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【私のハマった3冊】中央アジア・イスラム世界の食文化に乙嫁語りで思いをはせる

2013年05月25日 14時00分更新

私のハマった3冊

乙嫁語り 1巻
著 森薫
エンターブレイン
651円

世界屠畜紀行
著 内澤旬子
角川文庫
900円

イスラム飲酒紀行
著 高野秀行
扶桑社
1680円

 都内にある専門店でウイグル料理を堪能した。コミックナタリー唐木編集長と久しぶりに会うことになり「乙嫁語りにハマっているんですよ」と言ったら、連れて行ってくれた。

『乙嫁語り』は19世紀の中央アジアを舞台に、可愛いお嫁さん=乙嫁たちの生活と人間模様を描いた作品だ。ていねいな感情描写、緻密な織物や細工の文様、ダイナミックな自然や動物、遊牧民生活など、その世界に浸ると自分が21世紀の日本にいることを忘れてしまう。

 個人的に惹かれたのが食に関する描写だ。市場での買い食いや結婚式のエピソードの料理が猛烈に旨そうで食欲をそそる。

 もうひとつ印象に残ったのが、動物を捌く屠畜のシーン。ヒロインのアミルさんは、弓を使って狩りをし、テキパキと獲物を捌く。ライラとレイリの双子姉妹の結婚式では、村中総出で大量の羊を捌く。最初は見ていただけの子供が初めての屠畜を経験する。神に祈りと感謝を捧げ、ナイフで羊を絶命させ切り開く。自分たちの食のために“命をいただく”風景だ。

 ここで連想したのが『世界屠畜紀行』だ。世界中の屠畜現場を取材した渾身のイラストルポで、イスラム世界やモンゴルで羊を捌くエピソードは、乙嫁語りの世界を理解する助けになると思うし、この一冊だけでも現代の食文化に深く切り込んだ、必読の内容となっている。

『イスラム飲酒紀行』は、世界をまたにかけて飲酒禁止のイスラム国家でお酒を飲みまくる話だ。厳格なイスラム国家であるイランに行って、カスピ海のチョウザメを肴に酒を飲む話は、乙嫁語りの舞台に近い場所の話なので特に興味深い。

 日頃のニュースから、イスラム・アジア世界について漠然とした怖いイメージを抱きがちな僕たちだが、そこにある人々の生活と感情は、基本の部分ではなにも変わらない。そんなことを、この3冊は楽しさと知的興味とともに教えてくれる。

根岸智幸
著書『最強ニュースサイト「ハフィントン・ポスト」日本上陸!』がキンドル本コンピュータ・ITで1位に。

※本記事は週刊アスキー6/4号(5月21日発売)の記事を転載したものです。

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