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ぱすぽ☆のダンスにはこんな秘密が!? 振付師・竹中夏海さんインタビュー

2011年11月21日 10時00分更新

 アイドルにとってダンスは必要不可欠な要素だ。どんなダンスを踊るかによって、そのアイドルならではの個性や色合いが生まれてくる。それゆえ振付師は、アイドルの輝きを支える重要なスタッフなのである。

 ぱすぽ☆や pre-dia の振り付けを担当する竹中夏海さんは、ぱすぽ☆がまだ『ぱすぽ(仮)』と呼ばれていたころからグループの運営に携わってきた、いわば生みの親的な存在。その独特なダンスはファンから高い評価を受けており、メディアへの露出も数多い。

 週刊アスキーでは今回、ぱすぽ☆のメジャー1stアルバム『CHECK-IN』とpre-dia のサードシングル『ハニーB』がリリースされるタイミングを機に、竹中さんにインタビュー。両グループにおけるダンスの違いや、振り付けの秘密について聞いてきたぞ。

竹中夏海 Natsumi Takenaka

1984年6月10日生まれ。小学5年生でミュージカル『美少女戦士セーラームーンSupers~夢戦士・愛・永遠に~』に出演し、その後も映画などに出演。いっぽうで5歳からモダンバレエをはじめ、大学では舞踏学専攻としてさまざまなスタイルのダンスを学ぶ。2008年にぱすぽ☆の振付師に採用され、現在はコレオグラファーとしてプラチナム・プロダクションに所属。ぱすぽ☆のほかpre-diaやセクシーオールシスターズなどの振り付けを担当している。

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コレオグラファー(振付師)の竹中夏海さん。

――最初にうかがいたいのは、ぱすぽ☆に見られるチアリーディング的な要素です。大学ではチアダンスも学ばれたんでしょうか?

竹中 実は、ぱすぽ☆の振り付けにチア的な要素があることは、指摘されるまで意識してなかったんです。ファンのかたに「フォーメーションがくるくる変わるね」って言われて、「え、そう?」って思ったくらいです。

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ぱすぽ☆のライブではおなじみのフォーメーション。10人全員でV字をつくったりする動きが、いかにもチアダンス的なのだ。

竹中 母校では、舞踊学専攻の学生はチア部に入るなみたいな空気がありました。舞踊学専攻には背の高い子が多く、その身長だとチア部では下の(持ち上げるほうの)ポジションになっちゃうんです。それでムキムキになっちゃうと、バレエやモダンを踊る時に先生がいい顔をしないんで、先生からの無言の圧力というか(笑)、チア部に入る流れじゃなかったんです。

 それに、チアって高校や大学から始める人が多く、それまでダンスをやっていなかった人が多いんです。でも大学の舞踊学専攻に来るような人は幼稚園のころからバレエやモダンをやってきた人ばかりなので、チアダンスを通らずにきているんですね。だからダンスをやっている人のあいだでも、チアってメジャーではなかったんです。

 ただ私は、大学での授業とは別に、男子高にチアダンスを6年間くらい教えに行ってたんです。チアボーイズといって、大会に本格的に出るというよりは体育祭で披露するくらいのレベルなんですが、すごくいいオモチャを見つけたと思って(笑)、楽しんで教えていました。

 その経験があるので、振り付けのときはまずフォーメーションから考えるんです。だから私のなかでは当たり前の工程というか、いつもどおりの順番でやっているだけのことだったんですね。

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大学で舞踏学専攻だっただけあり、足のポジションも美しく決まる竹中さん。ダンスはさまざまな動きの部品から組み立てられており、経験の積み上げが重要なのだ。

――なるほど。あと竹中さんは、ハロプロのダンスについて高く評価されていますが、その影響は?

竹中 それもそんなに意識してないです。ハロプロは大好きなのですごく観てますし、影響されているのかなって心配になったりもしたんですが、やったみたら結果的に全然違っていました(笑)。

 とくに差別化を意識しているわけではないです。振り付けってあくまで楽曲ありきなので、楽曲や歌詞の世界観が似ていれば振り付けも似てくるかもしれません。その点、ぱすぽ☆の曲は他のアイドルとは全然違って、いわゆる“王道のアイドル”といった甘さみたいなものがないので、甘い動きとか王道のステップはあまり入れてないんですね。

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ぱすぽ☆のダンスにはこんな感じの甘さを感じさせるポーズは少ない。あえて定番的な振りを取り入れないようにしているのだ。

――そんなぱすぽ☆のダンスは、他のアイドルに比べて振りコピが難しいように感じます。

竹中 ぱすぽ☆の場合はあえて、振りコピの優先順位を下げています。私自身、振りコピは好きだし、ファンのかたにやってもらえるとうれしいんですが、なかには振りコピしない人もいるじゃないですか。観ているだけの人にもおもしろいと思ってもらえる、観ていて気持ちがいいというところを優先順位の一番にもってきたんです。

 振りコピの優先度を上げるとやはり難易度は下がってくるし、ダンスが単純で単調なものになってきます。マネできるところはマネしてもらえるとうれしいけど、ぱすぽ☆の楽曲には疾走感のある曲が多いので、振りコピのためにブレーキを掛けたくはないなと思ったんです。

 だからたとえば、こうしたほうが振りコピしやすいんだろうけど、観ていて気持ちいいのはこっちの振りだから、こっちを優先なんて感じにしています。

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『ハレルヤ』で見せるゴルフショットの場面。こんな寸劇風の振りも、ぱすぽ☆なら自然に受け入れられるのだ。

竹中 小桃音まいちゃんの『Magic Kiss』という曲で振り付けをやらせていただいたんですが、彼女の場合はお客さんが振りコピする文化ができあがっていて、事務所のかたからもファンが両手でマネできるような振り付けがいいとリクエストされました。

 そのへんはグループとかタレントさん、ファン層によって変えていきたいので、小桃音まいちゃんの場合は振りコピを最優先順位にもってきたんです。だから、ぱすぽ☆だったら音に合わせて動くところを、マネしやすいようにトントントンと均等に刻むといった工夫をしています。

――ぱすぽ☆やpre-diaのダンスで、なにか工夫されている点はありますか?

竹中 フォーメーション移動が多いので、ステップもいろいろな形を組み合わせています。pre-diaはぱすぽ☆とは違い、ハイヒールで踊ることを前提にしているのでジャンプが少ないんです。ピョンピョンしないんですよ。あと、上手と下手のポジショニングを明確にしています。上手の子、下手の子って決めちゃってます。

※ステージに向かって右側を上手(かみて)、左側を下手(しもて)と呼ぶ。「右・左」という表現だと、演者と観客では視点が逆になってわかりづらいので、舞台では上手・下手と呼ぶのが一般的。

 ぱすぽ☆では当初、上手や下手ということを意識してなくて、全員がステージ全体に散らばるようにしていたつもりだったんです。ところが実際にはまこっちゃん(奥仲麻琴)のファンの人は下手に寄るし、あいぽん(根岸愛)のファンは上手に寄るんですね。だからファンのかたに「傾向ってあるの?」って聞いたら、「あるよー」って言うんですよ。私が気が付いていなかったのに。

 でもきっと、フォーメーションのバランスをとるなかで、そういう傾向があったんだと思うんです。今は振り付けを考えているとき、左右どっちに動いてもいい場合は、その傾向に合わせることもあります。

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10人が輪になってグルグルとステージ上を動くパフォーマンス。まさに上手も下手もない動きだ。

竹中 でもぱすぽ☆は基本、グルグル回ってもいいグループだと思っています。いっぽう、pre-diaは汗だくで走ったり飛んだりするところをあまり見たくなくて、ハイヒールでカツンって決めている姿のほうがカッコいいと思うんです。だから移動距離があまり出ないように、上手と下手を明確にしようと思ったんですね。上手の子は上手のなかでしか動かないように決めて、ファンの人たち完全にポジションが決まってますね。

 ぱすぽ☆のほうは、10人でひとつの生き物みたいにしたいんです。他のアイドルグループではイベントによって人数に変動があるので、変更が効くように工夫しているんだと思いますが、ぱすぽ☆は団体競技がひとつのテーマで、ダンス未経験者の子ばかりでひとりひとりでは勝負できなくても、10人集まればなんとかなるという考えでやっています。

 10人って大所帯じゃないですか。そのパフォーマンスを観たとき、「この子たちって10人いなきゃダメだ」って思ってもらいたいし、逆に言えばひとりでも欠ければヘンになるというか、10人という人数にすごくこだわっているんです。だからひとり抜けると、そこがボコッと抜けた感じになると思います。

 ぱすぽ☆ってキャラクターがバラバラなんですが、ステージ上でダンスをすると、ひとつの生き物が丸くなったりV字になったりするよねってファンのかたに言われました。絵本の『スイミー』みたいに、小さな魚たちが集まって大きな魚の形になって、大きなサメなどをやっつける、ぱすぽ☆はまさにそんな感じだと思います。

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十人十色が魅力の『ぱすぽ☆』。ロリからお姉さままでいろんなタイプがいるが、意外にも年齢差は3歳差に収まっている。

――そんなぱすぽ☆、結成当初はどんな感じだったんでしょうか?

竹中 ぱすぽ☆はほとんどがダンス未経験者だったので、私としては手加減して振り付けしたつもりだったんです。でもダンス経験者のさこちゃん(槙田紗子)からは、「10人中8人が未経験者なのに、あんなに難しいダンスをもってくるとは思わなかった」って言われました(笑)。

 『Let It Go!』(1st CD)の振り付けは、フォーメーションは4パターンくらいしかないし、ステップも単純な繰り返しなんです。ただ手の動きがけっこう難しかったり、音に合わせて踊ろうとすると難しかったりと、わりと細かいんですよ。

 当時、知り合いのダンサーの人がぱすぽ☆の初ライブを観に来てくれたんですが、アイドルのライブだからと思って油断して観ていたら、「え、ここまでやらせるの!?」って思ったんだそうです。

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手や腕の動きも、ダンスのなかで表現していくと、こんなポーズでさえ難しくなる。

――当時はまこっちゃん(奥仲麻琴)を文字どおり手取り足取り振り付けた話が知られていますが。

竹中 まこっちゃんとなちゅ(岩村捺未)はいまでもそうです(笑)。ダンスをやってきてない子たちにとって、ダンスの動きってふつうの生活では不自然な動きだらけじゃないですか。彼女たちが生きてきたなかで通ってきたことのない、動きのレパートリーのなかにないものだから、それは手取り足取りで教えるしかないんです。

 それが経験者だとダンスの動きがわかっているから、たとえば腕を斜め上に出したとき、手の平がどっちを向いてヒジはどっちを向いてというのがすぐわかるんですね。

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たとえば一見カンタンそうなこんなポーズでも、ダンス経験がないとヒジや手首の曲げ方がわからなくなってしまうのだ。

竹中 ただまこっちゃんはリズム感もないから、いまでもPVを観ていると、自分で振り付けたはずなのに「まこっちゃんが動いている!」って思っちゃいますね(笑)。

 それでも最近は、「これって『Let It Go!』のあのステップの応用編だよ」とか、「これは『Pretty Lie』の動きの逆バージョンだよ。後ろから前に行ったのを、前から後ろにやればいいんだよ」って教えれば、「あ、そっか」ってわかってくれるようになりましたね。とは言え新しい動きもどんどん取り入れているので、そういった未開拓地ではまだ、手取り足取りになります。

――新曲の『See You Again』では、ミニマムな振り付けが特徴的です。

竹中 楽曲の方向性でこういう動きになったというのもありますが、ぱすぽ☆の振り付けで情報量を多くしているのは、振りをつけてしまったほうが粗が見えなかったりするからなんです。ハロプロさんのすごいところは、ダンスの経験値や技術がすごく高いので、単純な振り付けでも決して簡単には見えないんです。簡単な振りでもスキなく踊れるからなんですね。

 未経験者でも、やることが決まっていればそれをやればいいので安心できるんです。ぱすぽ☆がわりと短期間でそこそこ踊れるグループになれたのは、団体競技であったり振りを増やしたりしたことで、粗が見えないような構成でつくってきた部分もあります。

 でも『See You Again』に関しては情報量を詰め込む曲ではないので、ぱすぽ☆の課題でもあるんですが、表情とかで魅せるようにしています。この曲でもう一段階成長できればという意味も込めています。次のステップに行くためには、曲の世界観を考えての動きを身に付けるいい機会だと思って、なるべく振りを削ぎ落としました。

――今後のぱすぽ☆では、どんな方向性で振り付けを行なっていきますか?

竹中 基本的には本人たちのやりたいことや、やりたい意思をくみ取るのが私の役目だと思っています。ここの事務所はけっこう自由な感じで、初代のステージ衣装もメンバーといっしょに探したりして、イチからみんなでやり始めたんです。ほかにはマイレージ特典のイベントとかマイクを横に持つこととか、私がアイデアを出したら通ったんですね。

 さらにさかのぼっちゃうと、チアボーイズでダンスを教えていた時や、それこそ高校や中学のときの部活のころから、私ってやっていることが変わらないんです。衣装やコンセプトを決めたり、ステージのテーマを決めるというところも含めてやってきたし、それは13歳くらいのころから変わってないんですね。

(了)

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