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【前編】KLKTN代表 岩瀬大輔氏、ヤングマガジン鈴木一司編集長ロングインタビュー

NFTで日本の漫画を売る理由は「マンガファンとデジタル好きは重なっているから」

2022年04月16日 18時00分更新

現在はマンガ誌が作家さんに「選んでもらう」時代

鈴木 NFT販売における出版社側のメリットは、広く新連載を注目してもらえるだけに留まりません。ちょっと大きな話になってしまうのですが、「今後出版社が生き残っていくために最も必要なこと」として、「いかに作家さんに選ばれるか?」があると思っています。こちらも新連載と同様に、同業者なら同じ課題を抱えているでしょう。

―― 作家さんに出版社が選ばれる? 作家さんが出版社での連載を目指しているのではなく?

鈴木 そういった時代があったかもしれませんが、現在は違いますね。1つは商業誌ではなく、自費出版などご自身でマネタイズする手段が登場したこと。もう1つは、商業媒体間でも競争が激しくなったことです。具体的には6~7年ぐらい前から次々に登場しているマンガアプリですね。

 こういった時代だからこそ、僕らは自分たちの価値を磨く必要があるとあらためて考えさせられました。

―― 媒体同士の競争が激化したことで、作家さんにとっては媒体を選べる時代になったと。では、ヤングマガジンさんではどのように価値を磨こうと考えていますか?

鈴木 まず出版社として作家さんに提示できる価値というのは「お金になること」だと思います。稼げるようになる、ということが商業誌が選ばれる最大の理由だと思っています。

 ヤンマガが作家さんに『この出版社、この媒体と一緒にやれば、色々な場所で読まれるし、お金もたくさん儲かるな』と思ってもらえるようにしたい。預かったコンテンツを最大限お金にする、というのが僕らの使命だと思ってるので。そしてNFT販売も、作家さんに選ばれる媒体になる手段の1つです。

販売開始時には新宿駅・表参道駅に屋外広告を掲出した

読者がマンガ誌の作品を選ぶ理由

―― では、作家さんに選ばれるための「ヤングマガジンならではの価値」には、どういったものがあるのでしょうか?

鈴木 じつはここ数年、ヤングマガジンというレーベルのありがたさを感じることが増えてきたんです。マンガアプリが次々とリリースされた頃、業界からは「もう雑誌ブランドは通用しない」という声があがり、紙の雑誌にいた僕も『ああ、そうかもな』と思っていたんですけど……様相が変わりました。

 なぜなら、限られた例外を除き、現在は「少年ジャンプ+」や、うちの「マガジンポケット(マガポケ)」といった版元のマンガアプリが上位に入っているからです。

―― 版元アプリが強くなった、その理由は?

鈴木 版元が強くなった、というよりは版元に読者さんが帰ってきた、そんな印象があります。うちも1年前に「ヤンマガWeb」をローンチして気づいたことがあるんです。マンガサイトではかなり後発ですし、特別なことをやっているわけでもありません。ですから『1年後に50万ユーザーを獲得できれば良いな』ぐらいの想定だったのですが、蓋を開けたら1年で200万ユーザーを突破しました。

―― それはすごい!

鈴木 これは僕らにとっても予想外の驚きで、なぜだろうと調べてみたら、「ヤンマガ」という名前から流入して来る読者さんが多かったんです。ヤンマガに載っている、というだけで読んでくれる人が世の中に一定数、いてくださったんですね。

 今の時代はマンガがたくさんあるので、読者はどれを読めばいいのか選べなくなってしまったのかもしれません。そこで「自分が知っている名前」を選んでくれたのかなと。

―― なるほど。確かにマンガ誌の場合、その誌名だけで「こんな感じのマンガが載っている」という傾向がだいたい把握できますよね。雑誌というのは、ブランド的なものなのでしょうか?

鈴木 読者との信頼関係をブランドと呼べるなら、そうですね。創刊して40年経ちましたが、歴史の重みって相当あるなと感じます。最低でも二世代にまたがっているので、お子さんが「ヤンマガに載ってるマンガだよ」と言ったら、親御さんも「そうか、ヤンマガか」と返す会話が成立するんです。

 ……僕は一度、「もう雑誌ブランドは通用しない」という言葉に『そうかもな』とうなずきましたが、今はまったく逆で『この名前は最大限に活かさないとダメなんだ』という考えに変わりました。

 どれだけ時代が変わっても、読者さんとの信頼関係がある「ヤンマガ」という雑誌の名前を紙・電子・Webあらゆる媒体で最大限に活かすことで、作家さんに来ていただきたいと思っています。

後編はこちら

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