週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

【スーパーボウルまで追いかけ隊】パッカーズが連覇に向け全勝街道バク進中!

2011年11月18日 16時30分更新

 今週はリーグで唯一の開幕全勝をキープするパッカーズに注目しましょう。昨季はプレイオフの第6シードから勝ち上がってスーパーボウルを制覇したパッカーズ。今季はパワーランキングでも断トツの1位評価を受けています。

●NFL第10週トピックス●
パッカーズが攻守がガッチリ噛み合って45-7の大勝!

 開幕8連勝と絶好調のパッカーズは、NFC北地区のライバル・ヴァイキングスを本拠地のランボーフィールドに迎え、全米注目のマンデーナイトを戦った。

 前半こそチグハグな攻撃も見受けられたパッカーズだが、後半は完璧なアジャストでヴァイキングスのディフェンスを翻弄。4ポゼッション連続でタッチダウンを奪取し、第4Qには控えQBのフリンを投入する余裕を見せ、まさに横綱相撲で危なげない勝利をあげた。

 エースQBのアーロン・ロジャーズはこの日、23/30 250ヤード、4TDと完璧なパスオフェンスを展開。投げ捨てやスパイクを除くとパス成功は23/27で、しかも3回はレシーバーの落球のため、実質的なパス失敗は1回しかなかった。

 このところ失点が多かったディフェンスは、ヴァイキングスの新人QBポンダーに次々とプレッシャーをかけ、パス成功をわずか16/34(47%)に抑え込んだ。後半にはヴァイキングスの4thダウンギャンブルを2回とも止め、逆転の芽を摘むことに成功している。

 この日は全スナップ中、73.2%でブリッツを仕掛けるというアグレッシブなディフェンス。守護神のOLBマシューズが今季初のマルチサック(2回)を記録したほか、第7週の対戦で175ヤードを許した怪物RBピーターソンを、今回はわずか51ヤードに抑え込むことに成功。パスとランの両方を封じ込むことができた。

sb_07_02
プロ3年目の若き守護神、LBクレイ・マシューズ。3代続けてのNFL選手というフットボール一家で、叔父のブルース・マシューズは殿堂入りの名選手。家族のなかでスーパーボウルに勝ったのはクレイが初めてだ。

ロジャーズは歴史に残るペースでパス記録を量産中

 リーグ唯一の全勝をキープしたパッカーズですが、その原動力を挙げるとすれば、やはりQBアーロン・ロジャーズを挙げないわけにはいきません。

 今期は全9試合でQBレーティング 110 以上をマークしており、これはすでにチーム新記録。シーズンの通算QBレーティングは 130.7 という驚異的な数字で、2位のトム・ブレイディ(ペイトリオッツ)の 102.0 を30ポイント近く上回っています。

sb_07_03
驚異的なペースでパス記録を更新中の QB アーロン・ロジャーズ。28TDパスはすでに昨季の通算記録に並び、シーズン50TDパスのリーグ記録にも手が届く勢いだ。
(c)Getty Images

 ちなみにQBレーティングのシーズン記録は、2004年にペイトン・マニング(コルツ)がマークした 121.1。ロジャーズはこの記録を更新する可能性が十分にあります。

 QBレーティングはフットボールファン以外にはほとんどなじみのない数字ですが、パス成功率やTD数、インターセプト数などから算出する、パス成績を数値化したものです。ちなみに満点は 158.3 となります。

 これが 100 を超えると、優秀なパス成績と言えます。野球に例えれば3割バッターでしょうか。実際、マニングの 121.1 は途方もない数字で、阪神バースの .389 や、オリックス・イチローの .387 に匹敵する数字です。その基準でいえば、ロジャーズの 130.7 は打率4割越えだと考えて差し支えありません。

 これだけ高い QB レーティングを維持できる秘密はズバリ、被インターセプトの少なさです。ロジャーズは今季、3回しかインターセプトを喫していません。いっぽうでタッチダウンはすでに28本ですから、9:1という  TD/INT 比を誇っています。

 前述のペイトン・マニングは2004年、49TDパス・10INT を記録。また、年間 50TD パスのシーズン記録をもつトム・ブレイディ(2007年)は、INT 8回。それぞれ約5:1、約6:1というTD/INT 比も恐るべき数字なのですが、今季のロジャーズはさらにその上を行っているわけです。

 ロジャーズがなぜこれだけ高いパス成功率を誇るのか。もちろんロジャーズ自身が高精度のパスを投げるということもありますが、レシーバー陣との息がぴったり合っている点も見逃せません。

 いまパッカーズにはエースWRのグレッグ・ジェニングスをはじめ、WRドナルド・ドライバー、WRジョーディ・ネルソン、WRジェームズ・ジョーンズと4人の信頼できるレシーバーがいます。層の厚さはリーグ随一と言えるでしょう。

 さらに、身長196cm のビッグターゲット、TEジャーマイケル・フィンリーも今年は万全の体調を見せており、5TDレシーブは一昨年の自己記録に早くも肩を並べています。これほどに飛び道具が揃っているチームは、リーグ全体を見渡してもパッカーズだけと言えます。

sb_07_04
パッカーズの精神的な支柱とも言える WR ドナルド・ドライバー。通算 9776 ヤードを獲得しており、史上 34 人しかいない1万ヤードに今期中にも到達することが期待されている。

 しかもこれら5人のレシーバーは、13年目のドライバーを筆頭に、4年以上在籍している生え抜き選手ばかり。スーパーボウルを制覇した昨季をはじめ、同じプレーブックで練習している仲間たちですから、あらゆるプレーを互いに完璧に理解しているのです。

 フットボールでは、選手間の息が合っている様子を「 On the same page 」(同じページにいる)と表現します。プレーブックの同じページを見ているという意味で、まさにいまのパッカーズオフェンスは、常に同じページでプレーしているのです。

我を捨ててチームプレーに徹す

 もちろん、どんなチームでも「 On the same page 」は重要な指針であり、目標です。ですが実際には、プレーの習熟度に留まらず、各選手のマインド次第で、同じページを見ていられるかどうかが変わってきます。

 多くのチームでは、1人か2人のゲームメーカーに頼ったパスオフェンスを展開しています。優秀なレシーバーはそうそういるものではないし、そもそも NFL には高校や大学でのスター選手ばかりが集まっているのですから、それぞれの我も相当なもの。「とにかくオレにパスを投げろ!」という選手が少なくありません。

 それゆえ、たとえチームが勝利しても「 パスがあまり来なかった 」と文句を言いますし、チームが負けようものなら「 オレにパスを投げないから負けるんだ 」と言い出すのは日常茶飯事。これくらいの我はプロ選手として大事ですが、度が過ぎるとチームの和を乱してしまいます。

 しかしフットボールは規律( ディシプリン )が重要な競技です。エースレシーバーであっても、ランプレーでは相手をしっかりブロックしなければなりません。二番手レシーバーがターゲットのプレーでは、あえてデコイ(おとり)役を務める必要もあります。パスが来ないとわかっていても、ディープゾーンにゴールートで全力疾走するといったプレーです。

 実際、スーパーボウルに優勝するチームでは、二番手以下の選手が活躍するケースが珍しくありません。その好例が、ジャイアンツが全勝ペイトリオッツを番狂わせで下した第42回スーパーボウルです。

 この試合でエースレシーバーの WR プラクシコ・バレスは、わずかパスキャッチ2回。しかしその2回目が、第4Qでの決勝TDレシーブでした。そしてもう1本の TD パスは、その年わずか4回しかレシーブを記録していない WR デヴィッド・タイリーがキャッチ。タイリーはこのスーパーボウルで3キャッチを挙げています。

ドラフトで作り上げたオラが街のチーム

 ではなぜ、パッカーズでは多くの選手がチームプレーに徹することができるのでしょうか? それは入念なチームづくりに理由があると言えます。

 現在のパッカーズを作り上げたのは、2005年からジェネラルマネージャー( GM )を務めるテッド・トンプソン氏だと言っていいでしょう。師匠で前任者のロン・ウルフから後任に指名されたトンプソン氏は、ドラフトを軸としたチームづくりを徹底して行なってきました。

 現在のロースターを見ると、FA 移籍してきた大物選手は CB チャールズ・ウッドソン( 元レイダーズ )と、DT ライアン・ピケット (元ラムズ)の2人だけ。あとは6チームを渡り歩いた NT ハワード・グリーンくらいでしょう。

 オフェンスのスターターでドラフト指名されていないのは、RB ライアン・グラント( ジャイアンツ )とFB ジョン・クーン( スティーラーズ )だけで、彼らも前チームでは一介の控え選手に過ぎませんでした。実質的に、パッカーズでデビューしたようなものです。

sb_07_05
一昨年に最優秀守備選手に輝いた CB チャールズ・ウッドソン。レイダーズ時代はパーティーアニマルだったが、パッカーズ移籍後は模範的な先輩として、後進の指導にも意欲を見せている。
sb_07_06
カルト的な人気を誇る FB ジョン・クーン。彼がボールをもつと、スタジアム中に「クーーーーン!」の応援コールが鳴り響く。

ひとつの奇跡がいまのパッカーズをつくった

 そんなトンプソン GM が最初に担当したドラフトで、ひとつの奇跡が起こります。2005年ドラフトには2人の目玉選手がいました。ユタ大の QB アレックス・スミスとカリフォルニア大 の QB アーロン・ロジャーズです。

 ドラフト全体1位指名権をもつ 49ers がどちらかを指名し、もう一人もトップ5までには消えると予想されていました。果たして 49ers はスミスを指名。彼は5年ほど「外れ」と呼ばれ続けましたが、今年は見事、49ers を8勝1敗の好成績に牽引しています。

 そしてロジャーズですが、予想に反してどのチームも彼を指名しません。というか、QB 指名自体がなく、RB ロニー・ブラウン( ドルフィンズ、現イーグルス )や WR ブレイロン・エドワーズ( ブラウンズ、現49ers )、LBデマーカス・ウェア( カウボーイズ )といった、現在も活躍を続ける選手たちが次々と指名されていきました。

 極めつけは全体5位指名権をもっていたバッカニアーズ。ジョン・グルーデン HC( 当時 )はドラフト前、ロジャーズに対し「 キミが5位まで残っていたらウチが指名する 」と伝えていたにも関わらず、実際には RB カーネル・ウィリアムスを指名しています。

 こうしてロジャーズは、ドラフト会場で招待選手が待機する“グリーンルーム”で5時間も待ちぼうけを喰らいました。そしてついに全体 24 位で指名されます。ロジャーズを指名したのは、絶対的なエース QB のブレット・ファーヴが君臨する、パッカーズなのでした。

sb_07_07
2005年からGMを務めるテッド・トンプソン氏。ファーヴの引退騒動では悪者扱いされたこともあったが、そういう状況を苦にしない強い精神力は、GMとしての武器でもある。

 いくらトンプソン GM が天才と言えど、QBロジャーズ抜きにしていまのパッカーズを作り上げることは不可能だったでしょう。その逸材を全体 24 位で指名できたところから、パッカーズの快進撃は始まったのです。

 そして今季のパッカーズには、シーズン全勝の期待がかかっています。これまで全勝シーズンを達成したのは 1972 年のドルフィンズ(当時は14試合制)、そして2007年のペイトリオッツのみ。パッカーズ自身は1966年の12勝2敗が最少敗戦シーズンで、最多勝利は13勝3敗を3回記録しています(※スーパーボウル以後に限る)。

 選手たちは「 次の1試合に勝っていくだけ 」の姿勢を崩していませんが、パッカーズにとって重要なのは、プレーオフでホームフィールドアドバンテージを獲得すること。3度目のリーグ制覇を達成した1996年シーズンは、ランボー・フィールドで NFC 決勝を戦っています。

 昨季はプレーオフ第6シードからの出場だったため、スーパーボウル優勝チームにも関わらず、1回もホームでプレーオフを戦っていません。それゆえ地の利を得るために、そして地元ファンの期待に報いるために、リーグ最高勝率をキープして、第1シードを確定してもらいたいものです。

今週の余談

 今週はちょっとジマン話です。筆者が NFL の現地観戦をスタートしたのは 1996 年。チャージャーズ@パッカーズが始まりでした。

 当時はインターネットが普及し始めたころで、ネット文化が先行した米国では、NFL のチケットをネット上で購入できるようになっていました。そのおかげで、外国人である我々が NFL を生観戦できるチャンスが大きく広がっていたのです。

 1989年からパッカーズファンだった私にとって、グリーンベイはまさに聖地。初めて訪れたグリーンベイは、何百回も見つめた地図と同じように街の中心にフォックスリバーが流れ、緑色に塗られたランボー・フィールドがその威容を誇っていました(当時は外壁も緑色だった)。

 この年は正月休みを利用して、パッカーズの最終戦も現地で観戦。雪が降るなかヴァイキングスを迎えた一戦は危なげない勝利で、NFCの第1シードを確定。この後、パッカーズがプレーオフを勝ち抜き、29年ぶりのスーパーボウル優勝に至ったのはご存じのとおりです。

 そして2005年、十数回目の現地観戦はセインツ戦でした。この年、開幕4連敗とパッカーズは絶不調でしたが、晴天に恵まれたセインツ戦は 52-3 の大勝。この大量得点により、1勝4敗にも関わらず総得失点が 124-95 とプラスに転じたほどです。

 じゅうぶんすぎるリードを得たパッカーズは第4Q、エースQBのブレット・ファーヴを下げ、ルーキーの QB アーロン・ロジャーズをフィールドに送り出します。

 ロジャーズは2プレー続けて RB にハンドオフしたのち、3プレー目でプロ初パスにチャレンジ。成功したものの獲得距離はゼロヤード。ロジャーズのデビュー戦は、パス 1/1、0ヤードという記録に終わりました。

 この試合は知人たちといっしょに観戦しており、ロジャーズ登場を観た私は「 未来のプロボウル QB のデビュー戦を観たんだな 」とつぶやきました。この言葉は、おおむね正しかったことになります。なぜならロジャーズはプロボウル QB になっただけでなく、スーパーボウル MVP まで獲得したのですから。


■筆者 カゲ■
週アスの芸能デスクかつ NFL 担当。日テレ水曜深夜の NFL 中継でフットボールにハマり、1996年シーズンから現地観戦を開始。これまでレギュラーシーズンはファンとして 15 試合、取材では3試合を観戦。スーパーボウルは第40回大会から6回連続で取材している。好きなチームはグリーンベイ・パッカーズ。QBアーロン・ロジャーズが初めて公式戦に出場した瞬間をこの目で見たのがジマン。なお週刊アスキーは、専門誌を除く日本の雑誌メディアでは唯一、スーパーボウルを現地取材しています。

(了)

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう