週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

「埼玉発ロボット」開発を促進!

産学官が協働でロボット開発を進めるための組織「埼玉県ロボティクスネットワーク」誕生

2023年11月01日 11時00分更新

フィールドロボットの現在地とその課題

 2つめの基調講演は、「将来のロボット産業におけるフィールドロボットへの期待」というタイトルで、日本ロボット学会前会長で、株式会社IHI技術開発本部技監の村上弘記氏によって行われました。

日本ロボット学会前会長、株式会社IHI技術開発本部技監の村上弘記氏

 村上氏はまず、日本のロボットの研究開発の歴史を解説しました。1960年代に産業用ロボットが誕生し、1970年代から1990年代にかけて産業用ロボットが普及拡大、2000年代からサービスロボットへの取組が始まりました。しかし、サービスロボットは、期待とその反動も大きく、なかなか普及にはいたっていません。

 村上氏は、日本ロボット工業会のロボット産業ビジョン策定委員会副委員長でもあり、同委員会が策定中のロボット産業ビジョン2050への取り組みについて説明しました。ロボット産業ビジョン策定委員会は、「スマートコミュニティ非常時WG」「スマートコミュニティ平時WG」「スマートプロダクションWG」「人とロボットの共生WG」という4つのワーキングループ(WG)から構成され、少子高齢化やインフラ老朽化などの社会課題をロボット技術で解決するためのビジョンを策定しています。中でも重要になるのが、人とロボットの共生で、日本では安全に対する要求が高く、リスクを重視しすぎるという問題があると村上氏は指摘しました。人による可制御性を確保し、ロボットを使うことに人々が不安を持たないようにする工夫が大切になります。

 フィールドロボットについては、阪神淡路大震災やJOC事故、東日本大震災などの災害を受け、極限環境・災害対応ロボット技術の研究開発が進みました。また、1990年11月に噴火活動を開始した雲仙普賢岳の復旧対策に伴い、無人重機をオペレータが遠隔操作する無人化施工への取り組みが本格化しました。近年は洪水や土砂ダムなどの水害が多発しており、水際での運搬車両のニーズが高まっています。そこで無人化施工の次の展開として、水深2m程度に対応できる遠隔操作運搬ロボットの開発が進められているとのことです。

 また、小型無人航空機(ドローン)は、150kg未満の小型無人機と150kg以上の大型無人航空機に大別されますが、前者は空撮・測量・散布や点検・検査、物流への展開が、後者は空飛ぶ車として、旅客・人流への展開が期待されています。点検・検査向けでは、姿勢を変えずに6自由度の移動が可能な高機動マルチコプターが開発されており、乱流下でも安定した飛行を実現しています。

 フィールドロボットの今後の取り組みの方向性としては、「人が使用する機械を無線遠隔化・自動化した無人機開発」「極限環境に対応した機器・システム開発」「『ロボティクス』『AI』『IoT』技術を既存製品に適用したシステム開発」の3つが挙げられ、その課題となるのが、無線を介したロボットシステムに関する技術開発になるとのことです。

ロボットによる「農業のアウトソーシング」という形

 続いて、農業ロボットの開発事例を株式会社レグミン 代表取締役の成勢卓裕氏が農業ロボットの開発事例に関するプレゼンを行いました。

株式会社レグミン 代表取締役の成勢卓裕氏

 レグミンは、2018年に創業されたロボットベンチャーで、自律走行型の農薬散布ロボットを開発しています。活動拠点は埼玉県深谷市でサービスのプロトタイプの提供を複数の農家で行っています。農薬散布は、農家にとってコスト的にも心理的にも負担が大きい作業であり、ロボット化することでその負担を軽減できればと考え、起業したそうです。同社のビジネスモデルは農家から作業依頼を受け、農薬散布を代わりに行い代金を請求するという、いわば農薬散布のアウトソーシングを行う形です。従来の農薬散布方法に比べて、作業時間も短く済むことが実証されていますが、今後は1人で複数台のロボットを運用し、作業時間のさらなる短縮を目指すとのことです。

 レグミンのロボットの特長は、センサによって畝を認識し、誤差1~2cmという高精度の自律走行を実現したことにあります。この自律走行技術は特許を取得しています。GPSによってロボットの大まかな位置や折り返しポイントなどを把握し、LiDARで畝の間の地形を認識し、作物にぶつからないように細かい制御を行っています。

 成勢氏は、農業ロボットの難しさとして、屋外で動くロボットなので環境から受ける影響が大きいこと、ぬかるんだ畑や傾斜地もあること、作物や地域ごとに生産体系が異なり、栽培期間が長く改良や試験に時間がかかること、そして要求コストが厳しいことを挙げました。農業ロボットの開発は、不透明な要件が多いため、アジャイル型の開発手法が適しており、そのためにはチームですべてを賄える内製化が重要だと語りました。

 また、レグミンは、2021年からクボタ社と共同でハウス栽培のスマート化の実証実験を開始しています。今後は、深谷市以外の地域にもサービスを提供していきたいとのことです。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります