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【私のハマった3冊】ヨーロッパ、中国の近代史からグローバリズムを読み解く

2012年02月06日 13時00分更新

私のハマった3冊

1492 西欧文明の世界支配
著 ジャック・アタリ
ちくま学芸文庫
1575円

中国化する日本
著 與那覇 潤
文藝春秋
1575円

文明の生態史観
著 梅棹忠夫
中公文庫
780円

 いまから20年前の'92年、ヨーロッパ連合(EU)の発足に向けてマーストリヒト条約が調印されている。この年はコロンブスの新大陸の“発見”から500年の節目の年でもあった。それにあわせてフランスの経済学者、ジャック・アタリは『1492 西欧文明の世界支配』を刊行、1492年こそ近代ヨーロッパが歴史の支配権を握る始まりの年であったことを、仔細なできごと(そこには先住民の虐殺なども含まれる)の叙述によりあきらかにした。

 ただし10世紀~15世紀の世界でもっとも支配力を有したのは西欧ではなく中国であった。1405年には明の鄭和が永楽帝の命を受け、大艦隊を率いて世界各地を遠征している。だが明はその後、広大な領土を守るべく鎖国政策を布く。これにより中国は同時期に大航海時代を迎えた西欧に遅れをとってしまう。このことは與那覇潤『中国化する日本』でも現在の歴史学の常識として紹介されている。

 気鋭の歴史研究者である著者は、10世紀に成立した宋朝以降の近世中国を、身分制を撤廃し自由競争・市場経済を導入した点で現代のグローバリズムの先駆けとしてとらえる(明の鎖国はあくまで例外的事例)。“中国化”とはようするにグローバル化の別名だ。この本では源平合戦から現代まで一千年におよぶ日本における“中国化”と“反中国化”のせめぎあいの歴史が描き出されている。

 単純明快なモデルにより世界史を読み解いた点は、民族学者の梅棹忠夫が'57年に発表した『文明の生態史観』とも共通する。同書では日本と西欧を“第一地域”、ユーラシア大陸の広域を“第二地域”に分け、前者は古代文明発祥の地である後者から負の影響を受けなかったため近代化をいち早く達成できたと説明された。だが“第二地域”の中国やロシアが勃興しているいまにして思えば、“第一地域”優位の時代は世界史上でも特殊な時代だったのかもしれない。

近藤正高
ライター。著書に『私鉄探検』など。今年こそ近代史を題材にスケールのでかい本を書きたいと考えてます。

※本記事は週刊アスキー1月24日号(1月10日発売)の記事を転載したものです。

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