アップルは6月5日に開催した開発者会議「WWDC023」で、多くの新製品を発表した。
中でも注目を浴びたのが「Vision Pro」の発表だ。アップルがゴーグル型デバイスを開発していることはかねてから噂されていたが、あえてARやVRなどの言葉は使わずに“空間コンビュータ”というコンセプトを示したのが新しい。
しかし、アップルのCEO、ティム・クック氏が「史上最高のWWDC」と呼んだように、発表はVision Proに留まらず多岐にわたった。これからのオーディオに関係していきそうなものを取り上げていこう。
AirPods Proを使った会話がしやすくなる「Adaptive Audio」
まずはAirPods Proから。将来のアップデート提供を見すえた機能として「Adaptive Audio」を発表した。AirPods Proが周囲の状況を検知して、アクティブノイズキャンセリング(ANC)モードと、外部音取り込みモードを自動的に切り替えたり、その垣根をスムーズになくす機能のようだ。ソニーの「WH-1000XM5」に搭載されている「スピーク・トゥ・チャット」のように、会話が始まった際にANCモードを外部音取り込みにモードに切り換えるイメージに近い。すでにAirPods Proはは外部音をどの程度取り込むかをスライダーで調節できるが、これを自動化して、ちょうどよいバランスを選ぶものになるかもしれない。
ちなみに、公式ではAirPods Proが自動的に更新されるとしているが、近くにiPhoneがあってもなかなか更新が進まないことがある。確実な方法は、MacにAirPods ProのケースをUSB接続して充電することだと思う。また、AirPods以外のアップル製品を持っていない場合でも、Apple Storeに持っていけば更新をしてくれるということだ。
ゲームモードはBluetooth伝送時の低遅延化を実現
もう一つ面白いものは、macOSの次期バージョンの「Sonoma」で搭載されるゲームモードだ。このゲームモードは、ゲームアプリを優先的に実行させるため、使用中のアプリにCPUなどのリソースを優先的に割り当て、バッググランドで動作するサービスの優先度を下げる機能だ。この内容はオーディオ分野で音質向上のためによく使われる手法に似ていると思う。macOSはUNIX系なので、コマンドプロンプト(ターミナル画面)を出して、低レベルのコマンドで優先度を変える人もいた。
ゲームモードの詳細はまだわからないが、アップルのリリースでは全てのゲームアプリが恩恵を得るとしているので、システムレベルで設定するものだと考えられる。このことから、ゲーム以外のアプリでも使用ができるのではないかと期待している。
また、ゲームモードでもうひとつ興味深いのは、ゲームモードをオンにしているとAirPodsのレイテンシー(遅延)を劇的に下げられるという記述だ。そのために、Bluetoothのサンプルレートを倍にするという。
レイテンシーを下げるには、LE Audioのような低遅延に伝送できる仕組みを導入することが有効なはずだ。ただし、LE Audioを採用しても、対応機種が限られる。現時点で対応できるそうなのは、Bluetooth 5.3に対応した第2世代のAirPods Proのみである。Bluetoothのサンプルレートを倍にすると言う記述は、なにか旧機種でも使える仕組みをアップルが考案したのかもしれない。具体的にこれをどのように実現していくのか。個人的にはもっとも興味のあるところだが、詳しい情報はまだわからない。
Adaptive Audioやゲームモードは、オーディオ分野においてもちょっと注目したいニュースと言える。実際に使用ができるようになる日が楽しみだ。
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