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第2回 CSA Meetup

学生起業家がけん引 アマチュアスポーツビジネス

2018年11月12日 06時00分更新

 高校野球やインターハイは言うにおよばず、高校生のスポーツへの世間の注目度は高いものがある。プロスポーツは、さらに多くのファンから注目を集めている。その狭間で、ファン獲得に苦心しているのが、大学生のスポーツ選手とその関係者たちだ。この状況を打破しようと、現役プレイヤーである大学生を中心に、広報担当者や大学スポーツ向けサービス事業者が集まった。それが、2018年6月から8月までに3回のイベントを開催している「CSA Meetup」だ。今回は第1回の様子から、参加者たちの大学スポーツにかける意気込みをお伝えしたい。

アマチュアスポーツ市場の拡大はグローバルトレンド

 日本では古くからプロ野球が親しまれ、ここ数十年のうちにサッカーのJリーグやバレーボールのVリーグなど、プロスポーツ市場は拡大、成熟してきた。その一方でアマチュアスポーツ市場はというと、マスメディアで大々的に取り上げられるのは全国高等学校野球選手権大会、いわゆる夏の甲子園程度。そのほかには、冬の花園と言われる全国高等学校ラグビーフットボール大会や、インターハイくらいだろうか。プロスポーツの世界に比べて、その情報量は少なく、盛り上がりも瞬間的なものだ。このように日本では市場が立ち遅れているが、グローバルではアマチュアスポーツ市場がいま拡大を続けていると、株式会社ookami 代表取締役の尾形太陽氏は言う。

 「教育の側面からだけではなく、産業としてもアマチュアスポーツの世界を広げていこうと文部科学省スポーツ庁も提唱しています。スポーツ庁だけががんばっても広がってはいきませんから、ここは産官学それぞれの力を活かしていく必要があります」(尾形氏)

株式会社ookami 代表取締役 尾形太陽氏

 ookamiでは「Player!」というスポーツエンターテインメントサービスを提供している。スマホ向けアプリを中心に、SNSやウェブメディアなどと連携してスポーツコミュニティーの活性化を支援する。産官学のうち、産の面から大学スポーツを応援しようと、CSA Meetupの立ち上げに協力した。CSAとはCollege Sports Ambassadorの略称で、直訳するなら「大学スポーツ大使」といったところ。ookamiが提供するスポーツエンターテインメントサービス「Player!」では、各競技にひとりアンバサダーを募って情報発信していくことを目指している。

 「CSAで実現したいのは、大学生がつくる、大学スポーツコミュニティーです。Player!は世界一のスポーツカンパニーを目指しています。どうすれば大学スポーツを盛り上げることができるか、考えるだけではなく行動に結びつけるきっかけを作りたいと思い、CSA Meetupを開催しました」(尾形氏)

新しいことを始めるときは、まず行動を起こしてみよう

 参加者同士のアイスブレイクを挟み、Meetup後半は大学スポーツをどう盛り上げていくか、そのためにそれぞれができることは何かを語り合うパネルディスカッションとなった。登壇したのはookamiの尾形氏に、株式会社シェアトレ 代表取締役の木村友輔氏と株式会社スポカレ 取締役の俣野泰佑氏を加えた3名だ。まずはそれぞれが起業したときの振り返りから、会話はスタートした。

尾形氏(以下、敬称略):スポーツをやっていたことをきっかけに起業した人に集まってもらったのですが、スポーツをやっていたことと起業したことに関連はありました? 体育会系ならではの強みとか。

木村氏(以下、敬称略):シェアトレを起業したときに、体育会系ならではのコネはフル活用しましたね。起業したあとは、現役大学生サッカー部で起業ということ自体が珍しかったので、あちこちで取り上げてもらえました。そう考えると、大学スポーツ部からの起業というのはブルーオーシャンだなと思います。練習で時間に追われているとは思いますが、スポーツ部×起業など、何かを掛け合わせるだけで希少価値を生み出せるんです。

株式会社シェアトレ 代表取締役 木村友輔氏

俣野氏(以下、敬称略):私は逆に、オフシーズンに部活を辞めようかと考えていた時期があり、その頃に起業スクールに行ってみたりしました。でも19歳で起業スクールに来るような人って動機も薄くて、なんていうかチャラい人が多かったんです(笑)。これなら4年間部活をちゃんとやった方が自分なりのストーリーを得られるなと思って、部活に戻りました。

 4年間何かをやり通すって意味で、部活はすごく濃い時間を過ごせる場所だと思います。なので、まず没頭してみてください。選手じゃなくても、監督の助手やマネージャーでもいい、得られるものはあるはずです。

尾形:おふたりのアプローチは方向性が違ったみたいですが、いずれにしろ体育会の強みを活かしたアクションはあるということですね。

俣野:そうですね。私は東大生だから全然関係ないんだけど、早慶戦にからみに行ったんですよ。ユニサカ(一般社団法人ユニサカ:大学サッカーの人気向上に伴う競技力向上をビジョンに活動する団体)で早慶戦を盛り上げるためにクラウドファンディングをしたりしてがんばれたのも、部活の体験があったからだと思います。

株式会社スポカレ 取締役 俣野泰佑氏

尾形:逆に体育会における課題って何だと思いますか?

木村:新しいことをやるハードルはあるかもしれません。起業したいって監督に言ったら、ダメだと言われるでしょうね。だから、これまでにないことをやるときには、学生が先に既成事実を作ってしまえばいいと思っています。私自身、起業してから監督に報告しました。「すみません、起業しちゃいました」って。

俣野:「すみません起業しちゃいました」って、寝坊しちゃいましたみたいな雰囲気で言われるのはパワーワードですね(笑)。

木村:監督が新しいことを引っ張ってくれるといいんですけどね。実際、筑波大学蹴球部の監督はすごく選手の主体性を優先して新しいことをどんどん取り入れて成功しています。起業してもいい、グローバル化のために英語の勉強をしてもいい。地元も巻き込んでスポンサーもついて、しかもインターカレッジで優勝しました。やりたいことをできるから、優秀な選手が残りやすくなったのだと思います。

尾形:選手としても、考えているだけではなくまずは行動しようってことですね。報告は後でもいいと(笑)。

枠を超えて友達をつくろう、そこからファンの話を広げよう

尾形:大学スポーツを盛り上げていくためには、何が必要だと思いますか?

俣野:友達を増やすことが必要だと思います。最近はすぐにSNSで拡散なんて話をするけれど、知らない人に情報発信するより先に、まずは自分の友達を試合観戦に連れて行きましょうよ。人を惹きつける力がなければ、SNSで拡散しても響きません。

木村:体育会の枠の外に出ることも重要ですね。大学に行ってもまだスポーツをやっている人って、マイノリティーなんです。スポーツ人と非スポーツ人っていう違う人種と言っていいくらい、考え方も感覚も違います。それを知るためにほかの学部や部活の人と交流してみてください。自分の枠ではない視点で考える力は、卒業しても役に立ちます。

 4年間、ほかの体育会生と同じ行動をしていたら、自分自身の希少価値は生まれません。スポーツ界の人がスポーツ界を変えようとしても、簡単には変わりません。だから私は、視野や交流の幅を広げることに力を入れました。

俣野:ほかの学部に友達を作るのも重要だけど、まずはクラスに友達を作ろう!

尾形:それは俣野さんの話。普通は、自分のクラスに友達いますから(笑)。

木村:高校スポーツのファンが多いのは、友達が出ていると応援に行くからなんですよ。大学ではスポーツ科の人が出ているからといって、応援に行く人は多くありません。大学スポーツを盛り上げるには、応援に来てくれる友達をほかの学部に作らないと。

尾形:大学スポーツって、選手だけじゃなくてOBやOG、保護者もいて、選手の数倍のファンが潜在的にいるはずなんです。ストーリーを持たせれば十分魅力になるはず。

木村:アマチュアスポーツ産業が盛り上がらない原因のひとつに、部活があると思いますね。アマチュアスポーツと教育が結びつきすぎていて、お金を払って観るエンターテインメントだという意識が生まれないんです。欧米ではアマチュアスポーツもエンターテインメントとして楽しまれているけれど、日本では教育、忍耐を学ぶ場。

尾形:指導者もファンも態度を変えていかないといけない部分ですね。

俣野:スポーツでお金を稼いでそれがエンターテインメントとして好循環を生めば、競技力も高まるしファンも増えるでしょうね。選手側の課題としては、身近な友達をファンにできるかどうか。観る人を巻き込む力を当事者が持っていなければ、ファンは増えませんから。

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