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生き残りの秘訣は脳内ガールフレンドにあり?――ビジネス寓話50選

2013年01月03日 22時00分更新

ビジネス寓話50選

 短い寓話からたくさんのビジネスのヒントを学べると好評の『ビジネス寓話50選』(アスキー新書)から、寓話を抜粋。本日は第5章「つながる」から。あなたはこの寓話をどう読みますか?

第45話 脳内共同ガールフレンド

 第2次世界大戦下のドイツ軍捕虜収容所でのことだ。あるフランス兵捕虜のグループは、全員で自分たちの雑居房のなかに“架空のガールフレンド”がいると想定し、長い捕虜生活の慰みにしていたという。

 彼らの設定はこうだ。雑居房の隅にはひとりぶんの席がこしらえてあり、そこには13歳の可愛らしい少女がいつも座っている。仲間同士でケンカをしたり、激しい口論をしたりとおおよそ紳士らしからぬ振る舞いをした兵士は、その席にいる少女に頭を下げ、大きな声で非礼を詫びなければならない。

 着替えのときは、見苦しい姿を見せぬように、少女の席の前には布を吊って目隠しをする。食事の際には、皆のぶんを分け合って彼女のために一膳をこしらえる。さらに、あらかじめ決めた彼女の誕生日やクリスマスには、各自が手づくりでプレゼントを用意して贈る……。

 最初はほんのお遊びのつもりではじめたことだったが、気がつくと全員が彼女の存在をごく当然のものとして強く意識するようになった。捕虜たちがあまりに熱心であるせいで、監視のドイツ兵は本当にひとりの少女がかくまわれていると思い込み、雑居房を天井裏まで捜索する騒ぎにまでなったほどだ。

 しかし、厳しい収容所暮らしを強いられ、たくさんの捕虜たちが衰弱し、病死したり、発狂したりするなか、このグループは全員が正気を保って生き延び、終戦後には揃って故国の土を踏んだという。

(寓話文はインターネット上に掲載されたテキストを参考に編者にて構成)


ゲームが、コミュニティを機能させる

 このエピソードはいっときネット上で話題になったもので、実話かどうかはわかりません。しかし、「さもありなん」という説得力のある話です。

 もちろん、その雑居房にガールフレンドがいるなんて設定は、最初はほんのお遊びだったに違いありません。しかし、お遊びであっても、たったそれだけのことが自堕落な生活を振り返ったり、他人を気遣う気持ちを見なおしたりするための、きっかけやリマインダーになったのです。

 そうして徐々に、仲間と喧嘩したり、言い争ったりすることが少なくなり、生活習慣やストレスへの耐性も生まれて身体や精神状態が改善し、人と人との関わりも健全なものになっていった……。寓話のもととなったと思われる文章や同人誌をあたると、捕虜たちのなかでも上官にあたる人が、すさんだ仲間たちをどうにかしようとこの設定をつくった、としているものが多いようですが、もしそうならこの上官は、すばらしい妙手を打ったことになります。

 ひとりの人格を想定したことで、折に触れて皆が「この子だったらこう反応するんだろうな」「こう言ってくれるんだろうな」と想像を膨らませ、誰かのリアクションが別の誰かのリアクションを生むようなことまで起こり、おかげである種のゲーム性をもって健全にコミュニティの運営をすることができるようになりました。ここに、これからの時代に商品づくりに携わる人にとって大切な教えがあるように思います。

 現代はソーシャルメディアの時代です。生活者がつくっていた「コミュニティ」が、はっきり可視化されるようになっています。オンライン上でブランドのファン・コミュニティをつくるということが一般的になっていますし、既存の生活者のコミュニティにうまく受け入れてもらって、そこで商品の価値を理解してもらおうというコミュニケーション活動も盛んです。

 そんな時代の商品づくりのキーフレーズのひとつは、「コミュニティのなかでその商品はどう生きていくのか」ということでしょう。

 そこで思うに、これからの商品は、この脳内ガールフレンドのようになる必要があるのではないでしょうか。「常にそこにいて、常にコミュニティのメンバーとやり取りをして、コミュニティのなかでの新しいアクションを生み出していく」そんな存在です。

 その商品と関わり合うことを、ゲームのように楽しんでもらえること。商品づくりの段階から、どうすればそのような「ゲーム性」を商品に持たせられるのかを考える。そんな視点がますます重要になっているように思います。

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