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Oculus GoのRoomsはなぜ凄いのか?

2018年05月26日 09時00分更新

文● 遠藤諭(角川アスキー総合研究所)

Oculus Goと私のヘルムホルツ共鳴器たち(日本スリービー・サイエンティフィック株式会社の製品)。ビール瓶の口に唇をあてて吹くとボーッと音がするのはヘルムホルツ共鳴というのですね。これら共鳴器の周波数は小さいほうから約1400Hz、約1117Hz、約760Hz、約480Hz。

ヒトはそもそもVR的に世界をとらえている

 19世紀ドイツの物理学・生理学者ヘルムホルツが、とてもVR(バーチャルリアリティ)的な、コンピューターサイエンス的なことを言っている。

 ふだん人間の視線はとても忙しく動いている。網膜から入ってくる視覚情報を映像としてとらえるとビデオカメラを無造作に動かしたようなめまぐるしくて見るに堪えない絵になるはずだ。ところが、見ている本人には世の中がシッカリと地面に結びつけられているように安定して感じられるのはなぜか? よく考えると、これはとても不思議なことである。

 ヘルムホルツは、これについて眼球の筋肉に出される指令のコピーが、視覚中枢にも送られるのだとしたそうだ。ヒトの脳みその中で、視覚情報に対して視線の動いた分を逆算して座標変換を行われている感じである。VRの場合は、これを裏返したような感じで頭の動きから座標変換して世界を安定してみせている。

 ヒトの脳と視覚は、よくできたVRシステムようなものなのだ(だからVRは人を引き付けるのだとも思う)。

ヘルムルツの説とVRヘッドセット(スタンドアロン型)。

Roomsでママと赤ちゃんの関係を体験せよ

 前回に続いて、Oculus Goの話である。価格が2万3800円とリーズナブル、PCとの接続が不要、おまけに解像度は現行ハイエンド機種以上(リフレッシュレートは劣り位置トラッキングがないなど得意不得意はあるが)という画期的なVRヘッドセットである。まわりに取材してみるとVRを使ってきた人ほど熱く語っている。

 「NETFLIXを見るのがなかなか具合がよい」と前回書いたが、とてもVR的な部分でもOculus Goには発見がある。多くの人たちが指摘しているのが「Rooms」というアプリが凄いという話だ。

 Roomsは、仮想空間にある部屋に友だちなどを招いて、一緒に喋ったり、映像や写真を見たり、テーブルでゲームを楽しんだりするというものだ。最初、私はほんのちょっとだけ触ってみて「なんだつまらないなぁ」と思った。ところが、海外出張中の人から「打ち合わせをするならSkypeじゃなくてRoomsでやりましょう」と言われてやってみて驚いた。Oculus Goのセミナー(後述)のための打ち合わせとはいえ、これがすごい説得力がある。

Oculus Roomsの部屋の中。熱海の旅館にいるような感じのゲームテーブル(左)、メディアアリア(右)

 それがどんなものかは、清水亮氏の「Oculus Goのことを人類はもっと真剣に考えるべきかもしれない :情熱のミーム」がよく伝えていると思う。つまり、ソフトがやり過ぎていない。それが、Oculus Goという「VRの受話器」とでも言いたくなるような超お気軽に使えるVRヘッドセットでやるときに、とてもいい感じで馴染む。

 4人までの参加者はサングラスをかけたアバターで、上半身とコントローラを持った手でしか表現されていない。仮想空間のお部屋で座れる場所も固定されている。ただし、頭の動きや顔の向きや、ちょっとした手の動きは正確に反映されているのだろう(声も距離感を反映した形で聴こえる)。この記号化された環境で“何か”が起きている。

 これ、人と人が会話したり見つめあったりしていると無意識のうちに動きが同期する「エントレインメント」(体動同期現象)と関係しているのだと思う。この言葉、ママと赤ちゃんが見つめあうことで生ずる現象としても説明される。そういうときに、脳は空間を越えた見えないネットワークで繋がって、“ヒト”が一人でいるよりもクリエイティブな状態になる。

 こういう話、私はとても好きなのだ。そして、誰もが理屈では「?」だとしても実感していることだと思う。Oculus Goは、ベーシックなVRヘッドセットであるからこそ、VRと人間の生理的な部分の関係を感じることができる。

「Oculus Go買いましたか?」というセミナーやります!

 ということで、Oculus Goに関するセミナーを開催させてもらうことにした。こんな端末が出てきたときこそ、VR市場やその先にどんなコンピューティングの未来が待ち受けているのかスッと見えそうだからだ。6月12日(火)開催の「Oculus Go 買いましたか?〜スタンドアロンVR時代の新常識」である。

 講師は、これを語るのにベストな高橋建滋氏(株式会社桜花一門代表、NPO法人オキュフェス代表)とGOROMan氏こと近藤義仁氏(株式会社エクシヴィ 代表取締役社長=当日Roomsにて出演)のVR業界で活躍されるお二人、コンテンツサプライヤーの立場から山本弘毅氏(合同会社DMM.COME C&デジタルコンテンツ本部本部長 動画配信事業部/電子書籍事業部 事業部長)、テレビにデジタルの仕掛けを持ち込んでいる安藤聖泰氏(株式会社HAROiD代表取締役社長)だ。

 なお、このタイミングだからこそ、いまからVRコンテンツに急ぎ参入したい方のためのガイドも語っていただく予定だ。ご興味のある方は、コチラからどうぞ。

6月の角川アスキー総研のセミナーはどれも注目

 AI、ディープラーニング、メディア関連を中心にセミナーを開催してきた角川アスキー総研だが、6月も、この路線でOculus Goのセミナー以外に4つのセミナーを開催予定だ。

 6月16日(土)は、Python入門書の定番「みんPy」こと『みんなのPython』の著者、柴田淳氏を講師に「人気Python技術書の著者が教える【正しいプログラミングの学びかた】〜プログラミングで仕事・人生をハックしよう〜」を開催。jupyter notebookを使ったインラクティブ教材とペアプログラミングを採用することで短時間で効果的な学習ができる。いちばん分かりやすい講師に、Pythonの基礎からAI・機械学習・ディープラーニングの理解と活用を学んでいただきたい。

 同じ6月16日(土)には、「再開!!【ディープラーニング入門6時間集中講座】〜未来の「常識」を基礎から学ぼう〜」も開催。2016年から昨年にかけてリピート開催した丸山不二夫氏によるこれも好評の講座である。

 6月22日(金)には、「商人としての編集者 〜『うつヌケ』担当編集者から学ぶベストセラー戦略〜」を開催。角川アスキー総研として、出版をテーマにしたセミナーは、2014年5月にnoteのスタートとほぼ同時に開催した「個人向けメディアプラットフォームnoteから見えるメディアの未来」以来だ。今回も、出版の環境変化を強く感じるものがあって開催させてもらう。講師は、菊地悟氏(株式会社KADOKAWA 文芸局 学芸ノンフィクション編集部 角川新書 編集長代理)。

 6月25日(月)には、境治氏(コピーライター/メディアコンサルタント)のプロデュースで、「20XX年テレビの行く先 ~放送改革論議はどこへ向かうか?~」。こちらは、今年3~4月にメディア業界を騒がせた「放送法改革論議」を振り返り、規制改革推進会議が5月末にまとめる答申を確認することで、テレビというメディアの行方を冷静に議論しようというものだ。

 私は、総合司会の立場での参加だが、テレビのような強いメディアは必要という考え方の持ち主で、これの変化は経済にも文化にも大きな影響を招くと思っている。個人的にもとても興味のあるセミナーをやっていただけて嬉しい。


遠藤諭(えんどうさとし)

 株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。月刊アスキー編集長などを経て、2013年より現職。角川アスキー総研では、スマートフォンとネットの時代の人々のライフスタイルに関して、調査・コンサルティングを行っている。著書に『ソーシャルネイティブの時代』、『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著、アスキー新書)、『NHK ITホワイトボックス 世界一やさしいネット力養成講座』(講談社)など。今年1月、Kickstarterのプロジェクトで195%を達成して成功させた。

Twitter:@hortense667
Mastodon:https://mstdn.jp/@hortense667


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