株式会社UPSIDER リードエンジニア 清水 顕氏
請求書アップで振込まで完了!銀行体験を変えるBtoB Fintechサービスが2ヵ月でローンチされた裏側
プロダクトにおける「本源的価値」を追求する
とは言っても、作りたい機能をすべて作っていては1ヵ月どころか1年経ってもローンチできません。
今回のように極端な時間制限のあるプロジェクトでは、「絶対に必要なもの以外はすべて削ぎ落とす」くらいの覚悟が必要です。限られた時間の中で「なにを捨て、なにを守るのか」をある種究極の選択的に意思決定していかなければなりません。
今回プロダクトを創る中で指針としたのは「本源的価値を提供できているか」です。
この言葉自体はUZABASEに在籍していた当時CEOだった新野良介さん(現在は療養のため退任されています)からの受け売りです。改めて調べてみると「本源的価値」という言葉はファイナンス用語らしく、本来の意味とは少し違うのかもしれませんが、僕自身は「ユーザーが『真に』求めているもの、そしてそれがあることによってユーザーに新たな価値を創出することのできるもの」こそが「本源的価値」であると解釈しています。
では、本プロダクトにおける本源的価値とは、なんなのか。
「請求書をアップロードするだけで自動で振込が完了する」
これです。とにかくこの1点をユーザーが快適に、かつ安心して利用できる。ここにひたすら注力することにしたのです。
本当はもうひとつ、「請求書の支払いに使えるリワードがもらえる」というのも大きな本源的価値なのですが、この機能はリリース時点で実装されていませんでした。なぜなら、リワードが付与されるのは実際に預け入れを行った翌月の15日という仕様ですので、逆に言えば「リリースをする翌月の15日までに実装できていれば問題がない(ことにできる)」からです(もちろん、初期ユーザーが限られていることもあり最悪手動で対応できることは確認した上でこの判断をしました)。
同様の理由で、振込件数に応じた毎月のご利用料の引き落とし機能もリリースターゲットからは外しました。
運用で使う管理画面に関しても本当に最小限の機能だけ用意し、それ以外は手動でAPIを呼び出すことでカバーするなど、とにかく「これがなければユーザーに価値を届けられない」というもの以外はどんどん削っていきました。
大変にお恥ずかしい話ではありますが、これがスタートアップのリアルです(余談ですが『逆説のスタートアップ思考』にある「最初のリリースが恥ずかしいものでなければローンチが遅すぎる」という言葉が唯一の心の支えでした)。
ただし、どうしても削ることができなかったものもあります。
それは「お金の増減に関わるコアな部分の処理・データ構造をきちんと抽象化し、変更・追加が容易なようにしておくこと」と「その部分の品質は確実に担保すること」です。
前者(特にデータ構造)は不可逆性が高く、ここを外してしまうとリワード付与や利用料の引き落としといった「開発を先延ばしにした機能」を追加しようと思った時に、開発コストがかかりすぎて期日に間に合わせることができなくなってしまう恐れがあったため。
そして後者はここでバグが出ると会社そのものの信頼に関わり、仮にリリースできたとしても事業の継続に対して大きな障害となるためです。そのため、仮にリリースを延ばすことになるとしてもきちんと設計・テストに時間をかけることが必要だと判断しました。
また、正直デザイン的な部分は「まあ多少ダサくても仕方ないか……」と半ば諦めていたのですが、前述したスーパーフロントエンドエンジニアが途中からこちらのプロジェクトに入ってくれたのが最高の助け舟になりました。僕が作ったイケてない画面を、UI/UXを考えた上で信頼感のあるカッコいい画面に仕上げてくれたのです。
自分のできない部分を補ってくれる仲間に恵まれることがどれほどありがたいかを痛感した瞬間でした。僕のチームの理想像は『ONE PIECE』の麦わらの一味で、1人ですべてはできなくても、それぞれが得意分野で最高のパフォーマンスを出して最高の結果を出す、そんな少数精鋭チームを作りたいと常々思っているのですが、彼はそのピースを1つ埋めてくれました。
そうして開発を進め、最終的にCOOに頼まれた1ヵ月という期間はオーバーしたものの、2ヵ月をかけてなんとかリリースにこぎつけることができました。
最初は「本当に使ってもらえるのか」「預入れ、ほとんどしてもらえないんじゃないか」と不安な気持ちも強かったですが、リリース後いきなり複数社様から1社あたり1000万円を超えるような預入れをいただき、また利用されているユーザー様がどんどん支払いをUPSIDERに寄せてくれている様を目の当たりにする中で、自分たちの創り上げたプロダクトが「本源的価値」を提供できていることを実感し感動しました。
リリース以来、いまだに金額に関する大きな本番バグは発生していないため、ある程度品質の担保には成功したのではないかと、最近になってようやくホッと胸をなでおろしているところです。
*社内から創業エンジニアへのひとこと
完成したのはユーザーに熱狂度高く支持されるプロダクト
こんにちは! 悪魔の一言をささやいたCo-Founder/COOの水野です。まず、超特急で安定したサービスを作っていただいた清水をはじめチームの皆さんに感謝を伝えたいです。本当にありがとうございます!
3つの数値
プロダクトの成長を3つの数値でお伝えします。ご覧いただければ、清水たちが2ヵ月でどれほどのプロダクトを作ったか、一目瞭然だと思います。
1.導入までのアポ回数
平均1.2回(しかも1回30分)です。BtoBプロダクトとしてモンスター級です。
2.解約率
0%です。解約したお客様どころか、お預かりしたお金を引き上げたお客様も0です。コロナが直撃した時期なので、大変光栄な結果です。
3.成長率
数ヵ月連続で、GMVが月次80%以上のペースで増加しています。
結びの言葉
清水はエンジニアとしての卓越した開発力だけでなく、常にユーザー目線であろうとし、「この文言伝わりにくいよね?」「考えてみたんだけど、どうしても納得がいかないから仕様を変えよう」などとよく言ってきます。締め切りがタイトだろうと関係なくです。清水自身は法人の振込作業をしたことがないのに、高い熱量を持ってベストなサービスを常に考えています。
清水がいたからこそ、2ヵ月でこれだけユーザーに熱狂度高く支持されるプロダクトを作りあげられたと確信しています。
(UPSIDER Co-Founder/COO 水野智規)
エンジニアにとって創業期の会社に関わることはノーリスク・ハイリターン
「創業したばかりの会社に入社するなんて、すごい勇気だね」
割とよくこんな感じのことを言われます。ただ、僕はこう思います。少なくともエンジニアにとって、創業期の会社にJOINすることはノーリスク・ハイリターンであると。(これはポジショントークですが、偽らざる本音でもあります)
仮に最悪の想定として、全力を尽くした結果会社が事業をたたむことになったとします。当然失業です。
しかし「0から1を作った経験のあるエンジニア」はこの世界では大変に希少で、どこの企業でも引く手あまたです。創業当初のスタートアップというなにもかもが不足した状態でもがきながら作り上げた経験となれば、なおさらです。つまり、結果がどう転ぼうと、創業期に関わることはエンジニアにとってこれ以上ない財産になるのです。
だからこそ、僕は家族がいる状態でも迷いなくUPSIDERに転職できましたし、このタイミングで声をかけてくれた水野には感謝してもしきれない思いです。
そして、そんな打算的な考えを抜きにしても、毎日目まぐるしく状況が変わるスタートアップというのは本当にエキサイティングな環境です。「リスクは取りたくないけどチャレンジングな環境で開発がしたい」そんな一見矛盾した考えをお持ちの方、それが叶うのが創業エンジニアという仕事です。この記事を読んでそんな環境に興味を持ったという方、ぜひ一度飛び込んでみてください!
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