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iPhone 5のLTEが速いのはどっち? auとソフトバンク、スタンスが異なる両社の思惑【石野純也氏寄稿】

2012年09月18日 20時00分更新

iPhone 5 LTE
↑日本時間の13日に発表されたiPhone 5のLTEを巡り、KDDIとソフトバンクの戦いが激化している。

 iPhone 5が2.1GHz帯のLTEに対応したことに合わせ、発売にあたってKDDIとソフトバンクモバイルが同時にサービスを開始する。LTEとは、Long Term Evolutionの略で、OFDMAと呼ばれる変調方式を採用した通信規格のこと。一般的には高速な通信、遅延の少なさ、電波利用効率の良さとそれに伴うビット単価の安さなどが特徴と言われている。下り速度はカテゴリーによって異なるが、KDDIやソフトバンクが導入する“カテゴリー3”では、5MHz幅を使うと37.5Mbps、10MHz幅を使うと75Mbpsとなる。

 こうしたLTEそのものについての話は、KDDIとソフトバンク、どちらのサービスにも当てはまる。また、iPhone 5のLTEで使用する周波数帯はモデルごとに異なるが、日本で利用できるのは今のところ2.1GHz帯だけとなる。秋冬には、KDDIが1.5GHz帯や800MHz帯でのLTEを、ソフトバンクが2.5GHz帯でのAXGP(TD-LTEと互換性のあるLTE方式のひとつ)のサービスを予定しているが、“iPhone 5のLTE”という点に絞って考えると使える周波数帯はまったく同じだ。どちらも、最高速度は下り最大75Mbps。サービスイン当初はユーザーも少ないことから、スループットの差も体感でわかるほど大きくはならないだろう。

 一方で、今回のiPhone 5は同じLTE方式を同じ周波数帯でのみ使えることもあり、KDDIとソフトバンクのLTEに対するスタンスの違いが浮き彫りになった。そこで両社のLTEサービス違いを、エリアの作り方やネットワークのキャパシティー、そしてそこから導き出される料金という観点で比較していきたい。

●KDDIのLTE事情

 KDDIは、元々800MHzと1.5GHz帯でのLTEサービスを計画しており、2012年の冬からスタートする計画だった。KDDIの取締役専務、石川雄三氏によるとiPhone 5が2.1GHz帯のLTEに対応することを受け、ネットワーク設備の構築を「大幅に前倒した」という。同時にKDDIは「最初が2.1GHz帯、その次に1.5GHz帯、800MHz帯の3バンドを一気に拡大して、今年度末には実人口カバー率96%を実現する予定」(同氏)だという。

iPhone 5 LTE
↑LTEサービスについて解説するKDDIの石川氏。
iPhone 5 LTE
↑当初計画を前倒しし、iPhoneに対応するために2.1GHz帯でのLTEサービスを開始する。
iPhone 5 LTE
↑2013年には最大112.5Mbpsへの高速化も予定。
iPhone 5 LTE
iPhone 5 LTE
↑ネットワーク側に新たな仕組みを入れ、LTE接続時の着信を早くしたり、電池の持ちをよくしたりといった特徴を出した。

 2.1GHz帯のみのエリアについては、開始当初は東京23区と政令指定都市をはじめとする、トラフィックの集中しやすい地域が中心になる。2.1GHz帯は既存の端末で“CDMA2000 1x”(いわゆる3G)に使用している。元々KDDIは2.1GHz帯を15MHz幅×2で運用していたが、PHSとの干渉を防ぐガードバンドの5MHz幅を新たに利用できるようになった。「3Gのトラフィックを圧迫することなく、2.1GHz帯で10MHz幅まで広げることができる」(同氏)というのはそのためで、3Gが混んでいる地域では新たな5MHz幅だけを使って37.5Mpbsのサービスを、3Gを移行しやすい地域では既存の15MHz幅の内5MHz幅をLTEに振り分け、75Mbpsのサービスを行なう予定だ。元々KDDIの3Gは800MHz帯が主力だったため、2.1GHz帯も他社に比べてLTEに移行しやすい状況にあると考えられる。この帯域がiPhone専用になるのも、トラフィックをさばきやすくなる要因と言えそうだ。

 iPhone 5のテザリングを解放した点は、こうした要因からくる自信の表われと見てよさそうだ。ただし、LTE用のパケット定額プランである『LTEフラット』(月額5985円、iPhone 5向けはキャンペーンで最大2年間5460円)には7GBの容量制限がついており、超過すると128Kbpsに制限されるか、追加で2GBごとに2625円支払う必要が生じる。テザリングの利用には525円の追加料金はかかるものの、iPhone 5についてはキャンペーンで2年間無料になる。7GBの制限をかけた上で、キャンペーン以外はテザリング利用料を取るというのは少々整合性に欠ける感もあるが、このオプションに加入すると500MBの追加を得ることが可能だ。

iPhone 5 LTE
↑KDDIはテザリングを解禁して、ソフトバンクとの差別化を図る。

●ソフトバンクモバイルのLTE事情

 こうしたKDDIのLTEに対して、「少なくともauのLTEは800MHz帯、1.5GHz帯、2.1GHz帯を足してのカバー率なので、大したことはないと思っている。(複数の周波数帯を使う)Androidはいいと思うが、iPhoneではどれだけの旗(アンテナ)が立つのか」と疑問を呈するのが、ソフトバンクモバイルの専務執行役員CTO、宮川潤一氏だ。「2.1GHz帯のアウトドア(屋外)基地局は正確に言うと7万弱ぐらい。うちは元々がW-CDMAなので、9割ぐらいの設備をソフトウェアアップデートでLTEにできる。しかもリモートで行なえる」(同氏)というのが、ソフトバンクの強みだ。ソフトバンクも「iPhoneが2.1GHz帯のLTEに対応するのはある程度前から知っていたので、相当前から工事していた」(同氏)。結果として、今年度末には政令指定都市ベースで100%近く、実人口カバー率で91~92%のLTEエリアを構築できるという。

iPhone 5 LTE
↑使用中の2.1GHz帯を移行しているため、苦労は多いがエリアは広げやすいと語るソフトバンクの宮川氏。

 ただ、同社は主要な周波数帯として3Gで2.1GHz帯を使用している。このバンド幅は20MHz×2となり、LTEに移行するためには少なくとも5MHz幅を空けなければならない。トラフィックの多い都心部でこの作業を行なわなければならないのが、ソフトバンクの悩みだ。すでに「都心は2.1GHz帯を20MHz幅×2で運用しているが、山手線の中はパンパン。セルスプリット(基地局のカバー範囲を細かく分割すること)を倍々でやっているが、そろそろ限界」(同氏)という状況だ。「できれば2.1GHz帯には手を加えたくなかった」と宮川氏が本音をのぞかせたように、LTE用に5MHz幅を振り分けた瞬間、3Gがパンクして既存のユーザーが一斉に通信できなくなってしまう恐れがある。

 そのため、ソフトバンクではまず現在使用されている2.1GHz帯の一部を、プラチナバンドと同社が呼ぶ900MHzに振り分ける計画を進めている。宮川氏によると「プラチナバンドにお客さんをたくさん乗せるよう、パラメーターを切り替えている。東京とその他ではパラメーターを変え、900MHzに乗りやすいようにした。プラチナバンドの基地局も毎月2000を超えるスピードで工事している」といい、空いた2.1GHz帯の5MHz幅を使ってLTEサービスを開始する。一方で、都心以外では比較的周波数のやりくりをする余裕があるため、10MHz幅を使って75Mbpsのサービスを早期に開始できるという。

 LTEは3Gの3倍ほど効率がいいため、既存ユーザーがiPhone 5に移行すればするほど、ソフトバンクにとっては現在使用している2.1GHz帯が空き、周波数を移行しやすい状態になる。同社の思惑はキャンペーンにも表われており、iPhone 4/4Sの下取りなどを行なってまで過去のiPhoneからの移行を促している。とはいえ、現状でもっともLTEが必要とされる都心部でLTEの電波が入らないという矛盾を抱えたネットワークになっていることは否めない。9月末には都内の移行が難しかった地域である山手線内側についてもLTE化が完了するというが、空いている地域が10MHz幅で75Mbps、混んでいる地域が5MHz幅で37.5Mbpsというのも、需要と供給の不一致と言えるだろう。

 こうしたネットワークの事情を鑑み、ソフトバンクのiPhone 5ではテザリング機能がふさがれたままだ。同社ではiPhone 5用の『パケット定額 for 4G LTE』(5460円)には容量制限を導入していないが、一方でスマートフォンの単体利用でKDDIの上限である7GBを超えるユーザーは数%に満たない。「一般のケータイのユーザーがまだ大半の中で、青天井になる料金体系を見せるとビックリしてしまう」という宮川氏の見解には一理あるが、実態を考えると一般的なユーザーにはあまり意味のない無制限と考えてよさそうだ。

iPhone 5 LTE
↑ソフトバンク版とKDDI版を並べたところ。“インターネット共有”というテザリング機能が使えるのはKDDI版だけだ。

 テザリングについては「営業からは、やれやれと言われているが、落ち着くまで勘弁してほしい」といい、宮川氏を中心とするネットワークの部隊がストップをかけている状況だという。「制限を入れるのはありだと思うが、受け入れられるかどうか、冷静な判断をしたい。ただ、正直7GBは大きい。アメリカライクに、1GB刻みにできればもうちょっとやりやすい」という発言にも、宮川氏の本音が表われていると感じた。

●まとめ

 2社を取材した上で、現状の3Gまで含めると、ネットワークのスマートさではKDDIがリードしているように感じた。LTEについてはどちらも未知数。帯域に余裕のあるKDDIに対して、ソフトバンクにはエリアを広げやすいというメリットはあるが、電波の運用は“生物”とも言えるだけにサービスが始まってみるまでは、どちらが優れているかは一概に判断できない。一方で、ネットワークの刷新に伴い、通信料金がiPhone 5ではほぼ横並びになった。KDDIが料金面でハンデを抱えていたiPhone 4Sのころと比べると、状況は逆転しているようにも思える。もちろん、ソフトバンクには多くの既存iPhoneユーザーがいる。割賦の残債やホワイトプランに対する2年縛りはMNPを躊躇する大きな要因になるため、すぐにKDDIのiPhone 5に移るとは考えにくいが、少なくともiPhone 4Sのころよりも両社のiPhoneは接戦を繰り広げることになりそうだ。

(2012年9月23日09:00追記) 初掲載時、“OFDMA”が“OFMDA”となっておりました。お詫びして訂正いたします。

iPhone5まとめ

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