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SOCIAL MEDIA WEEKでソーシャル時代のメディアのあり方をみた

2013年02月22日 18時30分更新

 2月18日に始まり、5日間にわたって世界10都市で開催される“ソーシャルメディアウィーク(SOCIAL MEDIA WEEK) ”。ソーシャルとメディアのあり方に対し数多くのセッションが行なわれる1週間だが、その東京3日目となる2月20日に行なわれた2つの興味深いセッションにソーシャルライターの田口が参加。気になるセッションの内容を取材してきた。

■日本版スタート間近の“ザ・ハフィントン・ポスト”のCEOが来日
 ひとつ目は2012年12月に朝日新聞社との合弁会社を発足、2013年の春から日本版をスタートする予定の米リベラル系ニュースブログサイト“ザ・ハフィントン・ポスト(The Huffinton Post)”のジミー・メイマン(Jimmy Mayman)CEOによる“アメリカで最も成功したニュースサイト「ザ・ハフィントン・ポスト」、そのソーシャル・メディアとしての成功の鍵と戦略...”と題されたセッション。

ソーシャルメディアウィーク

↑ジミー・メイマンCEO。

 2005年に現編集長のアリアナ・ハフィントン氏により設立されたこのサイトは徐々に読者を増やし、2011年にはAOLに3億1500万ドルで買収され、現在は世界6ヵ国で運営されている。メイマンCEOはまずハフィントン・ポストが成功したキーポイントとして“インフルーエンス”、“インパクト”、“テクノロジー”の3つのキーワードを上げた。

“インフルーエンス”については、「我々は毎日多くのニュースやブログなどのコンテンツを提供しており、読者の多くは年収15万ドル(約1400万円)以上の高所得を得る若い(1/3が35歳未満)アーリーアダプター層だ。発信者でありたいと願う彼らをうまく掴んだのが成功の要因のひとつだ」と強調した。発信されるニュースの内容も、初期は政治的なものが多かったが、現在はもっと広範にニッチなテーマも含め50以上のカテゴリーをそろえているという。さらに、様々な分野のエキスパートが講演を行なうサイト“TED”や、人気テレビ司会者のオプラ・ウィンフリーなど、外部パートナーと協力したコンテンツも多い。

“インパクト”については、現在500人のレポーターとエディターと3万人を超えるブロガーによって、1日に1600本以上(58秒に1本の割合)のコンテンツがアップされているという、その巨大なスケールによるものだ。トップページに表示される記事は編集長ではなく、ユーザーの行動履歴によって自動的に決められており、他のメディアと比べ読者のサイト滞在時間は長いとのことだ。また、ソーシャルメディアとの連携にも強く、Facebookではハフィントン・ポストの記事が最も多くシェアされているという。

ソーシャルメディアウィーク

↑“Huffinton Post”のトップ記事は、ユーザーの行動により最適化された記事がトップに表示。

“イノベーション”については、2012年8月にサービスが開始されたオンラインストリーミングライブネットワークの“ハフポストライブ(HUFFPOST LIVE)”などの新メディアや、PCやモバイル、セットトップボックスなど多岐にわたるクロスプラットフォーム展開をあげ、「ニュースの見方を根本から変えるような新しいメディアをグローバルに広げていきたい」とその展望を示した。

 今後もハフィントン・ポストの強みである、リアルタイムで最適化したクオリティーの高い“コンテンツ”、コンテンツを適切に運用する“テクノロジー”、そしてソーシャルの要であるオーディエンスの“インフルーエンス”の3つを活かし、日本での展開も進めて行きたいと抱負を語った。

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↑ストリーミング映像にコメントなどを組み合わせた“HUFFPOST LIVE”。

 

■既存メディアとネット企業がメディアを議論
 2つ目は、朝日新聞報道局ソーシャルメディアエディターの山田亜紀子氏、ニワンゴ代表取締役社長の杉本誠司氏、フェイスブックマーケティングマネージャーの須田伸氏、NHN Japan執行役員広告事業グループ長の田端信太郎氏と、現在のインターネットメディアを代表する4人のスピーカーによる“マスって何?~メディアの価値をどう作るか~”と題したトークショーだ。

ソーシャルメディアウィーク

↑そうそうたるメンバーが登壇した。

 まずは山田氏が「Facebook、ニコニコ動画、LINEと比べ、マスメディアと呼ばれる朝日新聞の購読者数は700万人強。マスメディアとはなにか?」という問いかけを行なうと、杉本氏は「ニコニコは3000万人の顧客は持っているが、我々はプラットフォームでありユーザーのコンテンツを媒介するが思想のようなものはない」と、マスメディアであることを否定。田端氏も「LINEは発信者と受信者の区別がない。会話の前提条件になるような話題を提供できるメディアがマスメディアではないか」と指摘した。

 では、ニコニコ動画やLINE、Facebookはメディアではなくプラットフォームなのだろうか。須田氏は「ユーザーは、ニュースをテレビや雑誌で見るかもしれないが、それを話題にしたFacebookやTwitterで見るかもしれない。プラットフォームと従来のメディアは分断していない」と指摘すると、田端氏も「雑誌にとってはコンビニがプラットフォーム、メディアとプラットフォームはお互いに協力しあう別業態である」と同意した。

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↑朝日新聞報道局のソーシャルメディアエディター山田亜紀子氏。

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↑フェイスブック マーケティングマネージャーの須田伸氏。

 次に話題はコンテンツに移る。杉本氏は「我々はプラットフォームであり、コンテンツは個人のユーザーがつくるものだ。ニコニコが目指しているのは個人の表現が活性化し、いろいろな商業のチャンスが出てくる基礎となる場所をつくっていくことだ」と、サービスの目的を語ると、田端氏は「現在はコンテンツそのものではなく、コンテンツについて語る、コミュニケーションすることがメインになってきている。ユーザーはコンテンツを読みたいわけではなく、コミュニケーションの材料がほしいのではないか」と自説を披露した。

 それを受けて山田氏が「コンテンツを自らつくるのではなく、コミュニケーション提供の場をつくるほうがビジネスとして成り立つのではないか?」と、メディアの商業的優位性に疑義を呈すと、杉本氏は「コミュニケーションの場にビジネスを持ち込むのも大変だ。ユーザーに課金するのはもちろん、場自体に広告をもらうのも難しい」と反論。「LINEはスタンプというユーザーに受け入れやすい形で広告ビジネスを行なっているとても素晴らしいモデルだ」と田端氏に振ると、「LINEではバナー広告は意図的に採用していない」と、田端氏も意図を肯定した。

ソーシャルメディアウィーク

↑ニワンゴ 代表取締役社長の杉本誠司氏。

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↑NHN Japan執行役員広告事業グループ長の田端信太郎氏。

 自社サービスについて須田氏は「Facebookはやはりプラットフォーム。主義主張を持たず、ユーザーごとにセグメントされた情報を簡単に入手できる機能を追求していくサービスだ。しかしセグメントされない情報を求める人が減ることはない。テレビや新聞などのマスメディアの価値が下がることはないだろう」と語れば、杉本氏は「我々インターネットメディアは最大公約数は求めない。ただし初音ミクのように、最小公倍数だったムーブメントが盛り上がっていくことによってマスメディアとして再構築されることはある」とメディア規模の変質について言及した。また、田端氏は「プラットフォームと違いメディアに編集は絶対に必要。コンテンツの内容はもちろん、スマホに特化してPCは縮小する、UIも変更するといったことも編集だ。たとえユーザー数を落としてでもブランドの価値を上げていくことが成功のポイントだ」と持論を語った。

 80分の長丁場、ほかにも話題はあちこちに脱線し、結局結論らしきものが語られることはなかったが、あえてまとめず残りは読者(視聴者)のコミュニケーションに委ねるという形もソーシャルメディアらしいセッションであった。

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