種子販売だけでなく、委託生産による生産物販売も
創業からこのようなゲノム編集の基盤技術が整ってきたことで、2022年3月には総額5億円を調達。現在は、種苗会社や食品会社との共同研究開発と、オリジナル種苗の開発の2軸で事業を進めている。共同研究開発事業は、種苗会社、食品メーカー、植物を用いた環境事業に取り組む企業など、国内6社と共同開発中で、海外展開も開始。オリジナル種苗事業は、トマト、大豆、エゴマなどの作物で開発を進めており、種子販売だけでなく、委託生産による生産物販売にも取り組んでいく計画だ。
例えば大豆は代替タンパク質として注目されているが、ここ数十年間でほとんど収量が上がっておらず、ゲノム編集による効果を示しやすい作物のひとつ。日本では古くから食用油として使われてきたエゴマは、やせた土地でも育てやすく救荒作物としても優秀であり、ゲノム編集で改良すれば収量の倍増も期待できる。少ない水と肥料で育てられる生産性の高いサスティナブルな作物として有望だ。
「種苗が新しく生まれることで出せる価値はまだまだある。種苗開発は時間がかかるため、どんどん集約化され、多様性が失われている。ゲノム編集技術によって多様性を持った種苗開発をスピーディーにしていくことが我々の目指す姿。新しく生みだされる植物によって、さまざまな課題解決に繋がればハッピーですね」と丹羽氏。
ゲノム編集分野では海外スタートアップも多く立ち上がってきているが、ターゲットが多岐に渡り、特定品目で成功しても横展開が難しい。その点、グランドグリーンのデリバリー技術はいろいろな作物の編集に使うことを前提としているのが強みだという。
同社CTOの小林 健人氏は種苗会社のブリーダー出身であり、チームには種苗会社や地域の農業職で品種改良に携わった経験をもつメンバーが在籍し、種苗業界や生産現場の実情の課題に合わせて、ゲノム編集にはこだわらずに事業化を進めている。オリジナル種苗事業では、すでに植物工場向けに早く育つレタス種子の販売を開始しているが、同品種の開発にゲノム編集は使われていない。またエゴマのオリジナル品種開発のベースとなる品種は、岐阜の農事組合法人に生産委託しており、エゴマ油や搾りかすをタンパク原料にした商品を開発し、テスト販売も進めているとのこと。
ようやく環境が整い、ゲノム編集による商品開発はいよいよこれから。事業を本格化し、複数品種の種苗開発を同時に進めるとなれば、ランダムに発生する変異の中から望む特性をもつDNAを効率的に選び出すためのデータ解析技術も必要になってくる。今後は、データ解析企業との技術提携、またそこから派生する技術、他の産業への応用などへ広がっていきそうだ。
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