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大和研究所のキーパーソンが語る、2016年のThinkPad

ついに有機EL版ThinkPad X1 Yoga登場、価格は30万円台半ば

2016年06月30日 21時32分更新

ThinkPad X1 Yogaはギリギリまで追い込んで実現した製品だった

 さらに、今回の「大和TechTalk」では、ThinkPad X1 CarbonやThinkPad X1 Yogaの取り組みについて、「キーボード開発」、「筐体」、「熱設計」、「ソフトウェア」、「有機ELディスプレイ」の5つの観点から説明した。

レノボ・ジャパン 大和研究所先進システム開発の瓦井秀行氏

 レノボ・ジャパン 大和研究所先進システム開発の瓦井秀行氏は、「2008年以降、格好がいいモバイルデバイスへの要望が高まってきた。持ち運びがしやすく、性能が高く、長時間のバッテリー駆動が行えるといった相反する要素が求められ、それに向けて開発されたのがThinkPad X1。だが、2011年に発売したThinkPad X1では、見た目は頑張ったが、厚さ、重さでは、ユーザーに満足してもらえなかった。そこで、2012年の製品ではカーボンフファイバーを採用した。それ以降も、軽量化、薄型化、高機能、堅牢性にこだわり、2016年の製品では、前年のモデルに比べて、重さは10%削減し、薄さは8%削減できた」などと語った。

新しいX1シリーズ

雨どいを通すため、マザーボードに穴を空ける

 キーボード開発においては、ThinkPad X1 YogaでLift'n Lockキーボードを採用したことに触れた。これは、タブレットに移行した際に、裏面に来るキートップのひっかかりを防止することができる機能だ。「重量面ではマイナスとなるが、この機能は必要であると考え、ヒンジやキーボードとリンクする部品など、すべてを見直し、ThinkPad X1 Yogaのための新たなものを開発した。

キーボードは従来同様Lift'n Lockタイプだが、まったく新しく設計している。

Lift'n Lockの金具より少し手前のところに、水を逃がす穴を設けているという。

 薄型化においては、トラックポイントの高さを0.1mm単位で試作し、ひとつのサンプルの評価にそれぞれ2週間の評価を行った結果、操作性を損なわずにベストな高さを決定することができた。さらに、キーボードに水がかかっても壊れないようにするスピル(防滴)対策では、基板の左右5か所ずつに穴を空け、そこから雨樋構造の溝を通って、底面から排水できるようにした。基板の部品レイアウトを見直し、1リットルの水を排水できるようにしている」という。

 また、筐体では、米国市場において、2.5ポンド(1134kg)以下のPCが求められており、さらなる軽量化、薄型化のために、キーボードフレームとベースカバーに、レアアースを数%融合したスーパーマグネシウム合金を新たに使用したことを紹介。0.3mmの薄型化と、20%以上(約60g)の軽量化を実現したという。

マグネシウムにレアアースを加えて強度を改善。わずか0.5mmと薄い肉厚を実現した。ただしキャストする際にうまく通らず、均一な厚みにならないなど課題もあり、その解消に積極的にとりくんだ。

ボトムケース部分。ハリを巡らせた非常に複雑な形状になっている。

 「複雑な形状であり、さらに一定の大きさがあるため、全体がゆがみやすいという傾向があった。そのため、サプライヤーからは供給ができないという声も出た。ゆがみは工夫によって抑え込むことができ、製品化につなげることができた」と語った。

 なお、LAVIE ZEROで使用しているマグネシウムリチウム合金は、世界に供給するというThinkPadの生産量では、数量を調達できないため諦めたという。

フィンの細部まで気を配った排熱設計

 熱設計では、空冷ファンが薄型軽量化のボトルネックとなっていたことから、他のThinkPadでも利用している第9世代のふくろうファンを採用するとともに、独自開発の放熱塗料を採用。

熱設計では風通しが悪い薄型筐体に合わせてふくろうファンを改善。ヒートシンク部分のフィンの感覚や長さを細かく調整し、最適化した。

ふくろうファンも第9世代となっている。

排熱口はヒンジのある背面部分にある。

 これにThinkPad X1 CarbonおよびX1 Yoga独自の取り組みとして、フィンの間隔を変更し、抵抗を最適化した階段フィンを採用。「Lift'n Lockキーボードの構造を採用したため側面に排気口が取れず、さらに背面方向も薄さを追求したため、大型の排気口が設置できなかった。階段フィンの採用によって、その課題を解決できた」という。また、ユーザーの利用環境によって、それを検知した最適な熱制御を実現するインテリジェントクーリングを採用。ひざ上で作業しているときにはクール・静音モードで動作するようにした。

 ソフトウェアでは、先に触れたインテリジェントセンシング機能について説明。ThinkPadが「空気を読むことができる」と表現した。

空気を読む、ThinkPadのインテリジェントセンシング

 「インテリジェントセンシングエンジンの開発に当たっては、センサーデータとテストユーザーの行動を同時に録画できる評価システムを構築。これを活用することで、国内外の数100件のデータを元にして、高い検出精度を実現することができた。センシングの要、不要時を見分けて、最大90%以上の電力削減を実現し、センシング機能が、バッテリー動作時間に影響しないようにも工夫している」という。

そしてThinkPad初の有機ELディスプレーが登場する

 一方、有機ELディスプレイでは、ThinkPad X1 Yogaのラインアップのひとつにこれを採用。2540×1440ドットの解像度を実現するとともに、タッチおよびペンが利用できるようにしていることを説明。自発光により低階調域から高い色再現性を実現するとともに、100万対1の高コストラスト比や1ミリ秒以下の応答速度、高視野角などのメリットを示した。そして、有機ELディスプレイの問題としてあげられている、焼き付きや消費電力の問題点についても解決していることを示した。

焼き付き対策の解説。なお、有機ELは暗部が多ければ低消費電力だが、全発光すると液晶よりも消費電力が大きい。したがってシーンによってバッテリー駆動時間には差が出る。ただし彩度が高いため、輝度を落としても体感的には明るく感じられるという利点もある。

省電力対策にも工夫。またAdobe RGB 100%の色空間を持つが、環境に応じて最適なものを選べるよう標準のプロファイルに加えて、ミニゲームでの色調整も可能となっている。

 「自発光の有機ELでは、焼き付きが不可避だが、ピクセルごとの表示履歴を記憶および補正することで、焼き付き視認を大幅に低減。長時間のオフィスユースにも対応できるようにした。また、必要なピクセルのみ光り、電力を消費するために、色の濃い画面では有利となる。JEITA2.0による測定では最大13時間以上のバッテリー駆動を実現している」と述べた。

 さらに、同梱するソフトウェアのLenovo Settingでは、Adobe RGBやsRGB、ブルーライト低減など、用途にあわせて最適な色空間を提供したり、タスクバーやバックグラウンドアプリ、デスクトップの輝度低減など、有機ELにあわせた省電力対策を行ったりできるという。

 有機ELディスプレイを搭載したThinkPad X1 Yogaの価格は32万3000円からとしたが、発売時期については、今年夏と回答するに留めた。 

内部は大半をバッテリーが占める。

SSDやメモリーなどのシールドもノウハウだ。SIMカードスロットとmicorSDカードスロットも持つ。

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