2013年10月20日11時00分

2013年ノーベル物理学賞を受賞したヒッグス粒子に関するおもしろい話

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 2013年のノーベル物理学賞は、フランソワ・アングレール先生とピーター・ヒッグス先生が“ヒッグス粒子”に関する論文で受賞したのは記憶に新しいところですが、その“ヒッグス粒子”に関して、『と学会』運営委員にして日本最強のデバンカー・皆神龍太郎さんにお話を伺ってきました。

ヒッグス粒子のおもしろい話
↑皆神龍太郎先生。『と学会』の運営委員にして日本最強のデバンカー。


■ヒッグス先生の論文は、実は2番手だった!

皆神先生 今回のノーベル賞は、1964年秋に書かれた“ヒッグス粒子”に関連した論文に対して出されたものなんですけど、実はこの時、ほぼ同時に、ほぼ同じ内容の論文が3つも出ていたんです。

――同時に複数の研究者からですか?

皆神先生 はい。不思議ですが、科学や技術の世界では、そういうことがよくあるんです。世界的に気運が高まっていたというか。論文が早く出た順番に言いますと、以下のようになります。

●第1論文
フランソワ・アングレール(François Englert)
ロバート・ブラウト(Robert Brout)

●第2論文
ピーター・ヒッグス(Peter Higgs)

●第3論文
トム・W・B・キッブル(Tom W. B. Kibble)
ゲラルド・グラルニク(Gerald Guralnik)
カール・リチャード・ハーゲン(Carl Richard Hagen)

――6人も! でも実際にノーベル賞を受賞したのは、ヒッグスさんとアングレールさんだけでしたが……?

皆神先生 ノーベル物理学賞は、ひとつの受賞に3人まで、という内規があるんです。また、受賞対象はあくまでも個人で、団体では駄目なんです。そして受賞する時に生存していないといけません。ブラウトさんは残念ながら2011年に亡くなっていますので、受賞できませんでした。

――ノーベル賞が欲しかったら長生きしないといけないんですね。

皆神先生 そうです。また革新的な論文を書くのでしたら4人以上はやめましょう。ノーベル賞を受賞する際に、もめることになりますので。できればひとりで書くのが一番いいですね(笑)。

――ひとり亡くなっているのでしたら、第1論文発表者のアングレールさんの単独受賞になってもおかしくないと思うのですが、なぜそうならなかったのでしょうか?

皆神先生 ああ、いい質問ですね。確かにヒッグスさんは2番手なので、もしかしたら、自分の名が粒子に付けられているのに、ヒッグスさん自身が、受賞対象から外されちゃうということも、絶対にないとは言えませんでした。

 でも実は、“未知の粒子があるのでは”ということを初めて書いたのは、ヒッグスさんの論文が最初だったのです。アングレールさんたちは、素粒子に質量を与える場については論文に書いたのですが、そこから生まれるであろう粒子については何も言及してなかったのです。

 ちなみにヒッグスさん自身は”ヒッグス粒子”と呼ばないそうです。“私の名前が付いているあの粒子”といった慎み深い呼び方をされてます。

――なるほど……未知の素粒子の存在を予言した点で画期的だったわけですね。

皆神先生 そこで出てくるのが南部博士なのです。全ての黒幕はこの南部博士なんですよ。

ヒッグス粒子のおもしろい話
↑皆神龍太郎先生にご提供いただいた、“ノーベル賞の実物メダル”と“お土産のチョコレート”の写真。さあ、本物のメダルはどっちでしょう。


■黒幕は、あの天才・南部陽一郎博士

――南部博士……と聞くとガッチャマンの博士を思い浮かべてしまいますが(笑)。『自発的対称性の破れ理論』(2008年)でノーベル物理学賞を受賞された南部陽一郎さんのことですか?

皆神先生 はい。南部博士こそ、ヒッグスさんにノーベル賞を受賞させた人といってもいいのではないでしょうか。

――それはいったい、どういう……?

皆神先生 科学論文というのは、そのまま科学雑誌に掲載されたりはしません。おかしなことが書かれていないか、十分に論考されているのかといったことをチェックする“査読者”を通さなければならないのですが、ヒッグスさんの論文の査読者がなんと南部博士だったのです。南部博士はヒッグスさんの論文を読む直前に、アングレールさんの論文も、査読者として読んでいたのですね。

 先ほども言ったように、内容はほぼ似たようなものでした。そこで、南部博士はヒッグスさんに原稿の付け足しをアドバイスしたのです。

 具体的に何を付け足せといったのかは、今ではもうよく分からないのですが、とにかくヒッグスさんは、2行を付け足して論文を再提出しました。その付け足し部分が”ヒッグス粒子”を予測した歴史的な論文となり、今回のノーベル賞受賞につながったのです。

――へぇ! それはすごいお話ですね。

皆神先生 はい。南部博士は本当の天才ですね。ほかにも、いろんなアイデアを提供しています。クォークの三原色に関して最初にアイデアを出したのも南部博士ですし、『超紐理論』の基になった『紐理論』も南部博士です。

 物理学者の間でも“予言者”と呼ばれています。今は分からなくても、10年たつと南部博士の言っていたことがみんな分かるという(笑)。ああ、やはり“言いだしっぺ”は南部博士だった、みたいな。
 

■実証されてから最短受賞!

皆神先生 あとですね、ノーベル賞は、基本的に実証された理論にしかもらえません。

 ヒッグス粒子に関しては、欧州原子核研究機構CERN(セルン)の加速器で“ヒッグス粒子を99.9999%以上の確率で発見した”という発表が2012年7月に、さらに2013年3月には“ほぼヒッグス粒子だろう”という発表がありました。

ヒッグス粒子のおもしろい話
↑セルンが10月8日に公開した『Artistic view of the Higgs Field』の画像。
(C) 2013 CERN

――論文の発表が1964年ですから、実証まで50年ぐらいかかったわけですね。

皆神先生 そうですね。ただ、2013年3月にCERNの発表があって、2013年10月のノーベル賞受賞ですから、実証から最短でもらえた論文ともいわれています(笑)。

 ちなみに、“ホーキング博士がノーベル賞をもらえない”といわれているのは、実証できそうもないことばかり言うからです(笑)。賭けてもいいですが、ホーキング博士は絶対にノーベル賞をもらえないでしょう。

■質量が生まれるってどういうこと!?

――“ヒッグス粒子”は“神の粒子”なんていわれてますが、素人からすると、なんだかスゴそう、ということしか分かりません。そもそもヒッグス粒子とは何なんでしょうか?

皆神先生 “万物に質量を与える粒子”といわれていますね。でも厳密にいえば、正しい言い方ではありません。質量を与えるのは、ヒッグス“粒子”ではなく、ヒッグス“場”のほうです。

 また、ヒッグスさん自身も“ヒッグス粒子が、素粒子にまとわりついて質量が生まれる”という、よく使われる“水飴べたべた”風の説明の仕方を大変嫌っているようです。

――えっそうなんですか? では、どういうふうに考えるのが正しいのでしょう。

皆神先生 現在の物理学では、以下のように考えられています。

 138億年前にビッグバンがあって宇宙が誕生し、素粒子が光速で飛び交っている世界がまず生まれます。しかし、その直後に“自発的対称性の破れ”という現象が起こって、宇宙空間に満ちているヒッグス場がその性質を変えて、真空の“相転移”という現象が起きます。

 例えていうなら、真空に満ちているヒッグス場の性質が変わることで、真空がデコボコになるので、光速で真っ直ぐ動けなくなる、といった感じです。光速よりスピードが落ちること、これが“質量が生じる”ということなのです。

 デコボコになって動かしにくくなって生じるのが“質量”。“動かしにくさ”に比例して“質量”が大きくなります。ヒッグス粒子が質量を与えるのではなく、質量は、デコボコになった空間=ヒッグス場から与えられるのです。

――光速よりスピードが落ちると質量が生まれるのですか?

皆神先生 そういう考え方をします。逆にいえば、光の正体である光子は、質量を持っていません。ですから、光速より遅くなることがそもそもできません。光が光速度で伝わるのは、光子に質量がないからなんです。

――“自発的対称性の破れ”は、南部博士の提唱した理論ですよね。

皆神先生 はい。南部博士の理論はここでも大事な役割を果たしているのです。さすがアイデアマンですね(笑)。

 ともかく、ヒッグス粒子の発見で、物理学の“標準理論”の素粒子17個が全部埋まったわけです。中には、本当に埋まったのか!? という学者先生もいらっしゃいますが(笑)、とりあえずクリアです。この先が楽しみですね。

■関連サイト
と学会公式HP

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