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【私のハマった3冊】地名や地形から歴史を読み解く 今いる場所をとらえ直す地図ガイド

2012年11月14日 10時00分更新

私のハマった3冊

石川初 | ランドスケール・ブック
著 石川初
LIXIL出版
1890円

凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩
著 皆川典久
洋泉社
2310円

地図から読む歴史
著 足利健亮
講談社学術文庫
1008円

 上水道と下水道のそれぞれ本管だけで東京の地図を描くと、互いにまったく異なる姿が現われる。上水道が主要道路網をなぞっているのに対し、下水道は枝状の形を描き、それは暗渠(あんきょ)化されたかつての小河川の分布とほぼ一致している。これというのも下水道はその原理上、圧送ができず、川と同じく土地の高低差を利用して水を流しているからだ。この違いからは、人工と自然という都市の持つ両極端な2つの顔が見えてくる。

 石川初『ランドスケール・ブック』にはこのほかにも、私たちのいる場所をとらえ直すためのさまざまなヒントが、ガイドブックふうに紹介されている。地図の見方を変えたり、地形に注目するだけでもずいぶんいろんな発見があるものだ。

 皆川典久『凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』もまた、地形を通して東京という都市をとらえ直した一冊だ。本書でいうスリバチとは、窪地状の谷のこと。東京にはこのスリバチが各所に存在し、自然にできたものだけでなく、人為的な営みによって生まれたものもあるようだ。たとえば四谷荒木町には、四方を段丘で囲まれた“スリバチの傑作的な場所”があるが、この一帯は江戸時代の大名屋敷の跡地で、窪地はその庭園に湧水を堰き止めて築かれた人工池のなごりなのだとか。

 スリバチを探すには、“谷”、“窪”、“沢”、“池”といった字が含まれた地名も手がかりとなるという。足利健亮『地図から読む歴史』にとりあげられたケースでも、地名が歴史をひもとくうえで重要な鍵を握っているものが少なくない。なかには、徳川家康がそれまでの領地をあっさりと手離し江戸に移った理由として、豊島や千代田など縁起のいい地名が多かったからとの説も出てくる。

 何気ない地名や地形から壮大な歴史を読み解く。いま街歩きがちょっとしたブームになっているのも、そこにロマンを抱く人が増えているからだろう。

近藤正高
ライター。ウェブサイトcakesにて亡くなった著名人の足跡をたどるコラム『一故人』を連載中。

※本記事は週刊アスキー11月27日号(11月13日発売)の記事を転載したものです。

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