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【私のハマった3冊】おいしく食べるだけじゃない ファンタジーの扉を開ける"きのこ"

2013年10月12日 14時00分更新

950BOOK

きのこいぬ 5
著 蒼星きまま
徳間書店
650円

きのこ絵
パイ インターナショナル
2310円

きのこ文学大全
著 飯沢耕太郎
平凡社新書
924円

 秋も深まり、松茸やしめじ、ポルチーニなど、美味しいきのこが出回るこの頃です。

 夏に読んだ漫画『きのこいぬ』をきっかけに、食べることにしか焦点を当ててこなかった"きのこ"が、めくるめくファンタジーの扉を開けるのだということに、今更ながら気がつかされました。5巻が刊行されたばかりの『きのこいぬ』は、飼い犬を亡くし、ペットロスで自らを孤独に追いやる主人公のところに、ピンク色した犬とも、きのこともつかない不思議な"きのこいぬ"がやってくる。愛情いっぱいの、可愛らしい"きのこいぬ"のおかげで、しだいに主人公の周りに、温かい人たちと笑顔があふれてゆく、というお話。

 庭に生えていたきのこが、主人公に片思いし、犬の姿でやってくるなんて、想像しただけでも、なんだか楽しい気分になりませんか? 想像しついでに、18世紀から20世紀にかけて、ポーレットや南方熊楠、ファーブルなどの菌類学者や生物学者たちが、学術資料として描いたきのこをボタニカル・アートとして紹介する『きのこ絵』を購入。精巧に描かれたきのこはどれも美しく、ページをめくるたび、ため息がもれ、また、「どんな味がするのかな?」、「食べたら死ぬかな?」、「ちょっと性格がキツそうだな」、「フェミニンな子になりそう」なーんて、つい妄想が炸裂しちゃいます。

『きのこ文学大全』は、古今東西、ジャンルを問わず、とにかく"きのこ"が登場するものを、ただひたすら、きのこ愛にあふれた著者が集めまくった一冊。泉鏡花やブラッドベリ、筋肉少女帯……。食べものとしてとらえたものから、毒としてとらえたもの、擬人化されたもの、侵略するものと、バラエティーに富んで、読み応えもバッチリ。

 いやぁ、きのこって本当に奥が深いですね。例年通りだと、秋はなんだかメランコリー気分な季節ですが、今年は、ちょっと違った気分になりそうな予感がする"きのこ体験"です。

奥村知花
成城大学卒。“本しゃべりすと”として、新刊書籍のパブリシティに携わりつつ、書評エッセイなど執筆。

※本記事は週刊アスキー10/22号(10月8日発売)の記事を転載したものです。

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