらった。より具体的な仕組みや、VRというジャンルそのものの未来も語ってくれた後半も掲載するので合わせて読んでもらいたい。

■関連サイト
GDC
ソニー・コンピュータエンタテイメント リリースページ

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