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メルカリ、鹿島アントラーズと目指す世界

2018年06月14日 15時30分更新

あの“常勝軍団”とパートナーシップ契約を締結

 スマホ向けのフリマアプリ市場でトップを走る「メルカリ」が、スポーツ活動を支援していることはご存知だろうか。世界の頂点を目指すアスリートやクラブチームを対象とした取り組みで、車椅子バスケットボールやデフ(聴覚障害)陸上などの選手を社員として迎え入れたり、明治安田生命J1リーグに所属する鹿島アントラーズのスポンサーをしたり、支援のかたちを実現している。

 同社はフリマアプリで”世界市場を獲る”ということを目指して企業活動を進めているが、そのなかでフィールドは異なれど、スポーツの分野で同じ世界の頂点を目指す人々をサポートしていくと明言している。では、なぜメルカリは“スポーツ”という新たな領域に足を踏み入れたのだろうか。彼らがそこから得られる“リターン”とは。

スポーツ支援に至った2つの軸とは?

 メルカリがスポーツ支援に至った背景には、2つの軸がある。

 1つはビジネス面。一般的にメルカリは女性向けのサービスという印象が強いと思われるが、社内でも男性ユーザーを獲得していきたい思いがあった。ただ、認知度を向上させるためテレビCMやオンラインで広告を打つのは効果的である一方、“男性“という明確なターゲットに刺そうとするには少し弱い。そこで、メルカリが開拓したい30〜40代の男性にとって、非常に身近なコンテンツであるスポーツの領域でアプローチすることで、新規ユーザーを獲得する施策に辿り着いた。

 もう1点は、CSR的な側面がある。企業が大きくなり従業員数が増えていくなか、障がい者雇用というのは必然的に向き合うべきときがくる。そのなかで、前述したようなビジネス的な側面と絡めて”障がい者アスリート”を雇用する流れになった。

 スポーツ支援の第1弾として、2017年の1月に車椅子バスケットボールの土子大輔・篠田匡世両選手を社員として雇用。2020年の東京五輪に向けて、障がい者スポーツはさまざまな企業が支援を始めているが、IT企業の数はまだまだ少ない。取締役社長兼COOの小泉文明氏は、社会におけるIT企業の認知度と、その存在意義が高まった今こそ、こういう活動に積極的になるべきだと口にしていた。

メルカリ代表取締役兼COOの小泉文明氏

 2017年の4月よりメルカリは明治安田生命J1リーグに所属する鹿島アントラーズのクラブオフィシャルスポンサーとなった。1月に障がい者アスリートを雇用してスポーツ界へ足を踏み入れたばかりだったが、早くも次なる舞台へと取り組みを進めた。

 鹿島アントラーズは2016年のFIFAクラブW杯で決勝に進出し、世界の頂点まであと1歩のところに迫った。「世界を目指す」という共通項が契約締結に繋がった1つの要因だったが、メルカリがこのパートナーシップ契約において重視している点は、単なる企業名の露出だけではない。

 メルカリと鹿島アントラーズがパートナーシップ契約を結んだ経緯には、両社が抱えているメインの顧客層が異なっているという点もある。メルカリのユーザーは20代〜30代の女性が中心だが、アントラーズは30代〜40代の男性やファミリー層が多い。そのため互いに補完しあい、マーケット・新規顧客の開拓に繋がるというメリットがあるのだ。

スマホを通じて “いかに人々と接点を持つか”

 スポーツというリアルの場における認知拡大の機会を得たメルカリは、すぐに新たな動きを見せる。

 まず、パートナーシップ契約に伴い、アントラーズのホームゲーム及びクラブ関連イベント開催時に限り、JR鹿島サッカースタジアム駅から茨城県立カシマサッカースタジアムに続く道が「メルカリロード」と命名された。

 締結発表後間もない2017年4月8日に開催されたホームゲームでは、全長約16メートルにおよぶ「メルカリウォール」が設置され、限定のノベルティグッズが取り付けられた。すべてのノベルティグッズを取り外すとメルカリからのメッセージが表れる仕組みとなっていたが、9時半に配布開始となったグッズは1時間たらずで、すべてサポーターの手もとに渡った。

取り付けられたノベルティグッズがなくなるとメッセージが出現するもので、サポーターに大きなインパクトを与えた。

ノベルティグッズはTシャツ、リストバンド、サングラスの3種類が1セットになったもので、合計1000セット用意された。

 また、同年9月9日のホームゲームでは、初の冠試合となる「mercari day」を実施し、観戦に訪れたサポーター2万名にオリジナルVRキットを配布した。VRキットをスマートフォンと連動して使うことで、選手バス、ロッカールーム、ウォーミングアップ中の映像など、普段は見ることができないレアな映像が360度VR動画を通じてサポーターに届けられた。

スマートフォンを持っていない人や、VRキットの組み立て方が分からない人向けのサポート体制も整っていた。

 小泉社長は「今はスマートフォンを誰もが持ち歩くようになったため、スマホを通じて “いかに人々と接点を持つか”というのが大事になってくる」と述べている。とくに、試合のない日はファンとクラブの距離が遠くなりがちだが、サッカークラブとファンの間にメルカリが入ることで、アプリと物を通して両者を繋ぐことができるというメリットも生まれる。

 新興IT企業がスポーツ支援する事例は増えつつあるものの、まだ少ない。認知度拡大だけにとどまらず、ユーザー獲得などわかりやすい利益が享受できることを示せれば、さまざまな企業が新たに資本をスポーツ界に入れ、結果として、業界が活性化される可能性が高まる。メルカリの今後の動きとその成果には、スポーツ界の未来がかかっていると言っても過言ではない。彼らが見せるこれからの取組みに、大きな期待を寄せたい。

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