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“クール・ジャパン”支援の具体策が議論された『クリエイティブ産業活性化ワークショップ』

2012年03月29日 18時30分更新

クリエイティブ産業活性化ワークショップ

 産業技術総合研究所 臨海副都心センター主催による『クリエイティブ産業活性化ワークショップ -デジタルコンテンツでクリエイターとユーザをつなぐー』が、3月23日に東京都立産業技術研究センター(お台場)にて開催された。

 ワークショップのテーマである“クリエイティブ産業”とは、工業デザイン製品、伝統工芸品、マンガ・アニメコンテンツ、ファッションなど、海外での認知度が高い“クール・ジャパン”を指す。

クリエイティブ産業活性化ワークショップ

 特別講演として、経済産業省商務情報政策局クリエイティブ産業課デザイン政策室室長補佐の三原龍太郎氏が『クール・ジャパン戦略とデザイン政策の概要』と題して、中小企業や若いデザイナーの海外展開を促すことや、海外プロジェクトをはじめとする事例を紹介した。

クリエイティブ産業活性化ワークショップ

 基調講演では、独立行政法人産業技術総合研究所デジタルヒューマン工学研究センターセンター長の持丸正明氏が、『クリエイティブ産業を臨海拠点で活性化する-デジタル支援と拠点化支援-』と題し、クリエイティブ産業活性化で必要となる人的ネットワークや試作制作支援を拠点化する構想を披露。

 クール・ジャパンはクリエイターの才能に大きく依存しており、大きな産業として成り立たせるためには製品発表の場や、クリエイターの発掘、製品の評価方法や差別化など、産業のインフラ整備が必要不可欠。パネルディスカッションでは、今回は多くのジャンルを含むクール・ジャパンの中でも工業デザイン製品に焦点を当てて、新たな産業としてクール・ジャパンを創世していくためには何が必要か、何が足りないのか? などが議論された。

ゲストによる講演を実施

 パネルディスカッションに先立ち、ワークショップのゲストスピーカー、劔持秀紀氏(ヤマハ、Y2プロジェクト開発担当主管技師)、田子學氏(エムテド、アートディレクター・デザイナー)、堀内仁氏(デルフィス、シニアプロデューサー)、高橋憲行氏(企画塾、総合企画デザイン)、アスキー総合研究所の遠藤所長ら5人による講演が行なわれた。

クリエイティブ産業活性化ワークショップ
クリエイティブ産業活性化ワークショップ

●アスキー総研・遠藤所長の講演は『日本のコンテンツの生態系とエレクトロニクスとの関係』

クリエイティブ産業活性化ワークショップ

 遠藤所長は『日本のコンテンツの生態系とエレクトロニクスとの関係』について講演。オタク文化は70年代後半から始まるが、ネットやSNSの影響により、ここ5年でライフスタイルは大きく変化したとし、アスキー総研の調査グラフによるデータ分析では「日本人の25%は一日30分以上アニメを観ている。その中でも20代は圧倒的にオタクで、役者が演じるドラマではなく2次元だけを観る傾向が高い」、「“年代別好きなキャラクター”で初音ミクを挙げる人は10代女性に非常に多い。ボカロ曲しか聞かない人もいる」と潜在的なアニメ・オタクのマーケティング層があることを示唆した。

 また、オタク文化が80年代に開花したのと同時に、日本の工業製品も80年代を境にウォークマンやファミコンなど「ああ、それは日本的だね」と思える製品が登場し、エレクトロニクスとオタク文化の発展は共時性があると述べた。

 だが、こうしたオタク的ポップカルチャーは個人のクリエイションだけで育つわけでも、自然発生するものでもなく、ある程度、力のある支援が必要になること。さらに、Wikipediaでアニメタイトルに対しての多言語ページ有無状況の比較や、上海の書店でのマンガコーナーを例に出し、国際競争力に対してのアプローチが不足しているなど、クリエイターだけでは解決できない課題があることを指摘した。

クリエイティブ産業活性化ワークショップ
↑性年代別アニメ視聴時間のグラフ。“日本人はメチャメチャアニメを観ている”という結果が浮き彫りに。
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↑初音ミクは10~19歳女性から多くの支持を得ている、という。
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↑日本のいびつなコンテンツ構造を解説。趣味として発表する場に、コミケのほかニコニコ動画といったネットコンテンツの増加も。
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↑Wikipediaの多言語ページ解説状況。海外アニメはディズニー作品など多数が多言語で解説されるが、日本のアニメはジブリ作品程度しかない。

●ヤマハ・剱持氏の講演は『歌声合成と新しい音楽』

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 ヤマハの剱持氏の講演テーマは『歌声合成と新しい音楽』。ボーカロイドの音声合成の仕組みを実際の作成画面と合わせてデモンストレーションし、ニコニコ動画で人気の高い作品を紹介しつつ“ボーカロイドがなぜ受けいれられたか”の自己分析を行なった。

 また、ベートーベンのピアノソナタが、新たな楽器の登場に合わせて楽譜の音域をどんどん広げたことを例に挙げ、新たな楽器・道具が音楽表現を豊かにしてきたとしてボーカロイドを開発していくと述べた。

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↑音声合成のしくみ。例として“朝(あさ)”と発音させるための音声の組み合わせ方を解説。
クリエイティブ産業活性化ワークショップ
↑なぜボーカロイドが人気となったか。かわいいキャラクターや動画でのコミュニケーションなど、技術以外の面も大きいと分析した。

ゲスト5人によるパネルディスカッション

 各人の講演後、ゲスト5名全員によるパネルディスカッション『クリエイティブ産業活性化のビジョンを』が実施された。

クリエイティブ産業活性化ワークショップ

 クリエイターを育成するための方法や、産業支援はどうのようにするべきかについて、ジャンルの異なる5人のパネリストによる意見が交わされた。そのなかで遠藤所長は 「“日本は技術があるから(大丈夫)”という話が出るが、技術をもってる企業がどこにあるかという情報がない」、「外国との特許など法律に絡む交渉などクリエイターや中小企業が手に負えない部分での支援をもっとやってほしい」などコンテンツや技術関連の企業の置かれている状況を述べた。

 クール・ジャパンに対してはクリエイターの育成・発掘よりも、クリエイターに対する支援を強化するべきとの意見が多くのパネリストから出された。同時に、クリエイターの才能だけでなく、作り手・送り手ともにお金がなければ創作できないという厳しい現実も浮き彫りになり、産業技術総合研究所デジタルヒューマン工学研究センターセンター長持丸正明氏は「クリエイターと送り手のインフラを(早急に)整備するべき」と、ワークショップの総括を行なった。

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