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第2回将棋電王戦の対局カードが発表!いよいよ現役プロ棋士との勝負だ

2012年12月17日 13時00分更新

文● いーじま 撮影●篠原孝志(パシャ)

A級棋士も登場!! 人間対コンピューター将棋の運命は?

第2回電王戦発表会

 2012年1月14日、日本将棋連盟の会長である米長邦雄永世棋聖がコンピューター将棋『ボンクラーズ』に敗れ、引退しているとはいえプロ棋士にコンピューターが勝利したことで新聞やテレビで大きく取り上げられたことは記憶に新しい(第1回将棋電王戦の記事)。そのとき、第2回は団体戦にすることが急遽決定し、今回その対戦カードが発表された。

 小雨の降る寒い12月15日土曜日の午後。発表会の会場はニコファーレだ。ニコ生で中継(タイムシフト有・関連サイト)をご覧になった方はわかると思うが、その発表の場は格闘技か何かを連想させる演出で、伝統と歴史を積み重ねてきたこれまでの“将棋”という文化では考えられなかっただろう。

対戦者の発表
第2回電王戦発表会
ニコファーレで行なわれた記者発表会。さながら格闘技のイベントのようだった。

 そんな派手な演出の中で登場したのが、今回戦う5人vs.5チームの“戦士”たちだ。人間側は全員“現役”のプロ棋士5人。対する前回の覇者であるコンピューター将棋側は、2012年5月に開催された第22回世界コンピュータ将棋選手権で好成績を挙げた上位5チームの開発者6人(GPS将棋は共同開発のため2人)だ。1人対1ソフトの対局で1日1組。2013年3月23日・30日、4月6日・13日・20日に行なわれ、3勝したほうが勝ちとなる。すでに対戦カードは決定しており、以下のようになっている。

■第1局(2013年3月23日土曜日)
 阿部光瑠四段 vs 習甦(しゅうそ)
 (開発者:竹内章氏/第22回世界コンピュータ将棋選手権5位)


■第2局(2013年3月30日土曜日)
 佐藤慎一四段 vs ponanza
 (開発者:山本一成氏/第22回世界コンピュータ将棋選手権4位)


■第3局(2013年4月6日土曜日)
 船江恒平五段 vs ツツカナ
 (開発者:一丸貴則氏/第22回世界コンピュータ将棋選手権3位)


■第4局(2013年4月13日土曜日)
 塚田泰明九段 vs Puella α
 (開発者:伊藤英紀氏/第22回世界コンピュータ将棋選手権2位)


■第5局(2013年4月20日土曜日)
 三浦弘行八段 vs GPS将棋
 (開発者:田中哲朗氏・森脇大悟氏ほか/第22回世界コンピュータ将棋選手権1位)

コンピューター将棋側5チーム
第2回電王戦発表会
人間側はプロ棋士5名
第2回電王戦発表会

 ご覧のとおり、前回の覇者である伊藤英紀氏もポンクラーズからPuella αと名称を変え参戦している。また、プロ棋士側は伸び盛りの若手中心で来るのかと思いきや、塚田泰明九段や三浦弘行八段といったベテランやA級棋士を揃えてきたところに、米長会長の意気込みが感じられる。いや、前回ご自身で対局して肌で感じたコンピューターの強さに、このレベルの棋士でないと勝つ可能性が低いと感じ取ったのかもしれない。ニコ生のコメントも「みうみう」コールで埋まったので、見ている側も対局が楽しみな人選と言えよう。

 さて、先手・後手を決めるのは前回同様振り駒だ。前回は振り駒の結果、米長永世棋聖が後手番になってしまった苦い経験(?)をしたドワンゴ会長川上氏が、今回も振り駒をすることに。その結果、第1局は人間側・阿部光瑠四段の先手で執り行われることになった。川上会長もホッとしたことだろう。今回は、第2局以降、先手番・後手番が交替するので、人間側が3局先手番で行なえることになる。

※先手番のほうが主導権を握りやすいので、有利と言われている。

 

ドワンゴ川上会長による振り駒
第2回電王戦発表会
振り駒は、歩が表3枚でたので、第1局は人間側の先手で行なわれることに。

各対局者の電王戦への意気込み

 

阿部光瑠四段
第2回電王戦発表会
歴代3番目の若さ(16歳5ヵ月)でプロ入りを果たした若きホープ。現在は18歳。順位戦はC級2組。

 普段通りの努力を怠らず、本番で実力を少しでも出せるようにがんばります。このお話を伺ったときは、強いソフトとさせるので楽しみだと思いました。

 

習甦の開発者、竹内章氏
第2回電王戦発表会
名前の由来は『Shogi Using Evaluation Function Swarm Optimizer』の頭文字から。漢字表記は羽生三冠を意識してとのこと。戦型ごと評価関数を使い分けている。

 歴史的な場にいられる幸運をうれしく思ってます。コンピューター将棋を開発やる以前からプロ棋士戦の対局を楽しませていただいていましたが、将棋には2人で勝負を争うということだけでなく、2人で棋譜という芸術品をつくるという観点があります。このようなイベントになりますと、どうしても勝敗という観点に注目が集まると思うのですが、ぜひ芸術という観点にも注目していただきたい。人間どうしの対局とはまた違った棋譜が生まれるのか、あるいは、棋譜を見ただけではわからない名局が生まれるのか。対局相手の阿部四段は16歳で棋士になられて、若くして棋士になられた方は、タイトルを取るなど活躍する方が多いので、将来性のある棋士だと思います。阿部四段にもちろん勝ちたいですが、後世に語り継がれるような名曲を残したいという気持ちでいっぱいです。

 

佐藤慎一四段
第2回電王戦発表会
奨励会の年齢制限である26歳目前で三段リーグを15勝3敗で優勝し、プロ棋士になる。順位戦はC級2組。

 今回の対局では内容もそうですが、結果を重視して、まず勝つことをいちばん重きをおいて対局に臨みたいと思ってます。さきほどの振り駒で後手が決まってますので、研究もしやすいと思いますし、対局の日まで1%でも勝率が上がるようにがんばりたいと思います

 

ponanza開発者、山本一成氏
第2回電王戦発表会
本人も将棋アマの強豪として知られ、Bonanzaの開発者・保木氏を尊敬し文字ってponanzaにしたが、Bonanzaのライブラリは使用していない。BIGLOBEのクラウドサービスを利用してクラスター化を進めている。

 先手と決まりましたので、積極的にリードを奪う戦法をやっていきたいと思ってます。戦法をしっかり考えて秘策をぶつけて行きたいですね。ponanzaは、序盤はミスが少ないのですが、終盤が少し弱いのでそこが心配です。

 

船江恒平五段
第2回電王戦発表会
現在25歳。詰め将棋が得意で、2004年の高校在学中に作者として看寿賞を受賞。2010年には詰将棋解答選手権で唯一の全問正解で優勝している。順位戦はC級1組。

 人間とコンピューターが将棋を指すことを通じて、多くの方に人間が考えることのすごさやすばらしさを感じていただければと思います。そのために最大限の準備をし、対局にあたっては、実力をしっかり出し切って戦いたいと思います。こういう緊張感のある戦いはなかなかできることではないので楽しみにしてますし、早く対局の日を迎えたいですね。自分は攻め将棋のタイプなので、先手を引けたことはいいことですし、対戦相手も決まったのでこれから作戦を立ててしっかりがんばっていきたいと思ってます。

 

ツツカナ開発者、一丸貴則氏
第2回電王戦発表会
CPUはCore i7-3930Kを利用した1台のマシンで動作させており、この手では低スペック。差し手の読む深さを機械学習によって決定している。

 船江五段は攻めが強くて爽快な将棋を指す方だと伺ってます。ツツカナもレベルは違うかもしれませんが、同様の将棋を得意としています。その両者が戦うことでどのような棋譜が生まれるのか楽しみにしています。よい対局にしたいと思います。対局にあたり、序盤の定跡はどうするかなど、考えております。後手番はちょっと苦しいかなと思います。

 

塚田泰明九段
第2回電王戦発表会
相がかりの先手番の急戦法である塚田スペシャルを開発し、公式戦22連勝するものの、その後有力な対抗策が見つかり、現在は余り使われない。順位戦はC級1組。

 コンピューター側は研究が進んでいるようですが、こちらのチームは今日から研究がスタートするわけで、資料をもらって研究しコンピューターの弱点を見つけて、5戦全勝を狙いたいと思います。今回のプロ棋士の中では最年長になりますが、チームのキャプテンは三浦八段になりますので、私はチームのまとめ役となっております。対局する相手は、米長会長を倒したコンピューターなので、雪辱したいですね。

 

Puella α開発者、伊藤英紀氏
第2回電王戦発表会
前回のボンクラーズから改名しつつ改良を重ねたバージョン。Bonanzaライブラリーを使用し、クラスターの最適化によってマシン台数が少なくても強いソフトに仕上がっている。

 私の場合は前回戦わせていただきましたが、コンピューター対人間は初めてではないのですが、不慣れな部分もあり準備に苦労したわけですが、今回は2回目なので勝手もわかっているので多少余裕もあり、リラックスして楽しむ気持ちで臨みたいと思っております。普段は、対コンピューターとしてチューニングや開発をするわけですが、対人間はあまりやらないので、前回は将棋倶楽部24で勉強させていただいたわけなので、そういう意味でメリットはあると思います。しかし、ほかの開発者の方に伺ったら、対人間は関係ないとおっしゃる方もいらっしゃるので、どうなるかわからないですね。

 

三浦弘行八段
第2回電王戦発表会
1996年に当時七冠だった羽生の一角を崩した棋士として有名。現在A級順位戦では3位につけており、名人戦挑戦も夢ではない。「みうみう」というあだ名は名人戦のニコ生大盤解説の中継中に視聴者から提案され快諾している。

 正直GPS将棋とはやりたくなかったんですけど、788台ですか、こちらは私ひとりでがんばります。プロ棋士側ががんばって、私がやる時点で勝ち越してくれていると思いますので、気楽にやりたいなと思っております。東大と聞いてビビりましたが、学力では勝てないので、将棋で勝ちたいと思います。

 

GPS将棋開発者、田中哲朗氏
第2回電王戦発表会
GPSとは東大のゲームプログラミングセミナーの略。東大の駒場キャンパスにあるマシンを利用してクラスター化し、処理している。選手権大会では788台接続し、1秒間に2億8000万手を読んだ。

 GPS将棋は、東京大学の情報基盤センターの教育計算機システムの学生が使っているマシンを利用しています。選手権では788台使っていたのですが、今回は三浦八段安心してください。ひと部屋使えなくなったので670台程度になります。GPS将棋は圧倒的な計算力を生かして、深くかつ広い読みが売りですので、プロ棋士と戦うのにふさわしい棋譜が残せたらと思ってます。

 

GPS将棋開発者、森脇大悟氏
第2回電王戦発表会
開発者はほかに金子知適氏、副田俊介氏、林芳樹氏、竹内聖悟氏がいる。

 GPS将棋は、ほかにも開発者がおりまして、金子、林、竹内、副田がいます。マシンの台数が多いですから、そのぶんマシントラブルが起きやすくなっています。対局を引き受けていただいた三浦八段に失礼のないよう、無事対局が終わるよう、チーム一同全力を尽くして参りたいと思います。

 

おもな質疑応答

――A級棋士の三浦八段は、トップクラスを代表してこの電王戦に出られると思うのですが、自分が負けるとトッププロもコンピューターに負けるんだということになりますが、そのあたりのプレッシャーや勝ちへの意気込みは?

三浦八段 自分が負けたらトッププロがコンピューターに負けたということになることは考えました。でも、自分の力を出し切るしかないですし、A級の誰かがやらなければならないと言ったときに、今のうちにやっておこうかなという気持ちもありました。あとになればなるほどかえってプレッシャーになる気もしましたので。ただ、私が引き受けなくてもA級棋士の誰かが引き受けていたと思います。プレッシャーは、自分にかけて自分の将棋が指せなくなって自滅することになりかねないので、対局に向けて調子を上げて行くしかないですし、先手番も決まりましたので、これから研究もしやすいと思います。先手番になれたことがいい流れだと思って、本番に臨みたいです。

――前回は米長永世棋聖のご自宅にボンクラーズが設置されたのですが、今回は各ご家庭に設置されるのでしょうか?

習甦 現状のソフトをお貸し出しいたします。

ponanza 勝負なので嫌です(笑)。

ツツカナ 1年前のバージョンなら。現バージョンのほうが7割方勝つレベル。

Puella α 普通の研究をしていただければいいのですが、コンピューターの腹を突くような対策を練られると観客の意をそぐ気がしますので悩んでます。

GPS将棋 オープンソース化されているので、使っていただいてかまいませんが、1/670能力になります。パソコンの能力にもよりますがおよそ、20手読めるか24手読めるかの違いになります。

――相手を研究することにおいては、プロの場合は棋譜が残っているので研究しやすいのですが、コンピューターの場合は棋譜が残っていないので棋士にとってある意味ハンデになると思うのですが、それを克服することかは可能なのでしょうか?

三浦八段 コンピュータ将棋選手権の棋譜はあるのですが、逆に開発者に質問したいのですが、対人間になった場合でも、あのような棋譜になるものなのでしょうか?

GPS将棋 開発者の方針によって異なると思いますが、GPS将棋の場合、対人間用というチューニングは行なわずに、対コンピューターの考え方になります。ただし、持ち時間の違いによってかなり棋譜が変わってくると思います。

三浦八段 確かに、今の質問で気付かされたのですが、棋譜があまりない状態では研究はしづらいですね。

川上会長 私は将棋の専門ではないのですが、人間とコンピューターっていろいろ人間のほうが不利だと思います。コンピューターは秒読み段階でもギリギリ粘れるが、人間はなかなかそうはいかない。エネルギーの消費量にしても人間が使うカロリーより明らかに多くの電力を使ってコンピューターは戦いますので、今後はそういうようなバランスを取るような、人間とコンピューターが戦うためのルールが必要なのではないかと思います。

Puella α 棋譜は、コンピュータ将棋選手権でも1大会で10数局ありますし、floodgate(関連サイト)などで棋譜が見られるので、そちらを参照してほしい。

――米長会長は普段指されない手を2手目に指してきましたが、今回は対コンピューター的な戦型を指すのか、あるいは普段の戦型でいくのか?

阿部四段 普段通りの自然体で指します。

佐藤四段 研究してからですが、初手の6二玉は指さないです。

船江五段 これからの研究によりますが、有力な手であれば、普段指さない手を指すかもしれません。しかし突拍子もない手を指すことはないと思います。

塚田九段 序盤が荒い部分があるとのことなので、研究次第ですが得をするような指してはするかもしれません。

三浦八段 それまでの勝敗によっても変わってくると思いますし、まだ研究もしていないのでわかりません。

 

 羽生善治三冠がおっしゃってましたが、対コンピューターとなると見たことがない手を指されても動じないぐらいの研究をしなければ、なかなか難しいとのこと。そのためには対人間の対局を絶ってでもしなければならないそうだ。今回、とくに三浦八段などは名人戦の挑戦をかけたA級順位戦が3月まで行なわれることもあり、なかなかこの電王戦に集中して研究するのは難しい状況だろう。A級棋士はわずか10名しかいない。そのなかでリーグ戦を行ない、優勝したものが名人戦への挑戦者となる。下位2名は降級となるためその地位を保つのは大変だ。電王戦は視聴者側からすればとても興味深く楽しみではあるが、普段の対局に影響が及ぼされるのであれば、それはちょっと酷である。

 ということで、第1回も盛り上がったけれど、今回は現役プロ棋士ということで、さらにヒートアップしそう。もちろん、私も現地での取材や対局者のインタビューを行なっていくと思うのでこうご期待。

決戦まであと3ヵ月……
第2回電王戦発表会
人間側もコンピューター側も、これから研究、チューニングをして戦いに挑む。もちろん、人間側に勝ってほしいところだが、さて。

■第2回 将棋電王戦 概要
●日時:2013年3月23日・30日、4月6日・13日・20日
     各土曜日の午前10時より対局開始
●会場:対局場・東京将棋会館(一般観覧不可)
     大盤解説会場:ニコニコ本社
     (一般観覧可/東京都渋谷区神宮前1-15-2)
     ※大盤解説棋士および一般観覧方法については
     下記の生放送番組ページに随時掲載
●番組URL:第1局(2013年3月23日)
      第2局(2013年3月30日)
      第3局(2013年4月6日)
      第4局(2013年4月13日)
      第5局(2013年4月20日)
●ルール:持ち時間・・・各4時間(1分未満切り捨て)
     先手番・・・第1局 阿部光瑠四段
    (2局目以降は先手番・後手番が交替)
     対局場での使用電力・・・2800Wまで
    (対局場以外の外部との接続によるネットワーク使用は可)
     千日手や持将棋になった場合は時間によって、引き分けとなる。

 

■関連サイト
公益社団法人 日本将棋連盟
将棋電王戦の公式ホームページ

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