音楽に生命が宿ったかのような音、存在感のある音の厚み
Sonus faber「LUMINA I」で聴く、ベートーベン/交響曲第9番「合唱」
[試聴曲] ベートーベン/交響曲第9番作品125「合唱」 アンドリス・ネルソンス指揮/ウィーン・フィル(96kHz/24ビット、FLAC)
試聴曲は「ベートーベン/交響曲第9番作品125「合唱」」。昨年のベートーベン生誕250周年を記念して企画された交響曲全集からのもの。アンドリス・ネルソンスはボストン交響楽団音楽監督やライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスターなどを務める若きマエストロ。クラシックは若い人にはあまりなじみがないかもしれないが、あまりにも有名なこの曲ならば、第4楽章の「歓喜の歌」などを一度は聴いたことがあると思う。クラシックを本格的に聴くのはハードルが高いかもしれないが、この曲のようにどこかで聴いたことのある曲だと入りやすいと思う。
タイミングはずれてしまったが、年末には日本でも各地で「第9」の演奏会がおこなわれており、年末の定番コンサートでもある。この由来は、1918年の第一次世界大戦が終結した年の暮れに、「歓喜の歌」の元になったシラーが「歓喜に寄す」をライプツィヒのゴーリスで書いたことから、平和への願いを込めてコンサートが行われたことからはじまる。現在はライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団がそれを受け継ぎ、毎年大晦日に演奏が行われているという。日本でもそれにあやかって年末に「第9」の演奏が行われるようになった。
というわけで、年末の定番ともなっているこの曲だが、それ以上に日本で知名度を高めたのは、TVアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」かもしれない。第二十四話「最後のシ者」のクライマックスで「第9」の第4楽章から合唱部分が使われている。当時、シンクロ率400%を超える勢いでハマっていた筆者は、エヴァのストーリーを理解すべく「歓喜の歌」の歌詞も読んだが、なかなかに意味深長な言葉が混じっていて面白い。
たとえば、「我々は火のように酔いしれて/崇高なる者よ、汝の聖所に入る」は、まさにセントラルドグマの最深部にあるヘブンズ・ドアが開かれている様子そのままだし、「汝が魔力は再び結び合わせる/時流が強く切り離したものを/すべての人々は兄弟となる」。これも人類補完計画のことではないかと思ってしまう。もちろん、これはゼーレや碇ゲンドウの歪んだ思想を象徴するような強引な解釈であるので、誤解しないでほしい。「歓喜の歌」はあくまでも人類が心をひとつにして平和への祈りを捧げるものだ。(「歓喜の歌」の日本語訳はWikipediaから引用しました。全文を読むこともできるので、気になる人はぜひお読みください)
ちなみに、「新劇場版:Q」でも、第二十四話に相当する場面で、「第9」の「第4楽章」は流れている。だが、クライマックスの合唱が始まる直前で別の曲に切り替わってしまう。残念ながら公開延期となってしまった「シン・ヱヴァンゲリオン劇場版」では、「第9」の合唱はどのように使われるだろうか。非常に興味深いところだ。
こう書くとエヴァが大好きな人は「第9」をじっくり聴いてみたくなるでしょう? ベートーベンの「第9」は楽曲としても非常に素晴らしいので、聴けば聴くほど好きになるはず。そうすると、「合唱」だけでなく、「運命」や「英雄」といったベートーベンの他の交響曲も聴きたくなるかもしれない。
紹介したネルソンス/ウィーン・フィルの演奏は「交響曲全集」としてすべての交響曲を収録したアルバムもある。もちろん、交響曲以外の曲、たとえばピアノソナタ「月光」なども素晴らしい。こんな感じで、いろいろな作品に手を広げ、別の作曲家(モーツァルトやチャイコフスキーなど有名な人が入りやすいのは同じ)の作品を聴いたり、同じ曲を別の指揮者やオーケストラが演奏する録音を聴いたりするのも楽しい。こうやって、作曲家つながりとか、演奏家つながりで聴く曲を広げていけば、すぐにクラシックになじめるはずだ。
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