ディズニーは「多様性」を追求できるのか
しかし、動画サービスの開始そのものが少し出遅れたことが象徴するように、この分野ではディズニーはNetflixを後を追う存在に過ぎません。Huluの有料会員は約2700万人、ESPN+とあわせても約3000万人だそうです。Huluは2011年に日本に上陸して国外での展開を目指しましたが、結果的には日本テレビに売却せざるを得ませんでした。圧倒的なブランド力はあるものの、海外市場はほぼゼロからのスタートと言えます。
少し伸び悩んでいるものの、Netflixはすでにアメリカ国内外あわせて1億5100万人以上の有料会員を抱えています(2019年第2四半期の決算報告より)。ディズニーは彼らに追いつけるのでしょうか。
以前、私は『Netflixが素晴らしい3つの理由』と題した記事のなかで、Netflixはインターネット登場以降の映像メディアの変容を、映画とテレビの誕生に次ぐ「第三の革命」と捉え、「等身大の若者」を含む「多様性」のある登場人物やコンテンツを世界中に届けている、画期的なプラットフォームだと解説しました。
これら3つのキーワードのなかでも、多様性はきわめて重要です。アメリカの調査によると、ミレニアル世代は「環境」を重視していましたが、ジェネレーションZは「人間の平等」を大切に考えていると言います。具体的には、性的指向の平等は48%、男女平等は64%、人種平等は72%、それぞれ高い確率で決して譲れないと回答しています。
なかでも、「性的指向や人種差別、人権についての立場を明らかにするブランドをサポートする」と60%もの若者が回答しています。この主張は特筆すべきでしょう(「Getting to Know Gen Z: How the Pivotal Generation is Different From Millennials」より)。
このような流れを受けてか、近年のディズニーはNetflixと同じく、多様性重視の戦略に積極的に乗り出しています。日本でも興行収入124億円の大ヒットを記録した実写版の『美女と野獣』を例に取りましょう。この作品ではビル・コンドン監督とエマ・ワトソンを起用し、保守的だと非難されることもあったアニメーション版に現代的な息吹を吹き込みました。
ゲイを公表しているビル・コンドン監督はアニメ版よりも主人公ベルと野獣の恋愛を丁寧に描き、ディズニー初のLGBTQキャラクターとされるル・フウを登場させました。アニメーション版と実写版の細部を見比べると、洋服ダンスのキャラクターに悪役の男性が女性の格好をさせられる場面がほんの少し異なることに気づくはずです。アニメーション版では男性は全員嫌がって逃げますが、実写版では1人の男性がその格好を受け入れて堂々と歩く場面に変わっているのです。
エマ・ワトソンは若い世代には『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー役でおなじみで、フェミニストとしても知られる人物です。彼らを起用したのは見事な戦略だと言えるでしょう。
(次ページでは「2024年までにアメリカではディズニーがNetflixを越える」)
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