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ドコモがiPhoneではなくXperiaとGALAXYのツートップで夏商戦に挑んだワケ

 NTTドコモは5月15日、夏商戦に向けた新製品・サービスの発表会を開催。スマートフォン2機種を“ツートップ”として販売面での積極的なプッシュをはかるほか、メッセンジャーアプリ「LINE」との協業を発表するなど、新たな取り組みを見せる同社の戦略を振り返ってみよう。

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↑NTTドコモは夏商戦に向け、新たに11機種を用意するだけでなく、さまざまな新戦略もアピールしている


NFCとNOTTV全機種対応で積極的な訴求が可能に
 今回新製品として投入されたのは、スマートフォン10機種、タブレット1機種の計11機種。中でも、共通して強化されているのがバッテリーだ。今回の夏モデルでは、全機種が2000mAh以上の容量をほこるバッテリーを搭載。45時間以上利用できることを強調するなど、多くのユーザーが不安を抱くバッテリー面の大幅な強化をはかっている。

 CPUも強化がなされており、従来ハイエンドモデルにのみ搭載されていたクアッドコアCPUが、ミドルクラスのモデルや、らくらくスマートフォンを含めた全機種に搭載。操作性の大幅な向上に結び付けられている。

 そしてもう1つ、今回全機種に搭載がなされているのがNFCとNOTTVだ。特にNOTTVは、GALAXYやXperiaといった人気シリーズのスマートフォンへの搭載が実現したことで、エリアの拡大と合わせてようやく積極的な訴求ができる段階に入ったといえよう。

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↑新モデルではバッテリーやCPU、NOTTVなどを強化。特にバッテリーは、全機種が45時間以上利用できるなど大幅な強化がなされている


多彩なラインアップを用意、ツートップ端末は積極的に販売
 個々の機種においても、IGZOディスプレイをフルHD化した人気モデルの後継機『AQUOS PHONE ZETA SH-06E』や、フルセグを搭載した『ARROWS NX F-06E』、『Optimus it L-05E』など「全部入り」のコンパクトモデルや、『MEDIAS X N-06E』などフィーチャーフォンからの乗り換えを意識した『docomo シンプル UI』を搭載するモデル、そしてXiに対応した『らくらくスマートフォン2』など、個性的な機能を備えた機種を投入してきている。

 だが今回、最も大きな注目を集めたのは、機能的な側面ではない。では何が注目されたのかというと、それは『GALAXY S4 SC-04E』『Xperia A SO-04E』の2機種を“ツートップ”と位置付け、主力モデルとして積極的に販売していくと公表したことだ。この2機種は価格面においても、他の機種と比べ1~2万円安くなる特別価格で提供されるほか、iモード携帯電話からの機種変更で受けられる「はじめてスマホ割」と、10年以上契約しているユーザーに適用される「ありがとう10年スマホ割」を適用することで、Xperia Aなどは実質価格が5000円になるという。

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↑「GALAXY S4 SC-04E」、「Xperia A SO-04E」を主力の“ツートップ”として販売強化することをアピール。展示会場でも、両モデルに大きなスペースが割かれていた。


iPhoneに対抗、わかりやすさを提供するための「イチオシ」
 NTTドコモは昨年まで、ハイエンドから個性派モデルまで、幅広い種類モデルを豊富に用意することで、ユーザーに好みのモデルを選んでもらう戦略をとっていた。だが今年に入り、春商戦では『Xpeira Z SO-02E』を「イチオシモデル」としてアピールするなど、一部の主力モデルに販売を注力する動きを見せている。

 特定の機種を「イチオシ」する戦略をとるようになったのには、“マーケットの変化”と“iPhone対抗”という2つの側面が考えられる。スマートフォンの本格販売から3年以上経過し、能動的な人達にはすでにスマートフォンが行き渡った現在、キャリア各社の課題となっているのは、スマートフォンの購入に消極的なフィーチャーフォン利用者に、どうやってスマートフォンを購入してもらうかだ。

 他社であれば、店頭で顧客が機種選びに迷った時に、知名度の高い『iPhone』を“オススメ”しやすいが、iPhoneを持たないNTTドコモにはそれができず、販売面での弱みとなっていた。NTTドコモ代表取締役社長の加藤薫氏は、今回もiPhoneの販売について慎重な姿勢を崩していないが、代わりに独自のイチオシモデルを設定することで、顧客に分かりやすさを提供しようというのが、今回の狙いといえる。

 加藤氏は囲み取材において、一押しするモデルはメーカーやブランドを常時固定する訳ではなく、商戦期に応じてモデルを変えていくと話している。だがこの戦略は、一押しモデルとそうでないモデルとで端末販売数に大きな差が出ることを意味し、NTTドコモに端末を提供するメーカーからして見れば死活問題にもつながってくる。メーカー各社のスマートフォン戦略、ひいてはキャリアとメーカーとの関係に、大きな影響を与えることになりそうだ。

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↑囲み取材で端末の販売戦略について話す加藤氏。モデル間で販売の差別化をはかる戦略は、メーカー各社に大きな影響を与える可能性がありそうだ。


LINEとの協業も発表
 端末だけでなく、コンテンツ・サービス面でも、いくつかの新しい施策を打ち出している。複数のコンテンツやセキュリティサービスなどを、まとめて契約することでお得に利用できる「ドコモ サービスパック」の提供や、新たにECサービスを強化するなどdマーケットの施策も示されているが、大きな注目を集めたのは「LINE」との協業だ。

 この協業により、LINEのユーザープロフィール画面にNTTドコモ専用の通話ボタンを設置。NTTドコモの音声回線で通話発信がしやすくなることで、Xiカケ・ホーダイ利用者の利便性向上にもつながると見られる。またGoogle Playに対応していない「らくらくスマートフォン」向けに、専用のLINEアプリを両社で協力して開発を進めていくという。

 一方LINE側としては、今回の協業でauに続いてNTTドコモでも未成年のユーザーID検索機能に制限をかけることが可能になり、安心・安全利用に対する取り組みが進められることとなる。さらに今後は、負荷低減に向けた取り組みや、プロモーションでの連携をはかっていくとのことだ。

 ドコモメールの提供延期などでキャリアEメールの存在感低下がうたわれる状況下で、NTTドコモがLINEと協業を実施したことは、スマートフォン上のコミュニケーションのあり方に少なからず影響を与えると見られる。今後、この協業がどこまで踏み込んだものになっていくのか、注視する必要があるだろう。

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↑LINEとの協業を発表、らくらくスマートフォン向けアプリの開発などさまざまな取り組みをしていくとのこと。
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↑発表会にはLINE代表取締役の森川亮氏も登壇。


 さらに、近頃注目を集めるネットワークインフラ面でも、今後の取り組みについて言及があった。中でも大きなトピックとなったのが、Xiの高速化についてだ。現在、下り最大112.5Mbpsを実現するなど高速化に寄与している1.5GHz帯は、現時点でユーザーが多い東名阪で利用できないという弱点を抱えている。そこで今回、2013年度内に、東名阪で下り最大150Mbpsの高速化を実現することが明らかにされているのだ。これにはエリアや速度から、現在FOMAに使用している1.7GHz帯を転用するものと見られる。

 また今年6月末時点で、112.5Mbps対応エリアを52都市に、75Mbpsを実現する基地局を10000局にするという計画を、それぞれ100都市に、15000局に前倒しするなど、高速化を積極的に進めているという。またXi対応基地局も2013年度末に5万局まで増やし、夏には世界遺産への登録で注目される富士山のエリア化も実施する予定だという。

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↑今年度中に、Xiの下り最大150Mbps化を東名阪で実施することを表明。


 イチオシモデルへの販売注力やLINEとの協業など、今回の発表内容からはNTTドコモが、今後戦略を大きく変えていきたいというメッセージが伝わってくるように感じる。端末メーカーの不均衡化やOTTプレーヤーの成長促進など、外部のプレーヤーに与える影響も大きくリスクを伴う戦略転換といえるが、市場環境に合わせた戦略をとることで、不振が続く状況を脱却したい狙いがあるといえそうだ。

●関連サイト
NTTドコモ

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