父親の呪縛から逃れることができない
南アフリカにいた13歳のとき、コーディングを自習して『ブラスター』というビデオゲームを自作したというので、結果的にそんな大人になったことは納得できもする。また、幼いころから機嫌が激しく上下する子で、幼稚園の園長から知的障害だと指摘されたという性格もさることながら、父親のエロールから受けた心の傷の影響も小さくないようだ。母親のメイは、エロールについてこう語っている。
「エロールは少しずつおかしくなっていたんです。子どもの前で私を殴ることもありました。トスカとキンバルが隅っこで泣いていて、5歳のイーロンがなんとか止めようと、彼の膝の裏をたたいていたなんてこともありました」(上巻37ページより)
エロールはこうした発言を「言いがかりだ」と否定しているが、大人になって成功してからも、イーロンは父親の呪縛から逃れることができず、仕事に差し障りが出るような多くの苦難に直面している。しかも現時点でも状況は好転していないようなので、イーロンは今後もそうした“現実”とともに生きていかなければならないのだろう。
個人的には彼の性格を全面的に肯定する気にはなれないし、もし近くにいたら厄介だろうなとも思う。しかし、だからといって否定する気にもなれない。なぜなら、どうあれ彼は“結果”を導き出しているのだから。好むと好まざるとに関わらず、事実は事実として認める必要があるということだ。
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イーロン・マスク 上 (文春e-book)ウォルター・アイザックソン、井口 耕二文藝春秋
筆者紹介:印南敦史
作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。
1962年、東京都生まれ。
「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。
著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。
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