週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

油井宇宙飛行士インタビュー「現実と夢のギャップを埋める努力が大事です」

2012年11月05日 15時00分更新

 国際宇宙ステーション(ISS)に、2015年から6ヵ月間の滞在が決まった油井亀美也宇宙飛行士。昨年7月の宇宙飛行士認定以来、アメリカでNASAの極限環境ミッション運用訓練を受け、この10月からはロシア、ソユーズ宇宙船の搭乗やISS滞在の訓練をスタートさせている。忙しい訓練の合間を縫っての一時帰国期間に、インタビューの機会をいただくことができた。

油井宇宙飛行士インタビュー

 子供のころから宇宙飛行士になりたかったという油井さんは、1970年生まれで、前職は航空自衛隊所属のパイロット。2008年、JAXAによる宇宙飛行士選抜試験963人の応募者の中から、大西卓哉さん、金井宣茂さんとともに日本人宇宙飛行士の候補者に大抜擢。合格時は、最年長の38歳だった。

――油井さんはよく、“中年の星”といわれることもあるようですが、それについてどう思われますか?

油井:いいんじゃないかと思います。よく同期からは「俺たちはまだ中年じゃない!」なんて言われますけど、「現実をよく見なさい、俺たちは中年だ。歳をとっているのは確かだから」と。現実を見るのは非常に大切です。夢は当然あって、なおかつ現実をよく見る。そこにギャップがあるのは当然で、ギャップを埋める努力をするということが大事なんです。

――なるほど。

油井:体力的にも、記憶力などが衰えてくることを自分に言い聞かせる意味でも、“中年”と呼ばれていいと思っています。そしてそれを見据えて、補うために何をしなければいけいないか、と考える。人一倍、語学も勉強しなくてはいけないし、体力トレーニングに時間を割かなくてはいけない。だから、“中年の星”でもいいと思っています。まあ“星”ほどまだ輝いていないので(笑)これからですけど。ロシア語の勉強は、一所懸命やっているんですけど大変ですね。……がんばります(笑)。

――子供のころから、宇宙飛行士を目指していらしたんですよね?

油井:気持ちはあったのですが、防衛大学校に入った時に一度、夢をあきらめているんです。自衛隊から宇宙飛行士になるという道なんて、その時にはなかったですから。飛行機のパイロットになったときに、丁度、『ライトスタッフ』という映画を観て、“アメリカはテストパイロットから宇宙飛行士を選んだんだ。日本も状況が変われば、そう言うふうになるかもしれない”と思い、再び宇宙飛行士を目指し直したんです。

――『ライトスタッフ』といえば、初めて音速の壁を越えたパイロット、チャック・イェーガーさんが先日、89歳でF-15D戦闘機に搭乗して超音速飛行に挑戦されていましたね。

油井:そうですね、素晴らしいです。

――パイロット経験が、宇宙飛行士の仕事に役立つことは、ありそうですか?

油井:仕事のしかたは非常に似ているなと思っています。宇宙飛行士の仕事の仕方は、手順書を見ながら、手順書にのっとって地上と連絡をとり、ひとつずつ手順をこなしていくこと。わからないことがあれば質問をし、緊急事態があったらそれに対処する。実はそういうところは飛行機とやり方が同じなのです。

――ミッションは、ISSそのものの維持や管理から、生命科学実験、宇宙科学実験などさまざまですが、油井さんはどのような分野のミッションに関心、希望があるのでしょう。

油井:私の実家は川上村という小さい村の農家でしたから、植物を育てることは当然やってみたい。天文学にも興味があるので、MAXI(国際宇宙ステーション 日本実験棟”きぼう”からX線で天体観測を行なう、全天X線監視装置)の成果というのは非常に興味があって見ているんです。世界に誇れる成果だと思います。また、私は前職がテストパイロットなので、ISSで実験を行なう際に、さらに安全に、さらに効率的にできるのかをエンジニアの方と調整して、次に活かすということができればいいかなと思っているんですよ。ISSはクルータイムが足りなくてなかなか実験ができなかったりしますが、次の大西さん、金井さんが行くときに、同じ時間でもよりたくさんの実験、作業ができるということになれば、成果がよりたくさん出せる。そういうところに、重点を置きたいなと思っています。

――日本の実験棟“きぼう”で好きな場所はありますか?

油井:“きぼう”にはエアロックもあるし、ロボットアームもあるし、船外実験もできる。私は特にロボットアームのブランチにいたので、そこで、実際にどのような仕事ができるのかというのは興味がありますね。あとは、窓から実際に箱庭のようなところ見て見たい。MAXIも早くみてみたい、という個人的な希望があります。

――ロボットアームの操作も。

油井:ぜひ、やってみたいですね。

油井宇宙飛行士インタビュー
(C)NASA

――カナダのロボットアームと、日本のものとでは、設計時のXYZ軸が違っていて、一方で訓練されるともう一方に対応するのが大変だと聞いたのですが……。

油井:私は両方の訓練受けましたけど、そんなに違和感なくできました。XYZのフレームは、切り替えることができて、自分に合った形で、最適のものを選んで作業できるんです。私がやっている限りでは特に違和感はなかったので、どちらを扱うことになっても大丈夫だと思います。ロボットアームと船外活動は花形のひとつなんですよ。訓練にも時間を割きますし、実際に作業をするのは宇宙飛行士の誇りみたいなものですね。

 船外活動は、中の圧力で宇宙服はパンパンになっていますし、その中で作業するには、握力とか上腕の筋肉が非常にたくさん必要になります。そのなかで6時間もやるというのは非常に大変なんです。けれども、それに見合うようなきれいな景色も見られますし、実際に外に出て作業するというのは、また違った感覚があるようですね。

――先日行われた小型衛星放出機構のような、技術実験についてはどうですか?

油井:宇宙ステーションがせっかく上がっていて、使える実験施設があるわけです。今回の小型衛星放出というのはいい例で、アイディアがあれば、利用の可能性というのは無限に広がっていくわけですよね。小型衛星に今回関心を持っていただいた方々には、ISSから物を外に放出できるんだ、ということをわかっていただいたわけで、その能力を使って、ほかに何か実験ができないかなとか、どんどんイマジネーションを膨らませて、実験を考えていただいて。関心を持って、アイディアを出していただけることが希望になりますね。

――2015年からアメリカ、ロシアの宇宙飛行士による1年間の長期滞在が始まりますが、長期滞在に関してはどうでしょう。

油井:もし機会があるのなら、私もぜひ参加してみたいです。宇宙が身体に与える影響と言うのは、本当にまだまだわからないことが沢山あるので、もちろん私自身が経験してみたいというのもありますし、私が経験することで、よいデータがとれて、皆さんに貢献できるのであれば、喜んでやりたいと思いますね。

――最後に、日本の宇宙開発、技術について、優れている、誇りに思われるところと、これからもっと発展していってほしいなぁと思う部分があればお聞かせください。

油井:日本の宇宙開発と言うのは、非常に優れています。これだけの技術を持っている国と言うのは世界中でもわずかで、宇宙開発の技術先進国、大国であるといっていいと思います。ただ、その中で“人を打ち上げる(有人飛行)”というのは、非常に重要な要素なんです。国際的に発言権を増すというのもあります。私の希望としては、その部分も……お金はかかりますけれども、ぜひ日本も取り組んでいっていただければ、と希望しています。私は前職がテストパイロットですから、試験もできるわけです(笑)。 そこでまた新たに活躍できる機会があるわけなので、(テストパイロットとして)ぜひ乗りたいですね。

■関連サイト
JAXA|宇宙航空研究開発機構
Charles Elwood "Chuck" Yeager
全天X線監視装置 MAXI
 

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう