心の状態のセルフチェックに役立つ「質問票」
iOSのヘルスケアアプリから「心の状態」を開いて、「心の健康のケア」のメニューにアクセスすると「心の健康に関する質問票」というメニューがあります。この質問票は医師が不安障がいリスク(GAD-7)と、うつ病リスク(PHQ-9)の診断に用いる臨床基準をベースに作成された、一般的な心の不調の兆候や症状の把握に役立つアンケートです。
チャン氏は質問票の効果を次のように説明しています。
「以前は心の状態を知るために医師を訪ねて診断を受ける必要がありました。これからは自宅のベッドルームのようなリラックスできる場所で、iPhoneのヘルスケアアプリを使って簡単にセルフチェックができます」
質問票の回答結果はPDFファイルとして、ユーザーのデバイスに書き出したり、メールやSNSツールを使って共有もできます。この機能を設けた理由については、チャン氏が次のように話しています。
「出力して質問票の回答を直接診断に使うためではなく、回答結果をもとに、かかりつけの医師による問診やカウンセリングの際などに役立てて欲しいと考えています」
心の状態を知ることを「当たり前」にする
筆者はまだ、日本では自身の心の健康について、家族や友人、職場の同僚などと「真面目な話題」としてオープンに話し合える環境が整っていないと感じています。アメリカの状況をチャン氏に聞きました。
「アメリカも同様です。まだ一般には、心の健康に関するディスカッションがためらわれる傾向にあります。でも一方で不安障がいやうつ病の患者が増え続ける中、ためらいを払拭しようとする人々の意識が育ちつつあると、私は医師として日々感じています。例えば著名人の中には、かつて自身が心の健康を崩して悩んだ経験を公の場であえて口にすることで、同じ悩みを抱える人々にエールを贈る方々がいます。パンデミックにより多くの人々が社会的に孤立したことで、心の健康を崩すことは『誰にでも起こりうる現実』であるという意識も広がりました。心の健康は、いま多くの人々にとって共通の関心事になりつつあります」
iPhoneやApple Watchに初めて搭載された心の状態の記録機能について、「これから多くのユーザーからフィードバックが寄せられることを楽しみにしている」とチャン氏は目を輝かせていました。
「アップルの新たな挑戦は始まったばかりですが、心の状態を知ることがが沢山の可能性につながっていると確信しています」
筆者紹介――山本 敦
オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。
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