2013年11月15日18時00分

“Fit Aが目指したのは常食のデザイン” 本田雅一氏×VAIO開発者インタビュー

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 最近では2in1パソコンなど、変形するPCが増えてきた。そのなかから、天板の中央から折れ曲がるという、ほかに類を見ない変形機構ながら、限りなくシンプルなデザインでPCとタブレットの両方の使い勝手を実現した『VAIO Fit A』シリーズに注目した。

~本田雅一氏のメッセージ~
 これまでパソコンのユーザーインターフェイスは、“デスクトップ”をモチーフとしたマルチウィンドウのグラフィクスでつくられ、僕らはそれを使いこなそうとしてきた。そして、パソコンのハードウェアもまた、長い歴史のなかで進化してきたデスクトップ型のGUIと共に完成度を高めてきた。
 一方、マイクロソフトがウィンドウズ8以降で目指しているのは、タッチパネルを前提としたアプリが全画面を占有する新たなユーザーインターフェイスの枠組みだ。デスクトップとタッチパネル。ふたつの異なるタイプにフィットするハードウェアとして、いわゆる“コンバーチブル”が提案されてきたが、従来型のパソコンとして使いやすいクラムシェルのノートPCでありながら、タッチパネルやペン入力でも使いやすい。そんなスタイルを重量やデザインのペナルティーなしに使える製品は皆無と言ってよかった。
 ボクがFit Aに興味を持ったのは、そんな悩みを中心価格帯の製品でサラリと実現したこと。ウィンドウズのこれからと過去の交差点で輝く新たな”VAIO原器”。ソニーには、このアイディアを大切に育ててほしいと思う。

『VAIO Fit 13A』

VAIO Fit A
テクニカルライター 本田 雅一さん ソニー株式会社 クリエイティブセンター 統括課長 清水 稔さん
VAIO Fit A VAIO Fit A

本田 これまでのVAIO。上位モデルは実に気合いの入った製品があったのですが、普及価格帯の製品に“ピンとくる”要素が足りなかったと思うんですよ。力のかけ具合が、上位モデルに集中している。確かにオピニオンリーダーが使うのは、そんな上位モデルですが、より多くの方が使うのは普及価格帯の製品ですよね。それが、ウルトラブックのTシリーズが出てきたところで変わってきた気がします。そんななか、VAIO Fit 13/14/15A(以後Fit A)は“ピンとくる”製品だと思うんですよね。製品そのものから「こんな使い方をしてほしい」という気持ちが溢れている。

清水 Fit Aはデザイン提案からはじまっています。ソニーではよくあるやり方なのですが、「こういうデザインの製品が欲しいよね」という通常の業務が終わったあとに話し合いがあって、そこから出てきた製品です。
 私は、道具というものは長年使ってみて、徐々に進化していって、人にとってイチバン使いやすいと感じられるようになってスタンダード化するものだと思っています。だからこれまでは、キーボードと画面というクラムシェル型をスタンダードとしてきたのだと思います。ウィンドウズ8が登場したとき、クラムシェルのまま液晶にタッチしても使いにくいと感じていました。一方で、タブレットはエンターテインメントとモバイルに特化した使い方には利便性がありました。ですから、PCとタッチとペンでエンターテインメントを楽しむとなると、現状のPCでは不十分だと感じ始めていました。そこで、次のスタンダードな形を考えようというのが発端です。

本田 分離型や回転型などいろいろクラムシェルとタブレットを両立させようとした構造はこれまであったけど、どっちつかずになってしまうんですよね。また重量面でも不利が大きい。クラムシェルがスタンダードな形として守る、タブレットの使い方もきっちり。そうしたコンセプトが形になったのがFit Aですね。

清水 今VAIOは4つのサブカテゴリーがあり、それぞれユースケースでの訴求が明確に分かれています。VAIOがFit Aに求めるのは“グローバルスタンダード”になりうるものです。性別や年齢を問わずユーザーを特定しない、すべての人に受け入れられる、いわば“常食のデザイン”というものです。家庭の味噌汁のように、ふだん食べるものとして最高の味、つまりふだん使うものとして最高のデザインにしたかったんです。

本田 ところで構造についてですが、この折れ曲がる部分にラバーを採用したことって、すごくチャレンジングなことですよね。

清水 駆動する部分ですが、デザインモックをつくった時点でラバーでいこうと考えました。もちろん、メカヒンジにもできますし、メカヒンジなら実現の難度も問題ないのですが、このラインにメカヒンジが見えることで、「ああ、ここに折れ曲がるギミックがあるんだな」というのがわかってしまいます。新しい発見と体験をデザイン表現する意味を込めて、メカヒンジは絶対入れない、ラバーでいこうと決めて、社内にお披露目したところ、これでいこうということになりました。
 

VAIO Fit A
↑Fit Aのデザインを考えるうえで試作したデザイン。動きは実機と同じで、天板の中央から折りたためる構造だ。

本田 まずはラバーありきということで実現していこうしていったんですね。

清水 設計チームも見た瞬間にラバーのほうがデザイン性が高い、商品性が高いといってくれました。また、この検証用モックは、どうすれば使いやすいのか、頭で考えたり絵を描いたりするのではなく、形にして考えるためにつくりました。モックを簡単に形をつくりたかったので、この折れ曲がる部分にラバーを使っていたんです。ラバーヒンジの発想もモックを見て「これいいじゃないか」と、ここで発見したという理由もありますね。グライダーなど軽量化が必要なものでケブラー繊維のヒンジなどソフトな素材が使われています。メカヒンジを使わなくともソフトな素材で必ず実現できる確信がありました。

本田 Fit Aを今年のIFAで見たときに、「これはイイな!」と思ったんですよ。シンプルで機能面のエクスキューズがなく、ウィンドウズ8.1のコンセプトを100%活かせる。このデザインを磨き込んで、同じデザインテイストを保ちつつ、より上位の製品も含めて“VAIO”の顔として磨き込んでほしい、いわば新時代の“VAIO原器”という印象を持ちました。

清水 ソニーのデザインの考え方として“原型をつくる”という言葉があります。“原型”というのは、これまでにないものごとのベース、という意味ですが、そこに近づくようにデザインしよう、というDNAがデザイナーにはあるんですね。Fit Aについては、折れ曲がる構造がゆえに現われたラインが「原型」で、そのラインをいかにきれいに見せるかを考えたわけです。このラインがあるのが新しいVAIOのアイデンティティーになっていると思います。こういう強いアイデンティティーがあるものはころころデザインを変えるべきじゃないと思っていますし、おっしゃるとおり、次の年は薄く軽くするなど、育てていくデザインにしていきたいです。

本田 正直な話、タブレットとクラムシェルを両立するために、変形させる手間だとか考えた場合、Fit Aよりもシンプルでいい方法ってないんじゃないかなって思います。できれば、ソニー全体としてデザインの方向を収れんさせて、集中して投資していいものをつくっていく方向もチャレンジしてほしいですね

VAIO Fit A
↑ヒンジ部分に収められているラバー。素材は一般的だが、折れ曲がりの強度などは十分検証したとのこと。

本田 実際にこの形にするときに障害になったところってなんですか?

木村 当然のことながらポイントとなるところはこのラバーヒンジで、これが実際のモノです。(部品をもちながら)2枚のラバーをつかってFPCを挟んでいます。耐久性はいちばん懸念していたところですし、素材選びをしましたね。正直最初は思うようにいかなかったです。

本田 特殊な素材をつかっているんですか?

木村 いえ、TPU(熱可塑性ポリウレタン)というよく使われているものです。伸び縮みしすぎてもFPCにダメージがありますし、屈強でなければならないということで選びました。FPCは鋭角に曲げると断線の危険がありますが、Rがつくように曲がるような構造になっています。

本田 製造過程のなかで大きな山があったとすれば?

木村 ラバーそのものをうまく切れなかったり、キレイに切れないとそこから裂けてしまうということはあります。信号線の耐久性を上げることもくふうしました。

本田 この天板側ができててしまえば、ベースとなる下側はカンタンですよね?

藤井 下は一般的な構造なんですが、タブレットモードやビューモードに変形したときに、固定したり各モードを検出するのにもマグネットを使用していますが、地磁気センサーなどに影響がでないように注意しました。

本田 底面にカメラがあるのもおもしろいですよね。

佐藤 『CamScanner』という書類を撮影する機能ですね。スキャンニング機能に注力してまして、一般的な写真撮影というよりも「PCにリアカメラがあったらこういう使い方ができるよね」という発想から実装しています。

本田 このままいろいろなバリエーションを広げて欲しいですね。普及価格帯を目指してつくったと思いますけど、この構造は何にでも通用すると思うので、ひとつ鉱脈を当てたような気がします。例えばVAIO Proのコストのかけ方でつくったらどうなるのかな、とトライしてほしいと思います。

 昔僕らが若い頃、ソニーの製品をいいなあ、がんばって手に入れようと思ったのは、ほかとちょっと違ってデザインも違ってユニークだったから……だけではありません。ほかのメーカーと比べて、ちょっと高い。でもがんばれば手が届きそう。その欲しい度と価格のバランスがよかった。そこら辺の“ちょうど良さ”っていのうのが、当時のソニーは絶妙だったんですよ。しかしソニー製品はいつしか高級志向が強くなり、 “VAIOの顔”としてみせる製品は高級志向過ぎて普通のパソコンオーナーから見ると “違う世界”の製品に見えていたと思います。Fit Aのいいところは、きちんと手の届く価格帯で、新しいデザインテイストをしっかりと作り込んでいること。これこそが、ソニーの“イイカンジ”なところじゃないかと思います。

 

VAIO Fit A

↑VAIO Fit Aに携わった皆さん。左から、PC事業部 統括課長 木村英二さん、清水稔さん、本田雅一さん、PC事業部プロジェクトリーダー 藤井吉明さん、VAIO企画部商品企画課 佐藤洋輔さん。

※11月12日発売の週刊アスキー11/26号掲載の特集「おもしろいソニーが帰ってきたっ!!」では、Fit A以外にも人気のソニー製品のヒミツをインタビューを交えて紹介しています。

●関連サイト
ソニー

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