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イントラネット+Excelの管理から脱皮して見えたモノ

九州営業所を全国1位に導いた所長が語る営業目線のkintone活用

2018年06月12日 09時00分更新

 kintone hiveではkintoneのユーザーが実際の活用事例を発表する。テクニカルなものもあれば、簡単なことで現場の意識を変えてしまうような使い方もある。kintone hive fukuokaで聞いたピー・シー・エーのkintone活用は、どちらかといえば後者。たとえば、体重変化を記録するだけのレコーディングダイエットのようにするだけで、担当者のモチベーションは高まるのか?そんな気づきが詰まった活用方法だ。

ピー・シー・エー 九州営業所 成田 和弘氏

印刷業の将来性に不安を感じてIT業界に身を投じた成田氏

 kintone hive fukuoka 2018のトップバッターとして登壇したのは、本人曰く「スキーをやりながら死ねれば本望」というほどスキーが大好きな、ピー・シー・エー(以下、PCA)の成田 和弘氏。他にもスポーツ系の趣味が多いという自己紹介のスライドで筆者の目に留まったのは、家族構成。奥さんにお子さん2人、そしてチワワが2匹。筆者も大の犬好きで多頭飼いへの憧れも強く、ついつい気になってしまった。

 PCAは東証一部上場の基幹業務ソフト開発企業。同社の会計ソフトやERPの利用者は累計で20万社、販売実績は50万本を誇る。そのPCAで営業を担当する成田氏だが、最初に勤めていたのは印刷業だったそうだ。「最初に勤めていた印刷会社では受注台帳も手書き、ITとは縁遠い業務環境でした。そこにWindows 95が台頭してきて、ITが浸透して印刷物は減っていくのではないかという不安を感じ始めます。そこで私は、印刷業の営業から、エンジニアへの転向を図りました。しかしこれはすぐに壁にぶつかりました」(成田氏)。

 成田氏が転職した先は外資系の開発企業。周囲はエンジニアとしてのスキルが高く、英語も飛び交っていた。客観的に見ても、エンジニアとして未経験からスタートを切るには厳しい環境だ。そこで粘るのではなく、印刷業にいたときに培った営業スキルこそ自分の強みだと考えを切り替えた成田氏は、PCAに転職。東京から九州営業所に転勤して2年、営業担当者としての手腕を発揮している。「部下たちのがんばりもあり、私のいる営業所は全国でトップの業績を上げています。業績向上には、kintoneの力も借りています。今日は、営業の観点からkintoneの活用を語りたいと思います」(成田氏)

営業情報をExcelからkintoneへ移行、履歴を追うのも容易に

 PCAは400名弱の企業で、開発者が中心の企業。パートナーを通じた販売がメインだが、全国12拠点ではタッチ営業や導入後のユーザー支援に当たっている。サイボウズとのつきあいは長く、PCA全社でガルーンを使っているとのこと。ガルーンのいいところもいくつか挙げて紹介されたが、話題の中心はkintoneだ。

 同じ会社の営業所であっても、マネージャーによって業務の管理方法は違う。他の多くの企業同様、営業の進捗状況をExcelで管理するマネージャーが多いようだ。成田氏の前任者は特に几帳面な方だったそうで、多くの情報をExcelに残してくれていた。

転勤した先にはExcelがいっぱいだった

「Excelは業績数値などを可視化して報告書を作るにはいいソフトです。しかし、管理業務に向いているとは思えません。どれが最新のファイルなのかわからなくなったり、同時に複数の人が入力できなかったり。私のように業務を引き継いだ立場からは、どのファイルがどのサーバーのどのフォルダに置かれているかわかりにくいという問題もありました」(成田氏)

 この状況を成田氏はひとつひとつ、kintoneを使って部門最適化していった。

 たとえば、それまでExcelで行なっていた顧客管理をkintoneへと移行した。顧客情報やPCAの営業担当者の情報を管理するだけなら、Excelでもできる。しかし成田氏が九州へ転勤してきたように、営業部門は異動が多い。現在の営業担当者はわかっても、導入当時の営業担当者が誰だったのかという履歴までExcelで管理するのは容易ではない。

「たとえば、4年前に導入したユーザーさんから急に問い合わせがあったとします。こちらの担当者は変わっているし、ユーザー企業さんの窓口担当者も変わっていたりします。お互いに導入時のことがわからないまま話をするのは、とても非効率です。その点、kintoneでは意識することなく履歴を残せます。変更履歴をたどれば導入当時の担当者はわかりますから、電話やメールで当時の状況を聞くことができます。これだけでも、効率は大きく変わりました」(成田氏)

 営業現場に立つ社員の管理にも、kintoneは役立っている。取扱商品が基幹業務に関わるものなので、会計や給与計算などの専門知識が求められ、会社では専門資格の取得を推進している。ほとんどの営業所で、約4割の営業担当者が専門資格を取得済みだそうだ。これをさらに高めようと、成田氏はkintoneに資格取得者リストを作った。

必須資格の取得状況もすぐに把握できる

「九州営業所では、誰がどの資格を持っているのかを可視化して、皆が把握できるようにしました。すると、試験前に先輩従業員が後輩に勉強法を教えるなど、資格取得への姿勢が変化したのです。その結果、資格取得率は昨年7割、今年は9割近くにまで高まりました」(成田氏)

 他の営業所と比較して、資格取得者の割合は2倍以上。気軽に情報を共有できるkintoneの存在も大きいが、有資格者を可視化しただけで、従業員の意識の変化を引き出した成田氏の手法に脱帽する。

イベント集客、パートナーとの連携、自社製品との連携などkintoneを「まるごと」活用

 日常的な業務だけではなく、kintoneはイベント集客にも活用されている。1年に2回開催される自社イベントの集客、これも以前はExcelで管理されていた。営業活動の合間にExcelを開いて、イベントの案内ができていないユーザーをチェック、その企業に電話をかけてイベントへの来場を促す。難しいことには思えないが、実はいくつものハードルがあった。

「社外にいるので、まずイントラネットにリモートアクセスしなければなりません。そして社内のファイルサーバにアクセスして、イベント案内用のExcelファイルがあるフォルダまでたどり着きます。さてファイルを開こうと思ったら、誰かが編集中でロックがかかっていて開けない。この瞬間、心が折れて集客活動のモチベーションが一気に下がるんです」(成田氏)

 これをkintoneに移行してからは、リモートアクセスなど気にすることなくインターネットにさえつながれば、最新情報をチェックできる。ちょっとした空き時間に調べて、まだ案内していないユーザーに電話をかけ、その結果をkintoneで共有する。

kintoneの利用効果

「簡単に情報共有できるというだけでなく、同時に同じ情報にアクセスして入力できるというのは、小さいことに見えて実は大きな利便性をもたらすんですよね」(成田氏)

 これも有資格者の可視化と同じように、ちょっとした機能で従業員のモチベーションを高める視点が生きている。現場でアプリを作れるkintoneの特徴をうまく生かした例と言えるだろう。このようにkintoneをうまく活用して従業員のやる気を引き出し、九州営業所は昨年全国2位、今年は全国1位の業績を上げた。今後もkintoneを営業活動に生かしていくつもりだと成田氏は言う。

 「プラグインも活用して、売上向上につながるような使い方をしたいなと考えています。営業ステータスを可視化して、商談につながる訪問を増やして行く。何度も呼ばれているけれど売上につながっていない訪問先が見えるようにして、営業活動を効率化していきたいですね」(成田氏)

 kintoneの今後の活用展望は、営業所や社内に留まらない。パートナーとの情報共有にもkintoneを取り入れて、現在はExcelやメールでやりとりしている営業状況をkintoneで共有していきたいと語る。また、自社商材の魅力を高めるためにもサイボウズ製品に熱い視線を向けている。企業で使われるITを成田氏は基幹系、情報系、セキュリティ系と大きく3つに分類。これまでは切り離されて考えられていた基幹系と情報系をうまくミキシングすることで、強みを発揮する企業が増えていると営業現場の感覚から語る。

「PCAは基幹業務ソフトを作っているので、ガルーンやkintoneなどサイボウズの情報系システムとうまく連携させて提案していきたいと考えています。会計情報などは広く共有できないので、基幹系で管理し、その情報を生かした将来的な売上予測などを、情報系で共有していく。そんな組みあわせを考えています」(成田氏)

情報がつながると企業は強い

 PCA製品のクラウド移行を進めていくためにも、APIなどで他製品と連携しやすいサイボウズ製品に期待を寄せているようだ。営業所にいる従業員のモチベーションアップから、パートナーとの連携、自社製品との連携まで、「まるごと」のタイトルに偽りのない事例発表だった。

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