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キッカケは知的財産の製品化プロジェクト――自律走行ロボットカーとは何か?(前編)

2013年03月10日 15時00分更新

 3月11日に発売される書籍『自律走行ロボットカーを作る グラフィカル言語でFPGAプログラミング』(関連サイト:Amazon)は、自分で構成をプログラムできる集積回路のFPGAを使って、タイトル通りに自律走行ロボットカーを作るというもの。

 同書の発売を記念して、全2回にわたって著者・長野達朗さんへのインタビューを掲載していく予定。今回はその第1回をお届けする。

 

【前編】 自律走行ロボットカーができるまで

自律走行ロボットカー01
著者のみなさん。左から、スワローさん、天沼さん、長野さん、塩原さん、岡田さん。

――ロボットカーを作ろうと思ったきっかけについてお聞かせいただけますか。

長野:大学院のとき、たまたま立ち寄ったサンフランシスコのジョブフェアで、話した担当者が魅力的だったので、ナショナルインスツルメンツ(以下、NI)に入社しました。

 技術営業や、マーケティングをやっているうちに、組織の中で自分の付加価値を高められることがあるんじゃないかと考えました。そこで、知的財産(インテレクチュアルプロパティ:IP)の製品化プロジェクトの立ち上げを提案したら、「やれば」と言われました。非常に寛容な会社ですね。

 ただ自分一人でやらなければならないですし、予算も潤沢にあるわけではありません。担当していた開発ソフトウェア『LabVIEW』の仕事はちゃんとやって、時間を作って考えました。

 知的財産の製品化プロジェクトとは、アイディアはあるけど製品化されない、プロトタイプはあるけど市場に出ていかない――いわゆる死の谷(Death Valley)を越えないものを世に出すことです。

 米国では実現できないのは一番はお金が理由ですが、日本ではそうではなくて、いろいろ人とお会いした結果、情報伝達のしかただったり、お金ではない理由があることがわかりました。そこで、NI製品でお役に立てるものがあるのではないかと思いました。

 しかし、どこの誰かわからない者がいきなり来て、「あなたのアイディアを貸してください」ということですから、うまくいきませんでした。

 そこで、まずは自分から、自分の思いついたアイディアからプロトタイプを作って製品化をして、というひととおりの流れをやってみようと思いました。そうしてから提案させていただくのが礼儀だし、信頼していただく第一の方法だと思いました。それが、作ることになったきっかけです。

――それが最初からクルマだったのですか?

長野:クルマは好きですし、何を作るかは迷いました。

 たまたまペンシルバニア大学のクアッドローター(骨組みの先に4つの回転翼が付いていて飛行するヘリコプター)を見ました。空中で静止するだけでなく、四角い穴の中を通り抜けたり、共同作業して物を運んだり、壁に止まったりするユニークな動きに衝撃を受け、自分でもこれを作ってみて、ビジネス化したいと思いました。

 家やビルの管理でクアッドローターにカメラを搭載して、リアルタイムに屋根の状況とか欠陥の状態を見て修理する前の正確に見積もるビジネスや、地下鉄の中で飛ばし信号を出して返ってくる音によって欠陥の有無を調べるビジネス。妄想は拡がったのですが、どれも始めるには難しかったのです。

 どうしようかと迷って、飛ぶという次元は1つ落とそうと思いました。3次元ではなく2次元でいこうと。そこで、地面を動くクルマかな、と。

――それがなぜロボットカーに?

長野:いろいろなものをセンシングしてインプットして、解析して処理し、読み出して、それからアウトプットする、という流れがあるので、それを一番わかりやすく具現化するにはロボットカーがいいのではないかと思いました。

――いつごろから作り始めたのですか。

長野:今回のものは3台目で、その前にプロトタイプが2つあります。プロトタイプ1が2010年後半頃でしょうか。翌年にプロトタイプ2、今回のものの完成はその半年後くらいです。

――ハードウェアで苦労されたことは?

長野:プロトタイプ1ではテクノロードのCoron(マイコン)を使いました。これはたまたまNIにあったからです。LabVIEWにも対応していましたが、書き込めなかったので、とりあえずケーブルをつないで有線か、ZigBeeで無線の通信をするという方法で、頭脳はPCのほうにありました。

 自律走行にするためにはアルゴリズムをロボットに組み込んで単体で動かす必要がありますが、LabVIEWとCoronの組み合わせではできませんでした。C言語で書けば可能なのですけど。

自律走行ロボットカー01
長野さんが制作したプロトタイプ1のロボットカー。

 LabVIEWで書くのが効率がよかったので、LabVIEWで組み込めるものを探していて、ARMを使うことにしました。これがプロトタイプ2です。ARMにはいろいろありますが、LabVIEWが対応しているものは限られていました。

自律走行ロボットカー01
ARMを組み込んだプロトタイプ2のロボットカー。

 プロトタイプ2を展示会に出した結果、情報のベクトルが180度変わりました。どういうことかというと、プロトタイプを作る前は相談しても、ほしい情報が得られませんでした。しかし、プロトタイプを見せることで、聞いてもいないのにアドバイスをくれる方が増えてきました。

 3つ目(自律走行ロボットカー)ではFPGAを使っています。展示会で知り合った方から、ディーラーでペットのようについてくるものができたら面白い、などの話もあって、クルマの形をしたミニチュアを作ろうということになりました。

 FPGAとCPUが載っているシングルボードRIOが出たので、ARMよりはサイズが大きいですが、サイズ、機能の両面でちょうどよいので採用しました。

(※次回に続く。後編は3月17日公開予定)

自律走行ロボットカーを作る グラフィカル言語でFPGAプログラミング(関連サイト:Amazon)
長野達朗、岡田一成、スワロー ケーシー、天沼千鶴、塩原愛 著
B5変型、224ページ、2100円(税込)
アスキー・メディアワークス刊
ISBN978-4-04-886775-7

プロフィール:長野 達朗(ながの たつろう)

株式会社プライア代表取締役。1973年、東京都生まれ。
ワシントン州立大学大学院にて博士号(物理学)を取得後、日本ナショナルインスツルメンツ株式会社に入社。
営業所長、LabVIEWの戦略マーケティングを経て独立。2012年に株式会社プライアを設立、社長に就任。
組織・グループの問題解決力の向上を支援すべく、会議やプレゼンテーションのコンサルティングを行う。独自の科学的アプローチを用いた会議支援ソフトウェアMeeting Minutes Editorは、多岐に渡る業界で受け入れられている。
別事業として、カーロボティクス研究にも携わり、製品開発も手掛ける。

●関連サイト
株式会社プライア

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