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【私のハマった3冊】個人データが悪用される監視社会 テクノロジーを駆使したミステリー

2013年01月17日 10時00分更新

私のハマった3冊

ソウル・コレクター 上・下
著 ジェフリー・ディーヴァー
文春文庫
各800円

オーディンの鴉
著 福田和代
朝日文庫
840円

ゴールデンスランバー
著 伊坂幸太郎
新潮文庫
900円

 テクノロジーを駆使した犯罪をネタにしたミステリーは多いが、ジェフリー・ディーヴァーの『ソウル・コレクター』には、ネット通販や地下鉄のICカードといった個人のライフログデータを悪用する犯人が登場する。

 疑われるのは、膨大な情報の中からパターンを見出し、マーケティングに活用するデータマイニングの大手企業。Amazonなどのリコメンドシステムとしておなじみのデータマイニングがこの小説の主役だ。

 主人公のリンカーン・ライムは、犯行現場に残された微細な証拠を分析して犯人を追及する科学捜査官。ただし、首から下は完全な麻痺状態といういわゆる揺り椅子探偵である。テクノロジー対テクノロジーの構図が本書の読みどころ。

 一方、国内でテクノロジーをうまく使うエンターテイメント作家に福田和代がいる。

『オーディンの鴉』は、ある国会議員が「私は恐ろしい」という遺書を残して自殺するところから始まる。ネットでは彼を中傷する動画が出回り、メールから携帯電話の通話記録、クレジットカードの履歴など個人情報がネット上に晒されていた。

 ディーヴァーは、行動履歴がデータとして残って参照されてしまう現代社会の問題を取り上げたが、福田は日本のネット世界らしいテーマである“炎上”を盛り込んでいるのがおもしろい。

 伊坂幸太郎には近未来の監視社会をモチーフにした作品がいくつかあるが、イチ押しは『ゴールデンスランバー』だ。

 作者が挑むのは、陰謀含みのケネディ暗殺事件が、現代のテクノロジー環境の下で起きたらどうなるかという実験である。

 当局によって首相暗殺事件の犯人に仕立てあげられそうになる主人公。すべての通信は傍受され、行動はカメラに捕らえられる。そんな監視社会を生き抜く武器が家族や友人であるというのは、とても伊坂らしい。

 というわけで、パスワードは厳重に(え、そのレベル!?)。

速水健朗
フリー編集者・ライター。主著『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)。NHK『NEWS WEB24』出演中。

※本記事は週刊アスキー1月29日号(1月15日発売)の記事を転載したものです。

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