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超危険な化学物質DHMOの正体とは?――ビジネス寓話50選

2013年01月01日 22時00分更新

ビジネス寓話50選

 短い寓話からたくさんのビジネスのヒントを学べると好評の『ビジネス寓話50選』(アスキー新書)から、寓話を抜粋。本日は第3章「つくる」から。あなたはこの寓話をどう読みますか?

第23話 DHMOの危険性

 1997年、ネイサン・ゾナー君という14歳の少年が書いた「我々はどのようにしてだまされるのか」というタイトルのレポートが科学フェアで入賞し、マスコミにも取り上げられて話題を呼びました。

 彼はDHMOという化学物質の害を指摘し、この物質の使用規制を求めて周囲の50人の大人に署名を求め、うち43名のサインを得ることに成功したのです。

 彼の挙げたDHMOの危険性は、

  • 酸性雨の主成分であり、温室効果を引き起こすことも知られている
  • 多くの場合、海難事故死者の直接の死因となっている
  • 高レベルのDHMOにさらされることで植物の成長が阻害される
  • 末期癌の腫瘍細胞中にも必ず含まれている
  • この物質によって火傷のような症状が起こることがあり、固体状態のDHMOに長時間触れていると皮膚の大規模な損傷を起こす
  • 多くの金属を腐食・劣化させる
  • 自動車のブレーキや電気系統の機能低下の原因ともなる

 といったものです。そしてこの危険な物質はアメリカ中の工場で冷却・洗浄・溶剤などとしてなんの規制もなく使用・排出され、結果として全米の湖や川、果ては母乳や南極の氷にまで高濃度のDHMOが検出されているとネイサン君は訴えました。

 さてあなたならこの規制に賛成し、呼びかけに応じて署名をするでしょうか?

 鋭い方ならお気づきのとおり、DHMO( dihydrogen monoxide )は和訳すれば一酸化二水素、要するにただの水(H2O)です。読み返していただければわかるとおり、DHMOの性質について隠していることはあっても、嘘はひとつも入っていません。

 単なる水であっても、恣意的に危なそうな事柄だけを取り出せばいかにも危険な化学物質のように見え、規制の対象とさえなりかねない──。

 ネイサン少年の指摘はなかなかに重い意味を持っているように思えます。

(出典:ウェブサイト『有機化学美術館』内「ニュースの中の化学物質」)


もののとらえ方は着眼点によって180度変わる

 このエピソードは、一時ネット上でいくつものサイトに掲載されました。ここでテーマとなっているのは、「イメージをつくる」ことの可能性です。これに近いことを、マーケティングの大家ジャック・トラウトも述べています。

「ビーカー入りの二水化酸素を無理やり飲めと言われたら、あなたはおそらくいやだなぁと思うだろう。だが水を一杯飲んでくださいと言われれば、抵抗なく飲むのではないだろうか。じつは両者は同じものである。味の差はまったくない。違うのは、イメージである」(『ポジショニング戦略[新版]』)

 ここで取り上げた2つの話はどちらも、私たちが当たり前のようになじんでいる「水」ですら、特徴の切り取り方、見せ方次第では「危険なもの」というイメージをつくり出すことができるという、いわば“イメージのネガティブ化”を題材にしています。

 ただ、ビジネスにおいて重視すべきはこの逆、つまりは“イメージのポジティブ化”です。

 たとえば、ひとつの茶系飲料を、「カロリーゼロの健康的な飲料」と打ち出したり、「自然素材の力で身体をキレイにしてくれる飲料」と打ち出したり、あるいは「食事の味を引き立てる飲料」と打ち出したり……。すでに完成している商品であっても、どのような特徴を切り取って強調するかによって、まったく異なるイメージをつくり出すことができるのです。

 先ほどの「二水化酸素」のように、イメージが違えば、当然、生活者の反応も違ってきます。現代はコミュニケーションの時代と言われるだけに、その違いは商品の命運を左右するといっても過言ではないでしょう。

 そして、これは商品や企業に限らず、「人」にもあてはまることです。

 私たちはさまざまな特徴や個性の集合体ですが、その一つひとつの特徴や個性も、どのようなとらえ方をするかによって見え方が変わってきます。もしかしたら、工夫次第では、自分では平凡だと思っていることや欠点だと思っていることでさえも、すばらしい魅力とすることができるかもしれないのです。

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