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いつまで20年、30年前のゲーム音楽ばっかり演奏してるの?

ゲーム音楽吹奏楽コンサート「あそぶらす 第1話」 豪華作曲家陣インタビュー&演奏レポート

2017年01月08日 11時00分更新

――今回、坂本さんの楽曲はもう1曲、『討鬼伝2』の楽曲が演奏されます。こちらについてもご紹介いただけますか?

坂本:2曲からなるメドレーになっていて、最初の「西風」はゲームを起動したら誰もが聞く曲です。『討鬼伝』好きな人なら絶対に知っているメロディも入っています。
 「マホロバ -栄-」は、本拠地の曲。ミッションをした後、必ずここに必ず戻ってきて、この曲を聴きます。プレイヤーが一番聞く曲ですね。

――なぜこの2曲を選ばれたのですか?

坂本:自分が気に入っている曲だから、という理由ももちろんありますし、先ほど言った通りでプレイヤーがよく聞く曲だから、という理由もありますが、今回、僕はあえてテンポが早くなく、音数も多くない曲を選びました。『討鬼伝2』だけでなく、「The Final Time Traveler」もそうですね。
 というのも、いとうくんとか、岩垂さんとか、みんな派手なアレンジで来るんだろうなと思ったんです。で、派手なアレンジはほかのみなさんにお任せするとして、僕は「吹奏楽は繊細な演奏もできるんだよ」っていうのをアピールする役に回ろうと思ったんです。

――たしかに今日拝見したリハーサルでは、『サウザンドメモリーズ』メドレーも、『逆転裁判6』の「法廷組曲」も、吹奏楽曲と言われてまず真っ先に思い浮かべる「ザ・吹奏楽!」的なかっこよさが全面に出ている印象でした。

坂本:僕は吹奏楽のイメージをちょっと変えたいなって思っていて。
 おっしゃられたように、みんなが思っているステレオタイプの「吹奏楽」のイメージがありますよね。で、そういう力強い演奏ももちろんできるんだけど、もっとクラシカルで、優しい曲調も吹奏楽のレパートリーにあるんだよっていうのを聞いて欲しいなと思っています。

――『サウザンドメモリーズ』メドレーのお話が出たのでいとうさんにもお伺いしますが、いとうさんは吹奏楽のアレンジをされるのは初めてですか?

いとう:初めてです。

坂本:意外な感じですよね。

いとう:「吹奏楽っぽい」編成で、打ち込みでゲーム用に曲を作ったことはありました。
 でも、こういうふうにちゃんと演奏していただく機会をいただいて、吹奏楽編曲をし、楽譜をつくり……っていうのは初めてです。

――吹奏楽アレンジならではのご苦労はありましたか?

いとう:木管楽器やホルン、トランペットなんかの、移調楽器の多さですかね……。今回指揮も担当するのですが、実音階ではないパートの楽譜は全然読めなくて……。だから実は、こっそり自分用の楽譜だけは全パート実音階で書き出しました。

リハーサルで指揮を振るいとう氏

坂本:僕もそう。でも今回、それをし忘れちゃって。

いとう:それマズくないですか?

坂本:だから今日木管の人たちから質問されたところは、間違いのないように「きちんと調べてから明日お答えします」と答えました(笑)。
 あと吹奏楽に限らないですけど、打楽器パートさんは人数が限られているんですよね。今回、マックスで5人奏者がいらっしゃいますけど、6つの打楽器の音が同時に乗ると、当然、叩けない。今回、僕の編曲で1か所だけ音が6つかぶっちゃったところがあって。見つけたとき「あーっ!」って(笑)

いとう:「ひとりでふたつ音出して!」みたいなことに……。

坂本:あと、打楽器の距離があんまりに離れていると、2拍の間にダッシュして次の楽器まで移動しなきゃいけないとかいう事が起こってくる。そういった物理的な制限があるのも、生演奏用のアレンジならではの難しさでしょうか。

――どのぐらいの期間で編曲されたんですか?

いとう:編曲はですね、音域がおかしくないかとか、楽器の組み合わせがおかしくないかっていうのを、社内チェックで色々見ていただいて。このやりとりを挟んだので結構時間かかりましたね。実働だと1週間ぐらい。

坂本:1週間って、結構かかったね。

いとう:僕の場合はコンピューターで曲を作るのに慣れてしまっていて。音量のバランスも、鋭い音やまろやかな音といった音色の変化も、コンピューターでどうにでもなる世界ですよね。音の厚みがほしい場合はシンセサイザー足せばいいし。
 その、コンピューターでどうとでもなる世界の仕事に比べたら、ちゃんと演奏していただくための編曲になるように綿密に確認しながらの作業はどうしても時間が必要でしたね。坂本さんはどのぐらいかかりました?

坂本:3時間ぐらい。

いとう:あっ……。これ、あれじゃないですか。社長が「俺は3時間でやった」って言ったことを「僕は1週間かかりました」って言ったら、なんか、今後の仕事に響きません?

(一同爆笑)

坂本:僕、決断が早いんだと思います。「この音、こっちにしようかな、あっちにしようかな」とか、あんまり迷わない。こうだと思ったら、それで決めちゃいます。もう、どんどん。
 とはいえ、後から考えて、直したいって思うこともありますけどね。事実、「The Final Time Travelers」は2015年に演奏していただいた演奏を聞いて、あーここ直したい、って思ったし。でも、『サウザンドメモリーズ』の曲みたいなのをもし書くとしたら、あれは3時間じゃさすがに無理だと思う。メドレーで、しかもあんな変拍子の曲ばっかり!

(一同笑)

新しいゲームの曲を、旬の曲を演奏する、というのが当たり前にならなきゃいけない

――ノイジークロークさんが企画に携わっておられる演奏会では、常に新たな試みがされているように感じます。どういった思いで、斬新な、他とは違うようなアプローチを選んでいらっしゃるのか、考えていらっしゃることがおありでしたらお聞かせください。

坂本:あの、ダイレクトな言い方になりますけど、いまのゲーム音楽コンサートって「いつまで20年、30年前のゲーム音楽ばっかり演奏してるの?」って思っています。だって、僕らは今も新曲をどんどん書いているんですから。
 もちろん、聞く側に「あのゲームの曲をやるなら演奏会に行くけれど、やらないなら行かない」というような意識があって、有名タイトルの有名曲が求められているという実状もあるだろうとは感じています。でもこの状態を、率先して変えていきたいです。変えていかないと、演奏会はいつまでも過去の有名タイトル頼りになってしまう。
 そういう意味では、今回の演奏曲目は結構チャレンジングだと思うんですよ。「ゲームタクト」(※)にも通じるんですけど、「ハイドンやバッハのような作品」、つまりゲーム音楽ファンなら誰もが知っている過去の有名曲っていうのは、ひとつもないですよね。イベントの主催者視点だと、それで本当にお客さんが来てくれるのかとか、色々考える部分もあります。でも、作曲家たちが主導して、ちゃんと利益も上がって、新曲だってどんどん演奏されるような仕組みを、みんなで一緒に考えて作っていきたい、作っていかないといけない、と考えています。

※坂本氏が代表を務めるゲーム音楽制作会社・ノイジークロークが主催するゲーム音楽フェス。2014年に沖縄で開催され、ゲーム音楽作曲家が多数参加する『濃い』イベントとして好評を博す。
2017年5月6日に第2回開催が決定。詳細はこちら

――確かに、「あそぶらす」の演奏曲は、ここ5年以内に発売・発表されたタイトルばかりです。

坂本:スマートフォンのゲームの曲も、今回あえて多めに選曲しています。新しいゲームの曲を、積極的に取り入れていくという点は、「あそぶらす」が他の演奏会とは違う、特徴として掲げていきたいです。
 新しい、旬の曲を演奏する、というのが当たり前にならなきゃいけないけれど、そうなるには少し時間がかかるかな、とも思います。とはいえ作曲者側の熱はすごく高いですし、続けていくことで絶対ファンも付いてきてくれると思っています。

――今回の演奏会では、かなりたくさんの学生の方々がご来場の予定だと伺いました。

坂本:「あそぶらす」は、今、吹奏楽を一生懸命練習している学生の方々に特にスポットを当てています。ここに来れば、吹奏楽をやっている中学生・高校生がレパートリーを増やせるといったような演奏会になるように、と。そこを意識しました。

――吹奏楽版の譜面の販売のご予定などはおありですか?

坂本:今のところ具体的な予定はないですけど、できるようにしていきたいなと考えています。
 演奏を聞きに来るだけじゃなくって、なんというか、「演奏課題曲紹介・ゲーム編」みたいな……演奏会に来た人が、あの曲やりたいな、学校で提案してみようかな、って思ってもらえるイベントにできたらと。そこから広がっていって、演奏者じゃない人にも、吹奏楽も面白いな、って思ってもらえる演奏会になればいいな、と思っています。

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